第308話 101層①

「と言う訳で諸君は僕を打倒したので100層攻略成功でーす!おめでとうございまーす!」


4人のうち、最後に俺がアルスを倒した。

もう嫌になって倒されてくれたのかもしれん。まあそれはいい。


おめでとうございま~す!ドンドンパフパフー!ってな具合に効果音が鳴りそうなくらいのテンションだったが、勿論そんなものは無い。只々、あるのは疲労感くらいのモノだ。


「で、101層には何があるんだよ」

「…ボスがいて…倒すとアイテムだよ。神にも通じるアイテムさ」

「ほう、そりゃいい」

「ああ、ついでに…僕の剣を貸して」

「ん、これか」


ユグドラシルに保管されていた勇者の剣を渡す。

錆び一つない…ことは無い。細かいところは結構錆び錆びだ。

樹の中は割と湿気があるからな。海水に漬けたりはしてないだろうけど魔物も魔族もバッサバッサ斬ってただろうし。手入れが悪ければこうもなる。むしろよく2000年近く持ってたモンだ。


「よくこんなに長い間折れなかったものだな…」


感慨深そうに剣を見つめたアルスはおもむろに自分の手を斬り、その血を剣に染み込ませた。

そしてグロードの指先も少し斬り、血を剣に与える。


途端に光り輝く剣。

ギラギラした嫌な光じゃない。

柔らかく、包み込まれそうな…気持ちのいい光だ。


「これで良しだ。じゃあグロード君にはこれをあげよう」

「は、はい!」


まるで王が騎士に下賜するように。

アルスが差し出した剣をグロードは跪き、恭しく受け取った。


いいなあ。

あの剣カッコいい。俺も欲しい。


「あのさ、俺にも何かない!?」

「カイトズルいぞ!私にも!」

「儂には!?」


3人でごねたけど特に何も無し。

アルスは苦笑いをしながら消えていった。







「いやあ、カッコいいなあ。伝説の剣だよ。絵物語で見たそのままだよ。見てこの輝き!なんつーか眩いって感じじゃないけどさあ、清くって癒されるような輝きだろ?ウヘヘ」

チッいいですねクソが羨ましいです

「一人だけズルいのではないか?」

「儂らだって倒したのに…」


一人喜ぶグロードと、反対に何も貰えなくて微妙な3人。

レベルは上がった。

激闘だったからか、格上だったからか…レベルは上がったのだ。

でもそれだけじゃな…カレー代も貰ってないし。

何より、一人だけ明らかに良さそうな武器をゲットしたわけだ。


元々ジジイの所ユグドラシルに保管してあった物なのだし、俺やアシュレイにも所有権があるんじゃないか?とか思わなくもない。アルスに勝ったのもアシュレイが最初なんだしさあ。

グロードだけ勇者だからって、子孫ぽいからって優遇しすぎなんじゃないか?何なら俺らだって2000年も遡ればチョコっと混じっててもおかしくないんだからさあ。そのへんどーなのよ?ってな感じである。


そんなこんなでウッキウキのグロードと微妙な顔の3人は101層に入った。

そこには大きな扉があった。


「入れって事なんだろうけどなあ」

「嫌な予感がするな」

「あー…強いんだろうな」

「楽しみだな!」


楽しそうなのはアシュレイだけだ。

他の3人は少しげんなりしている。少し天狗になった鼻をアルスに叩き折られまくった後なのだ。

それに、ここで出てくる相手なんてどう考えても強いじゃん…



「また巨人かな」

「ドラゴンじゃないか」


それにしてはこの…なんというか威圧感が凄い

扉の向こうから伝わってくるこの圧迫感というかなんというか。


「やめとくか…?」

「なんだ、怖気づいたのか?」

「だらしないな、魔王様も」

「カイトらしい。こ奴は昔からビビりで…」

「うっせ」


らしいってなんだ。

ビビリじゃねえやい!


「やったらあ!行くぞ!」

「おう」


扉をドカーンと蹴っ飛ばして開ける


「たのもーう!!!」

「たのもーう!」

「たの…?俺らもするのか?」

「儂等はやらんでいいだろう」


そこに居たのは小柄な人?少なくとも人型の…魔族かな?羽がある。


「たのもーう?あれ?」


返事がない。今まで上層だと皆が会話に応じていたような気がするが…ああ、あれはソロだからか。

アルスとのんびり戦っていたからそんなことも忘れていた。

じゃあこいつは一般のボスか。よし、サクッと倒そう。


あれ?と思うとそのモンスターは掌をこちらに向けた。


「!!!避けろ!」

「わっ!」

「ぐえ!」


声とともにアシュレイを反対側に突き、後ろにいたグロードの顔面を蹴り飛ばす。

そして俺とグロードの頭があったところを閃光が貫く。

見たことがあるから反応できた。

これは…教皇が使っていた技だ!


『&s▽l;●§?m…?』

「すまん、大丈夫か?」

「ああ…」「いてえよ」

「カイト殿は今のを見たことがあるのか?」

「ああ…教皇が使っていた技だ」


教皇が、一撃でジジイとマークスに致命傷を与えたあの技だ。


『んん…あー、あー?こうだったかな?分かるかね?諸君』

「…ああ。」

『久しぶりの来客だ。以前にここに来た者は…いつだったかな?』

「1000年くらい前じゃないのか?」

『ん…?そこまで昔でもない。我を倒したものは今までに二人のみだが…倒されたものは何十といるぞ。だが、先ほどのあいさつで死ぬような弱者とは会話もしないことにしているのだ。ふふふ』


それでも何十、か。

1000年以上の歴史を持つ塔で、何十人…まあ普通はソロで80層、パーティーでも90層まで行くやつは稀だ。

マークスはジジイだが、奴の知っている限りでもソロ80層は数名の強者のみ、パーティー90層ならもっと数は多いと聞いた。いろんな文書で調べてみても大体そんなのだった。

が…パーティーで90層に登れる強者が90層の装備を揃えてもソロ80層はきつい、らしい。


そういうの先言ってくんないかな?アシュレイを蘇らせてから聞いてもさ…苦労してた時に言ってくれりゃいいじゃんね。まあそうマークスに言えば『カイト様には特別なお考えがあるのかと…』って返された。畜生。


『では始めようか。ああ、自己紹介が先がいいかな?私は始の守護者にして終の神子、リシゾデーアだ』

「カイトだ。こっちは…アシュレイ、グロード、ガクルックス」


雑な紹介である。

いいんだよ。相手もなんだか中二病みたいな自己紹介なんだから


『うむ、覚えた。楽しみだ。さあやろう』

「あー、ちょっとその前に質問なんだけど」

『何だ?』

「さっきの技、他にもやってるやつ見たことあるんだけど…同じ師匠か何かか?」

『ふうむ…では、私に勝つことが出来れば教えて差し上げよう』

「結局こうなったか…やるぞ」

「おう!」

「望むところだ」

「楽しそうではあるな…」


どうしてこんなにバトルマニアばかりが集まるのか。

そう思うが、俺も正直なところ…強敵と戦う事にワクワクしていたりする。

同じ穴の狢だ。



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