第241話 ご挨拶

空の旅はやはり早い。早くなった。


徒歩で1か月以上かかるかという道のりを半日ほどで飛び終えた。

途中の休憩も1回だけ。

マジックバッグから敷物と食料を出し、その辺の樹で机と椅子を作ってみんなで休憩したらそれで終わりだ。


俺とアカはその休憩の時に小便を済ませたが皆はどうして…気にしてはいけないな。

聞くのも多分アウトだ。


ワンチャンアシュレイになら聞いてもいいかも知れんとは思うが、幾ら深い中になったとはいえ礼儀という物はある。一国の姫に向かって「お前ちゃんとトイレ行ったか?」とは俺も聞けないのだ。


という訳で休憩時間を挟んで伯母上の待つ、アークトゥルス城に着いた。

ちゃんと前々日に先触れを出しておいたからさすがにもう報告は行っているだろう。



という訳でお城の中庭にちゃんとアカが降りられそうなスペースを開けてくれていた。


「アカ、あそこ降りよう」

「おー!」


すい~っと滑るように中庭上空に移動し、そのまま静かに着陸した。

離着陸も自然で、全く心配する要素が無い…そんな安定感だ。ううむ、大人になったなあ。

…というか今から思えば柴犬のようなドラゴンに強引に乗ってた時代がおかしかったんだな。そりゃ大魔王様も何とも言えん反応するはずだわ。



「アシュレイ!」

「母上。…母上、どうもご迷惑をおかけしたようで…?」


子の名前を呼びながら抱きしめる親。

感動的な光景だが、片方は時間が止まっているので感覚的には精々3日会ってない程度。

親の方からすればおよそ10年ぶりの我が子との再会だ。なんつーか温度差にずれが…まあ俺もそうだったんだろうな。人の事は言えん。


「アシュレイ…大きくなって…?いえ、あの日のままね。カイト殿、娘がお世話になりました。」

「いえいえ」

「こんなに大きくなって。ああ、あの人に見せてあげたいわ。」

「…私の大きさは変わっていないと思いますが?」

「いえ、そうですね。でもなんだか大人になったような???」

「大人に…?アッ、そうですかね?えへへ」


んん?って反応の女王はこちらを向いて成程、って顔に変わった。

うんうん、バレたなこりゃ。


「…カイト殿、娘がお世話になったようで」

「アッはい。」


先ほどとは全く違う意味の『お世話になったようで』。

母親ってのは鋭い。いや、女は鋭い、なのか?






「婚約も以前にしていましたし、結婚は素晴らしいと思います。何なら子供を作っちゃってもいいとも言いましたけど…折角生き返ることが出来たのだから、先に私に顔を見せてくれても良かったのでは!?」

「ハイ」

「随分長い事別れていたのだし、カイト君が盛り上がってしまったのも分からなくはないと思います。でもそれにしても順序というものがあるでしょう?」

「ハイ」

「すまない。それに関しては我々も…」

「マリラエール様、この二人の事を応援してくださったのはありがたいと思いますが、貴方も…はあ。まあこの辺でいいでしょう。どうせ遅かれ早かれこうなると決まっていたようなものですしね」

「はあ」

「えへへ…」


復活!!!

アシュ・レイ復活!!!!


…とばかりにお祝いになるかと思ったが案外そうでも無かった。

伯母上の熱烈なお出迎えは猛烈なお説教になったのだ。

まあ頭ハッピーセットな俺らには大して効かないが。フッ。


「…はあ。まあ浮かれ切ったお二人さんにはあまり効果も無いようですし、もういいでしょう。さあいらっしゃい。お祝いのパーティーを準備してあります」

「はーい。じゃあまた後でな」

「おう」


去っていこうとする伯母上とアシュレイ。

執事のオッサンに案内されようとする俺ら。

そこで伯母上は俺らについて行こうとするアフェリスに声をかけた。


「何やってるの?アフェリスもこっちへいらっしゃい。貴方もお疲れさまだったわね」

「うん…」

「カイトの領地はどうだったの?」

「あのね、たの…楽し、かったの。これみて?」

「奇麗な布ね。カイトの領地で作ったの?」

「わた、私が、織ったの!」

「まあ…」


ちょっとそこらじゃ見ないくらい上物の布だ。

越後上布を再現するために何種類もパターンを試し、俺たちはついに青苧を超えた。ような気がする。


青苧を超えた(ドヤア! なんて言ってみたが、そもそもの事を言えばどれが青苧か未だに俺にはわからん。

何となく葉っぱが麻とは違うってのは分かる。

じゃあ聞くけど、お前らそもそも麻の葉っぱがどれか分かってんの?である。


現代日本でこれが麻だよってはっきり言える人は、繊維産業にかかわっている人以外は逮捕スレスレの事をやっている人が殆なんじゃあないか。後は逮捕する側か。

フツーに生活してればどれが麻でどれが苧麻で青苧で亜麻で…分かるか?

むしろ分かるワケねえだろ!



そんなどうでも良い事を考えているうちに伯母上は布を大事そうに持ち、反対の手でアフェリスと手を繋いで館に入っていった。

で、残された俺と師匠とアカは執事に誘導され、途中で師匠ともお別れした。

別々の部屋でパーティーの準備をするらしい。ほーん?


着飾って奇麗になって出て来るんだろうな、なんて思っていたがそれは俺もだったようだ。


「ではこちらに」と案内された先は風呂場。

朝でかける前に風呂に入って…という前に放り込まれ、メイドさんに全身をゴシゴシ洗われた。

まったく興奮しない。よく知るオバちゃんにモノのように雑に洗われている。


アカも同様にメイドさんによって全身を洗われている。

アッチは若いお姉さんだが、泡塗れですんご~く嫌そうだ。

この石鹸はうちの領で作った奴かな?と思ったが香りは柑橘系の香りが付いているからこっちで作った奴か。


いい加減柑橘くらいいい感じで育つような土地に引っ越そうかとも思う。

でもヴェルケーロはもう思い入れもあるし開発も進んでそこらの都市より住み心地はたぶんいい。

新しい所って言っても開拓もまたやんのかよだし、町割りを考えるのも楽しいけど面倒だ。

だからって古い街並みの所に引っ越すとゴミゴミしてたりしてちょっと微妙だし…って贅沢なことを考えているうちに風呂は終わり。お着換えの時間になった。


最近勉強したが、嫌な時間は考え事をしているうちに終わるのだ。

だからなされるがままになっている時間は色々妄想していれば勝手に終わる。

でも洗われている最中にエッッッ!な妄想だけは危険だ。

あらあらまあまあ。になっちゃうからな。

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