第180話 飲み会

ギロンヌ殿たちと合流して無事に城内へ帰還した。


防衛の方は大したことはなかったと報告を受けた。

砲撃の直撃で犠牲者は出たし、砲撃後のに突撃されて受け身になった戦闘ではこちらの城壁がかなりやられていたのでそれなりに被害が出た。頭の上を砲撃が飛ぶ状態じゃ確かに防衛もままならないだろう。

だが、俺たちの強襲後には逆に押し返してさらに追撃をかけてボコったようだ。割と整然と引いたのでそれほどの被害は与えられていないだろうけど…


怪我人の大半は治療可能だった。

死んだ奴には悪いが少しの被害で済んでよかったと言うしかない。

ケガ人が○○人、死者が〇人、と数で数えてこの程度でよかったと思うあたり、俺も随分染まってきたものだと感じてしまう。


戦闘から帰ってきたあとで着弾した民家を確認したところ、残っていた弾丸は丸い鉛だった。やはり爆発するようなタイプの砲弾ではなく、鉛玉だった。いや、探せば鉄の球も混じってるかもしれん。もしかすると石弾も砕けてしまっているだけで混じっていたかもしれない。そこら辺はまだ何とも言えないが、椎の実型で中に火薬があって、というようなタイプではないようだ。


まあこう言うタイプの大砲はかなり昔の…日本で言えば戦国末期に家康が大阪城に大砲を打ち込んだ、そのくらいの時代の代物じゃないかと思う。さすがにもう少し進んでるのか?分からんなあ…


上空から砲を見たが、かなり長大な鉄の筒だった。コマが付いて転がせるようになってはいたものの、大きくて襲う側からは狙いやすい砲だ。


ここから段々改良されて薄くて軽い、そして射程の長い…ってなっていくのだとは思うが、何せ俺も昔の大砲の現物なんて見たことないから良く解らんわ。

ましてやそれがいつの時代のどんな性能の、何てことはさっぱり分からないのだ。


ただまあ言えることは、丸い鉄球を飛ばすものだったという事だけ。

これがもっと進化するといわゆる砲弾の形の…椎の実型になってライフリングが付いてとか、それから着弾と同時に火薬が爆発するようなタイプになるのだろう。


そこまで科学力が進んでしまうと、もう魔族が強いとか硬いとか、そんなのじゃどうしようもなくなってしまう。防御面をどう強化しても無理だから、やられる前にやれ、先制攻撃で敵基地強襲能力を持った兵器がって話になって…


アカン。どんどん物騒になる。

終いには核武装とかって話になってくるな。


でも問題は俺が考えても考えなくても、やってもやらなくても相手が核を打ち込んでくる可能性もあるわけだ。まいったなこりゃ。






「なかなか見事であったぞ、カイト。それにアカも」

「カイト殿のおかげで被害は最小限で済みました。お礼申し上げます」

「もっとほめていいぞ!」

「アカ!…いえ、お礼を言われるほどでもありません。ギロンヌ殿たちが敵の天馬部隊を抑えていて下さったおかげです。アレに邪魔されては上手く砲を壊すことはできなかったでしょう。」

「我らは任務を果たしたまでの事で」

「それを言うなら私もです。」

「まあ、兎に角上手くいって良かったという事で。両名も、それから飛竜隊の諸君もよくやったぞ」

「「ハッ!」」


帰って報告すると師匠に褒めてもらった。

俺も嬉しいし飛竜隊のみんなも満足気だ。

作戦が上手くいって良かった。

という訳で後は…




「乾杯!」

「かんぱ~い」

「うはは!さけ!にく!」


師匠に褒めてもらった後、ギロンヌ殿たちと勝利のお祝いと称して一杯やることになった。

と言っても俺はまだ酒はダメだ。なんと言ってもこの低身長。

なかなか大きくなれないというのも困りものである。


酒がどうだったかはちゃんと覚えていないが、タバコは成長に良くないとされている。

どちらも体を大きく育てるのに邪魔に…なるかどうかはよくわからんが。

まあ碌なもんではないだろう。という事で自分基準で大人になったなと思うまで我慢である。ただまあ本当にそうか?酒タバコやらないだけで背が大きくなるのか?って気はしなくもない。けどまあ一縷の望みをかけて我慢だ。


でまあ、いろんな話をギロンヌ殿たちとした。

竜騎士の彼らも厳しい体重制限があり、それほどドカドカと食べられないのだと。

という訳で祝勝会は食べ物は控えめ、お酒も控えめの可愛らしいものになった。


「カイト殿は普段どのような修行をされているので?」

「おれは普段…農業とダンジョンですね(キリッ」

「は?農業?」

「はい。戦い方の師匠は…マリラエール様と旧リヒタール騎士団の面々ですかね?」


ギフトの話はあんまり大っぴらにするものではない。

という訳で俺の普段の生活を考えると。

領主としての(書類)仕事はマークスにほぼ丸投げにしている不良領主であり、専ら現地で働いている。農地や鉱山の開発、それに新製品や新技術の開発のほかはダンジョンに行くくらいだ。

あとは朝の修行と称してマークスとロッソにしごかれる程度はある。


これは親父と一緒に暮らしてた頃からそうだったし…あんまり修行とか訓練とかいう感じは無くなってしまっているが。よく考えたら幼児虐待とかブラック修行とか。

何だかよく分からない単語が頭をよぎる状況ではあるな。


「…とまあそんな感じです。」

「なるほど。マークス殿やロッソ殿に毎日扱かれていると言うなら納得です」

「あいつら有名なの?」

「無論ですとも。“拳聖”マークスに“巨壁”ロッソと言えば近隣にも響き渡るほどの武人です。双方とも嘗ての武術大会で優勝経験をお持ちの筈ですな。魔界でも選りすぐりの強者ですぞ」

「ほー?」

「ご存じなかったので?」

「ええまあ…」


アイツ等なーんかやたら強いとは思ってたんだよな。

アカとペアだとは言えダンジョン75層を突破しても、俺がまだ対等に戦えている感じは無いし。

なーんかおかしいと思ったんだよな…


「所でウチの親父はどうなんですか?」

「ガンドルフ様ですか?ガンドルフ様はアークトゥルス魔王様たちと供に久遠の塔95階層を攻略されたと伺っております。コレは今までの最高記録ですな。」

「ほー。さすがにやりおる」

「やりおる…?その数年後には個人でも80層を攻略されたとのことですが」

「へー…って80層攻略したんだ?ソロで?」

「そう伺っておりますが」


この時の俺は後で聞くとかなり狼狽していたようだ。

親父が80層をソロクリアした。

ならば何故?

何故俺の母親が生き返っていないのか?

他に叶えるどんな願いがあったというのか。

それとも何かの事情で母親は生き返らせられなかったのか…


俺には答えが出ない。

答えが出ないままいつの間にか飲み会は終わり、気が付いた時には昔使っていた子供部屋で寝ていた。


…あとで聞くと、間違って飲んだ酒でぶっ潰れた俺をアカが引っ張って運んでくれたそうだ。

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