第152話 試射


「ところでカイト。敵の鹵獲品だが…この武器を知っているか?」

「…銃ですかね。俺の知っている型とは少し違いますが」


飯を食べ終わり、夜になって伯母上たちも帰ってきた。

そしてその翌日、鹵獲品の検品に行くことになった。


焼け残っていた大きな商会の倉庫にとりあえずきれいな状態の物を運び込み、入りきらない物は外に積んである。

外にあるのは大半が焼け焦げた剣や防具、食べても大丈夫なのか心配になる食料だ。


中に入るとそこそこ奇麗なものがある。

撤退中の部隊を襲った伯母上が鹵獲したものだ。

まだまだ大丈夫そうな剣、弓、槍。そして血糊の沢山ついた鎧…


こういった武具は所謂落ち武者狩りでゲットすることが多い。

今回は周辺の住民は殆どが避難していたが、後方にある小さな集落には残っているものも多い。そちらに避難して戻ってきたものも。そいつらがリヒタールの惨状を見たら落ち武者狩りをしても何の文句も言えないだろう。


勿論、俺も何も言わない。

落ち武者は放っておくと盗賊になって平和に暮らしている人々を襲うからだ。

ゆえに悪即斬である。


そして剥ぎ取った武器や防具を軍や商人に売りつけ、金や食料と引き換えにする。

勿論、平穏な暮らしを奪われたことに比べれば採算は合わないが…まあこれくらいしないとやってられないだろうなあ。


そして俺が今見せられているのは銃だ。

火縄銃として博物館で見たことのある型とは少し違う。

でもかなり改良が進められた型だとは思う。


初期の縦笛のような何かとは全然違う。

銃床があり、肩当に出来る部分があり…そして着火機構は火打石を使ったタイプ。いわゆるフリントロック式とかいうやつだ。


日本の火打石じゃ着火しないことが多かったから日本は火打石じゃなかったとか聞いたことある。人間界の火打石は良い火打石なのだな。

弾は前装式か?映画で見たショットガンみたいに後ろからパカッと開く所が無いから前装なのだろうな。


あー、でもどこかに後装式や下手すりゃ雷管付きの、いわゆる『銃弾』が転がってる可能性もある。

後で探してみよう。


ほうほう。ふーん?と検分していると、師匠と伯母上がジーっとこちらを見ている。


「お前はこれが何か分かるのか?」

「分かります。銃ですよ。それもかなり進んだ形の…あれ?銃って見たことありませんでしたっけ?」

「私は無い。アークトゥルス女王殿はどうか?」

「私も有りません。何故カイト殿は知っているのでしょう」


なんでやろね?ハハハ…と誤魔化す。


「銃があるという事は…えーっと…これか?」


ゴソゴソと戦利品を漁っていると弾っぽい丸いのが出て来た。

ついでに黒い火薬っぽい粉もだ。

これが黒色火薬だと思うんだけどな。クンクンしてみると花火と同じような臭いだし。

少しだけ手に取って火魔法で着火すると燃えた。うん、黒色火薬だ。


じゃあ試しに撃ってみよう。

とは思うが火薬をどの程度入れたらいいかよくわからん。

母指頭大(親指)くらいでいいだろうか。サラサラっと入れて固める棒がどこかに…あったあった。

ああ、ここにセットできるのか。

トントンして。

んで銃弾を持って。


「これで大丈夫なはずです。ちょっと外で試し打ちしましょう」

「おう」

「はい」


ゾロゾロと見物人を引き連れて人の居ないところへ。

樹魔法で適当に人型の的を作り、後ろには壁を。


見物人は危なそうなところからは排除して。


弾を入れてトントンして、棒を銃身の下に戻して。


膝立ちになって、肩当で固定して。

良く狙って…?

わかんねえ。狙えてるのかこれ?ええい!いけ!


『ドン!』


結構いい衝撃が来た。そして煙が凄い。

前が煙で見えない。こりゃ酷いな。


「ゲッホ…酷いなこりゃ…当たってるか?ロッソ?」

「的は特に変化在りません。壁には弾が少しめり込んでいますな」

「外したか…まあしゃあない。はじめて撃つんだしな。」


いわゆるライフリングの無い滑空砲だと思う。

ライフリングは…良く解らんけどまっすぐ飛ぶようにするためのものだ。

それが無いと弾は適正な回転を得られず…いわゆる野球でいうフォークやナックルみたいになる。空気抵抗でまっすぐ飛ばないわけだ。


まあ、当てる方が難しいって言われてる奴だ。しょうがないな。

20m程度の距離で人型の的に当たらん。練習すれば少しは変わるだろうけど…


「うん、色々言いたいことはあると思いますがこれが銃です」

「外れたな」

「そうですね。師匠も撃ってみますか?」

「お、そうだな。試してみたい」


筒を掃除して火薬をと弾入れてドンドンと固めて、それから撃鉄…だよな?撃鉄を起こして。

起こした状態で渡すと危ないな。撃鉄はゆっくりもう一度下げて…


「ここを起こして引き金を引けば弾が出ます。的に向かって撃って。絶対人に向けちゃだめですよ」

「引き金とは…これか。人に向けて撃つ物だとは思うが…まあいい、撃つぞ」


師匠は引き金を起こし、撃った。

ドン!と言う音のすぐ後でパンッ!と聞こえた。的にしていた薄い板が割れた音だ。


「当たった!当たったぞ!」

「当たりましたね…凄いですね」

「…ん?ああ、お前は当たらなかったのに当ててしまってすまんな。ふふん」

「ぐぬぬ…いいんですよ別に!」


こんなモノ、当たるも八卦当たらぬも八卦みたいなもんだ。

一応肩当はあるが、前々固定できない。固定が聞かないから銃身がフラフラしてどこに飛んで行くかよくわからんような代物だ。

だから俺は膝立ちで撃ったけど当たんなかった。師匠はスタンディングで撃ったのに当たった。

だからって別に何ともない。何とも思ってないっすよ!






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