第92話 血統

前回できるようになった範囲草むしり魔法はものすごい性能だった。


魔力を注げば草むしりの範囲はどんどん広がる。

最初試しにやってみた時は一畝程度だったのに、気合を入れるとどんどん広がり…ペナルティエリアを過ぎてハーフラインを越え、ついにサッカー1面分くらい一気に草むしりができるようになった。

その代わり魔力切れでぶっ倒れることになったが。


俺自身の力に色んな意味で困惑しながら一日は過ぎる。

昼が終わると夜だ。

今夜は楽しい楽しい悪だくみの時間になる。


「若様、揃いました」

「うむ。」


集まったのは忍者部隊を統括するマリアとマークス、人族代表のシュゲイム、それに行商から帰ってきた忍者部隊のウーモチだ。


「それでは始めよう。まず、ウーモチ。行商の報告を」

「ハッ、私は今回ユグドラシル王国から人間の領域に入り、エルルスローニ連邦、タラモル国、アルスハイル帝国、エラキス教国を経由してリヒタール領へと動きました。」

「ほう、大魔王領の周りをぐるっと回った形ですな。」

「そりゃ大変だったな。」

「ありがたいお言葉です。」

「それで…

バダン!(扉が大きく開く音です)

「ちょっと待ったー!」…どうしました師匠?」



大きな音と共に部屋に飛び込んできたのはマリラエール師匠。

つーか呼んでないぞ。


「どうして秘密の会議に私を呼ばんのだ!」

「ええ…?」


秘密の会議だって言ってんのにどうして呼ばないのって言われても。

知ってるなら猶更押しかけてこないでよ。


「えーっと…まあそれを言うとアレなんですけど。師匠ってまだ大魔王様の部下でしょ?これは一応俺の領主としての手の者だけでの将来を見越した戦略会議と言うやつで…情報漏洩なんかあったら困ると言うかなんというか。」

「お前は私が秘密を漏らすとでも思っているのか!」

「思っては無いですけど…重要な情報があれば大魔王様にお知らせしないと!とか思うでしょ?」

「い、いや…ゴホン。それでも呼んでくれてもいいだろう!?」

「いや、ですから。俺に忠誠を誓えないと思うので困る。困ります。」


だって師匠ってば大魔王様に忠誠誓ってまーすって感じじゃん?

それなのに俺の部下が命懸けで集めた情報をホイホイ共有されるのはちょっと。


「誓えばいいのだろう誓えば!誓うぞ!」

「いや、口でそういわれても困ると言いますか…」

「ならばベッドで誓わせれば良いではないですか。ウフフ」

「「んなっ…!」」


お、おいマリアなんちゅうことを言うのだ!そんなこと言うと俺が師匠にぶっ殺されるぞ?と思って横を見ると、真っ赤になって口をパクパクする師匠が。

あ、これは押せば行けるってやつ?

イケるかも…いや、ダメだ。

俺にはアシュレイがいるのだ。


「すごく悪くない提案だが駄目だ」

「マリラエール様では不足ですか?」

「なっ!?」


お口パクパクしたまま師匠がこっちを見る。

いや、可愛い。やばい。やばいんだよ実際。師匠はスタイルもいいし正直顔も好みのタイプだ。

うーん、すごくいいと思うけどなあ…


「…師匠が不足などとんでもない。俺にはもったいない位だ…が、俺にはアシュレイがいる。アシュレイを生き返らせる、それこそが望みだ。なのにそれを成し遂げる間もなく他の女に現を抜かして良いとは思えん。そうではないか」

「そうではありません。」

「ええっ!?」


まさかの全否定。

俺いいこと言った。と思った瞬間の全否定である。

俺ビックリして漏らしそうになったよ。


「世継ぎの問題もあります。…もし不安なら私がご指導いたしますが?」


そういってマリアは流し目で見る。

おいやめろよ。すんげー色っぽいんだけど。

過剰な刺激に10代のあれやこれやは大変なことに…やめろって。

もう大変なことになるから。


「はいダメダメ。やめたやめた!この話は終了。」

「どうしてですか?うふふ」

「ウフフじゃねえよ!ここはそういうおピンクな話するところじゃなくて真面目な戦略会議の場なの!そういうのはもっと後になってからでいいの!そうだろマークス!」

「私は世継ぎが先でも構いませんぞ」

「んなっ!」


なんと言う事だ…!


「マークスお前裏切るのか!」


まさかの我が筆頭執事、痛恨の裏切り!

冗談だろ!?


「裏切ってなどおりません。マークスめは何時何時いつなんどきもリヒタール家に表返ったままでございますぞ。若のお気持ちがどうあれ、当家にとってお世継ぎは一の大事でございます。違いますかな?」

「ぐぬぬ」

「妻の待つ家庭を持つというのはいいものだぞ。ああ、俺も早く子供の顔を見に帰りたい」


マークスの孫自慢が始まり、シュゲイムは子の可愛い所を力説する。

二人目、三人目は男が良いか女が良いかなどとワイワイと話す。


くそう。

コイツらまで寝返っておピンク星人側に立つとは!


いや、言ってることは分かる。

俺だってこっちに来て随分貴族チックな生活を見てきたのだ。

やってることは農家だったけど、いろいろと親父にも小言を言われながらイヤイヤその辺のお勉強もした。確かに俺が死ぬとリヒタール家は断絶する。


遠縁のなんちゃらさんなんて見たことないようなのしか血縁はいないみたいだし…まあぶっ潰した方が良いだろ?ってくらいしか縁者がいない。普通もっと兄弟やら叔父伯母やらがいそうなものだが、いねーんだな。

どうなってんだ親父…はしょうがないのか。母ちゃん一筋だったらしいしな。

俺の現状と同じだからそこは否定しづらい。

じゃあ悪いのは爺さんとかその上だが、そいつらも女性関係はあんまりなかったというか。

それほど子供の多い血筋ではないようだ。


「ま、まあその話は保留で。な?」

「やれやれですな」

「いずれアシュレイ様をリードするためにも練習しておくべきでは?うふふ」

「もうやめろって!」


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