第91話 学校へ行こう
アーク歴1499年 弐の月
ヴェルケーロ領
「魔族と人間の間では本格的な衝突はありませんが、人間同士ではかなり争いがあるようです。先日もエルトリッヒで大きな侵攻があったように、以前とは情勢がどんどん変わっていると思います。まあ、私の知識は所詮は50年ほど前の物ですから当てにならない部分は多いですね」
「50年かあ…」
師匠に人間の国がどうなっているのかを聞いてみた。
その答えがこれだ。うーん、50年かあ…
50年前って言うと…日本じゃ第二次大戦からはしばらく時間が経っているか。
高度経済成長の末期?オイルショックの辺りか?
うーむわからん。
その頃はスマホどころか携帯もないだろう。
パソコンあったのか?テレビはカラーになってたんだろうか。電話は黒電話パイセン?
うーむ…わからんなあ。
ウル〇ラマンや仮面ラ〇ダーは元気に世界を救っていたのだろうか?
…わからん。
とりあえず現代とは随分違うだろう。文化も世界情勢も、何もかもが。
まあこっちの世界は現代社会ほど変化が激しくはないと思うが…
「…50年も経てば人間側は色々変わるのでは?」
「そう思いますよ。ですから人間側の知識については私はアテにしないように。あなたご自身の諜報網で調べた方が良いでしょうね」
「そうですねえ。」
師匠に近隣の情勢を聞いてもはっきりとはわからないと。
今後、どう動くかを考えるともっと鮮度の高い情報が欲しい所なのだが…
俺自身の諜報網と言われても網と言うほどじゃない。
残念ながらお抱えの忍者部隊はまだまだ人数が少ないのだ。情報網というより…なんだろう。
スカスカで大きなお魚でも穴からホイホイ抜けていく、穴開いた金魚掬いのタモでしかないのだ。
領内の孤児を沢山集めて歩き巫女を作ろう計画は計画倒れだった。
そもそも魔族領は現在、どこぞの国の戦国時代と違って平和もいい所である。
首狩り族もいなければ飢饉になって隣村をヒャッハーする農民もいない。
平和だと孤児はそれほど発生しないのだ。
たま~に両親とも病気やモンスターにやられてしまうような不幸な子供が出来るくらいだ。
だが、ほとんどの魔族は平和的で夫婦仲良しかつ寿命もそこそこ長いので、もし両親が死んでもジジババが元気いっぱいであんまり孤児が出来ない。
すご~く良い事なんだけど歩き巫女を作って情報収集を…と考えていた俺はやや困ってしまう。いや、いいことなんだけどね?
でもまあ、『孤児を仕込んで忍者にして、巫女って
もともと孤児にある程度仕込むだけだから経費は食費や教育にかかる費用くらいで済むし、ランニングコストも安いし…何なら売春で稼がせながら情報も得られるということで効率もすごくいい。
…とまあ、色んな意味でさすが甲斐の虎・武田信玄だ。さすたけ!
と言う訳で村に作った忍者学校はあんまり捗らない。
ただの学校になってしまっているのだ。
おかげで講師役として招いた貴重な忍者は物知りで優しいおじいちゃん先生として皆に慕われて平和に暮らしている。
…まあいいか。うん、悪くない。
学校で教えるのは文字と簡単な算数、それに武芸とか地理とか商売の事とか。
領内で作っている作物や産業についても学ばせる。
案外やることは多いのだ。
学校は数年だけの基本教育をするいわゆる小学校と、そこから成績優秀者を集めた高等学校を作る予定なんだけど、まだ小学校が一つだけしかない。そろそろ増やさねば。ただ学校を増やすと教師が足りなくなる。卒業生を教師にしてもいいが、彼らだってやりたいこともあるし文官にもなって欲しい。難しい。
小学校は年齢制限がないし、在籍年数の期限も無い。
なのでベロザとかも在籍している。奴は文字で苦戦しているらしいが。
子供と机を並べて学ぶ親もいて、なんというか微笑ましいものだ。
大体子供の方が先に覚えて親は覚えが悪いと言うのが多く、まあそうだろうなと思う反面で家庭で親の威厳が損なわれないか心配でもある。
黒板は木の汁を使って染め上げ、貝殻で作ったチョークを使っている。
貝殻は淡水の貝でどうにかなった。貝と言えば真珠だが、まだ巻貝しか見つけていない。
二枚貝の大きくなる奴を激しく所望する!
生徒の方は一人一つノートより大きく画板より小さいサイズの黒板を貸し出すことになった。
これがまた結構めんどくさかったが、最終的には入学前に自分で墨やら柿渋を塗って黒板らしいものを作るという方法でどうにかなった。
これも冬の寒い間にやることがないからどんどん進んだんだと。
識字率が上がるのはすごく良い事だ。
ドンドン勉強してリヒタールの…じゃない、ヴェルケーロの民が中央で大活躍できるようになれば言うことなしである。中央の官僚になれば大魔王様の役にも立つし俺がこっそり色々やらかしてもフォローしてくれる。
何なら俺が軽い不正くらいしても見逃して…いや、この考え方は不味いな。
下らない不正など絶対にしてはならない。
出来るだけ誠実に、真面目に、実直に。
そして、ここ一番の大事なところで裏切るのだ。
どこぞの神君を見習おう。
そうすれば裏切って主君の息子やらをぶっ殺しても律義者なんて呼ばれるだろう。
勿論、裏切ったりなんかせずに堂々と正道を進むのが一番いいんだけど。
まあ当面は真面目な学校でいい。
教えることは国語、算数と少しの歴史。
それに礼儀作法と体育である。
その学校を卒業した者は高等学校を…作ろう。頑張ろう。
教えるのは俺か?
科学や生物、魔物の体のつくりなんかも調べたい…これは俺も生徒だな。
良い教師を探さないと。
そして卒業生は望むなら中央へ紹介し、あるいは俺の息のかかった行商人やまっとうな商家に丁稚奉公に行かせる。そして後の者は普通に家に帰って家業(農家)を継ぐ。
と言ってもただの農家ではない。
ヴェルケーロでは農家は農業だけでなく、どこの家でも大体副業を持つようになった。
それは麻を育てて糸を作り、機織までを行う『ヴェルケーロ生糸工場』で働く者、大工や鍛冶仕事をする者、それから鉱山で働く者。
農業で拘束される時間はどんどん短くなっていっているのだ。
機械化どうこうではなく、植え付けから草むしりの手間が減ったからと言うのが大きい。
そう、ついに樹魔法で広範囲の草むしりまでできるようになったのだ。
ってどんな便利機能だ。
そんなのより分かりやすい単純な力が欲しい。
力だ!もっと力をよこせ!
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カイトの中の人について少し触れますが、祖父の農業を色々手伝っていてやや歴史とゲームの好きな一般人です。
女性に免疫は殆ど無く、女性に対するアプローチの仕方良く分からない、そんな中の人ですが今世の皮であるカイトの外見はものすごくイケメンな子供です。
麗しきショタガキです。町中のお姉さま、おばさま方のアイドルです。
でも中の人はそういうのは良く分かってません。そういう目で見られたことが無いので。
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