第31話 何も起きないはずがなく


「焼肉が喰いたい」


畑の肉だとか言って大豆をやたら持ち上げている奴がいる。

大豆ミート?ああん!?

食えるなら本物の肉を食いたいに決まってんだろうが!


大豆ミートの研究者、生産者の皆さんごめんなさい。

焼肉を食べたいという気持ちが強すぎて頭がおかしくなってたってことで。




枝豆はさくっと収穫できた。

アレはサクサク収穫出来て味もいいからね。

それにあんまりいい土地じゃなくていいし、ちょっとした隙間のような狭い所でも余裕。

と、まあいいところ三昧なのだ。


何割かはそのまま放っておいて大豆として収穫する予定だ。確かポロポロ落ちるくらいまで待つんだったか。


味噌を作ってみたいが米麹は無い。

米麹じゃなければナニ麹を使えばちゃんと味噌になるわけ?麦麹?中本工事?


…アホな考えは窓から投げ捨てて。

タンパク質が豊富だからって、枝豆や炒り大豆を食ってりゃ肉食わなくていいかと聞かれたら『それは違う!』と大きな声で言いたい。



それは、それ!これは、これ!だ。

肉と脂を求める。これもう本能なのだ。

そこを否定すること自体が間違った…まあいいか。



「肉でございますか若。では豚をシメまするか?」

「うぐぐ…それは我慢しよう」


豚は順調に増えそうな気配だ。

5頭の豚を買った。内訳はメス3オス2だ。

幸いなことに豚舎に放流してすぐにメスは3頭とも出産した。

どうも、もう孕んでたみたいだ。


それは一体どいつの種なんだ!と人間なら揉めそうだが、豚さんはそんなこと言わない。

でもまあ間違ってオスが子豚を踏んづけたり、腹減ってかじったりしたら困るからメスと子豚たちは隔離している。

妊娠が分かってから急遽豚舎の増築をする羽目になった。うれしい悲鳴だ。



つまりオス2頭はメスとは隔離されたわけだ。

メスと楽しい種付けフィーバーだと思っていたのにオス同士残されてしまった。


狭い空間に残されたオス2頭。

何も起きないはずがなく…な展開になったかどうかは知らない。

知りたくもないわ。



まあ種付けフィーバーが出来ないのはしょうがない。

子供たちが乳離れしたら君たちにはまたフィーバータイムが待ってるよ。

大体俺らには全く何の損も無いしな。


そんなわけで今、子豚が17頭ほどいる。

これが順調に育ってくれればオスは何匹か肉にしてもいいとは思うが…今はまだダメ!まだその時ではない!なのだ。


でもまあそんなことは関係なく腹は減るし肉は欲しい。

そうだ、狩りに行こう。




「狩りに行くぞマークス」

「狩りですか。宜しゅうございますね。アシュレイ様たちはいかがなされますか?」

「アシュレイは喜んで行くだろうが…アフェリスは置いて行った方がいいのではないか?」

「左様でございますね」

「でもおいて行くと揉めそうだな?」

「左様でございますね」


俺も『左様でございますね』と思うよ。

でも連れてっても絶対ごちゃごちゃうるさいじゃん…?


「…まあ仕方ないから連れていくか」

「メイドも連れていきましょう。彼女らは見晴らしの良いところでピクニックをすればよいかと。」

「さすがマークス。良いこと言うな。なるほど、メイドを連れてピクニックか。そして俺たちはこっそり抜け出して狩りか…では健脚なメイドを頼む」

「畏まってございます」


そんなわけで俺とアシュレイとアフェリスの3人にマークスと副メイド長のマルチナさん、それと猟師のグレンで出かけることになった。マルチナさんは昔は兵をしていたが負傷して引退、メイドになった。そういう経歴の持ち主なので未だに足腰は優れているらしい。

それと護衛の兵が10人ほど。

護衛いるか?いやまあコイツらお姫様だったな、そう言えば。


グレンは犬も連れている。これがまた賢いけど汚ったない犬だ。

洗ってねえ犬のにおいがする。くせー!くんかくんか!わっしゃわっしゃ!くっさ!くさかわいいなあ畜生!


「お前臭いしべっとべとだな!後で洗ってやるからなー!」

「申し訳ありません坊ちゃん」

「いいんだ。急に言ったしな。それにしてもかわいいな。ウチでも犬飼おうぜマークス!」

「そうですな。番犬にしてもいいですし、牧場の方に出して牧羊犬のようにしても良うございますね」

「牧羊犬…羊かあ。ウール産業も悪くないな」


羊をいっぱい飼って毛を採る。

そこから糸を紡いで服を作るのだ。


うん、悪くない。

悪くないが…結果がでるまでになが~い時間がかかりそうだな。

そもそも毛を刈れるのは年に1回しかないんじゃなかったか。

でも品種にもよるが1頭で数キロは毛が取れるって聞いたことがある。


ただこれを何度も洗ってきれいにして乾燥させて…洗う過程で石鹸が欲しいな。

まあそれからほぐして糸を紡いで…紡績機も欲しい。

そして糸になったら衣類にして売る…うん、機織機もいるな。いや、毛糸だから冬場の暇な奥様達に手縫いしてもらえばいいのか?バイト代??


…まあ先の長い話だ。無いものしかない。


でも羊毛産業はこの時代にはかなりいいだろう。

何せ衣服が高いのだ。暖かい素材ならなお冬場に高く売れるだろうし。


「うーん、まあ長期的には悪くないな。また考えておこう」

「羊は1ペアで30万ほどですな」

「金もない…」


果たして1ペアの毛でどれだけの糸が作れるのだろう?

産業にしようと思うと何匹ほど羊が必要なのだろう?金は?牧場の土地は?機材は?そもそも羊ってエサ何だ???草食わせとけばいいのか?手紙か?

手紙を喰うのは…あれは山羊さんか。


…しかし育てて増やして、収穫して羊毛を刈って洗って糸にして…考えるだけで気が遠くなりそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る