第20話 はぢめての収穫
アーク歴1493年 陸の月
リヒタール領
農場1年目、初夏。
収穫は思ったより順調だった。
裏山を開拓したばかりの痩せた土地だったが、俺の魔力をふんだんに与え、さらに堆肥をたっぷりとを使って育てた野菜類は元気いっぱいに育ったのだ。
畑の量が少ないので売っても大した額にはならないが、少なくとも我が家の食糧事情はかなり改善された。
毎日のように食卓に上るトマトにナスにピーマン。
しょうがないね、旬の時期にはいっぱい採れるからね。
それと少し小ぶりだが十分に甘いスイカ、甘味たっぷりのニンジン…
それらを父上に提供し、この半年余りの成果を認識してもらう日が来た。
「…どうですか?父上」
とれとれ野菜を調理してもらい、父上とともに食べる。
食後にはスイカだ。なかなか甘い。
「うーむ…なかなか美味い」
「そうでしょう。そうでしょう。おいしい野菜に甘いスイカ、それに農作業をすることで僕にも筋肉がこんなに…こんなに…」
「…変わらんな」
「……」
…俺に筋肉はつかない。
アシュレイなんかは日に焼けて一層引き締まって…クソガキから健康的な美少女ってな感じになってきた。アホリスは相変わらずアホだが…俺は相変わらずのガリガリ君だ。
「父上…どうしてに私には筋肉が付かないのでしょうか?」
「うーむ。食事はそれほど悪くないと思うがな…」
「アシュレイは日に焼けて筋肉も付いてきております」
「そうだな。ご立派に成長なされておる」
「私も同じ運動をし、同じものを食べています」
「主と同じモノを…やや不敬かもしれんが…まあそこはよいだろう」
そこは今いいだろ。忘れろ。
アシュレイと俺はずっと一緒にいてほとんど同じ生活をしている。
朝はともに学び、昼食後は外で畑をいじる。
そして武術の稽古もすれば一緒にダンジョンにも潜る。
今ではレベルも20まで上がり、二人でなら10層以降でも狩りをできるようになった。
今は真夏なので朝昼は逆転しているが。もちろん食べるものは野菜だけではない。
猟師に頼んで肉を、漁師に頼んで川魚を獲ってもらってはカルシウムのために骨ごと食べているのだが…俺には肉はつかないし、肌もさっぱり焼けずに真っ白に透き通るような肌である。
おまけに身長も伸びない。
どんどん大きくなるアシュレイとは頭一つ分くらい身長差もある。
くそ!高身長の美男美女なんてみんな爆発しろ!もげろ!
「…何かとんでもない不敬を考えていないか?」
「滅相もない。私とて悩んでいるのです」
「まあ良かろう。お前の話していた農場についてだが、今夏の成果を顧みて投資の余地はあると判断した」
「おおっ!」
「秋冬の収穫を見てからと思っていたがまあいいだろう。裏手の森をさらに開拓するといい。高い木に登ったことはあるか?」
「見ました。広大な森でした!」
「そうだろう。奥に見える山の頂上までが我が領地とされている。そこまではまあ当分無理だろうが…失敗しない範囲で徐々に広げていくことには賛成する。その元手だが」
「はいっ!」
もし俺に尻尾があればはち切れるほどぶん回されているだろう。
「とりあえずこれだけだ。これ以上は厳しいな」
渡されたのは金貨が100枚、なんと1000万zの大金だ。
「おおおっ!」
「どうだ?」
「お、思っていたより多いです。さすが父上!ふとっぱらー!」
「そうだろう、そうだろう」
「息子のやりたいことに投資しないドケチだと思っていてすみませんでした!」
「そうだろう、そうだ…んん?ドケチ?と言ったか?」
「いえ、何も。息子が魔王討伐の旅に出立しようというのに小銭と銅の剣に皮の鎧だけで追い出すようなクソ親父とは違った。素晴らしい父上だなと思っております。」
あの王様はウ〇コにも程がある。
シリーズ屈指のクソウ〇コだわ。
「何の話か分からんが、魔王様を討伐してどうする。ゴミのような教皇でも倒してきなさい」
「はーい」
おっと、魔王様はお味方の大将だった。
倒すなら教皇だとかなんちゃら皇帝だとかその辺だな。どっちにしろ銅の剣じゃあ倒されてくれそうにないが。
かくして1000万zの大金をゲットした。
気が大きくなったが、これをうまく使わなければならない。
お金の使い道について考えたが、鉄製の鍬や鎌、鋤やら牛馬、それから豚や鶏を買う元手にしたい。
というわけで早速街に出て豚と鶏、牛馬の値段を調べてみた。
豚は大人の1ペアで20万ほど
牛はオスは1頭50万、メスは1頭200万ほど、
馬は大体50万~500万だ。勿論軍馬に出来そうな良い馬やいい馬を産みそうなメスが高く、やせた馬や年寄りが安い。うむ、わかりやすい。
しかし高い。
参ったなこりゃ…
養鶏もしたいが、鳥は今のところ養殖向きのいわゆる鶏のような品種が見つかっていないみたい。
食用の鳥肉は猟師が獲ってくるキジやカモみたいな種類のしか見たことがない。
空飛んでく種類だから養殖にはそりゃあ不向きだ。
ネットもないしケージなんてとてもとても。
どこかに卵を毎日みたいに産んで、飛ばなくて気性はそこそこおとなしくて、オマケに肉が美味い。
そんな夢みたいな鳥いねえかなあ。
馬の値段にはものすごい差があるが、軍馬として使えるようなのは高い。
それから軍馬にできそうな良血の仔馬も高い。仔馬はオスメス両方高いのだ。
んで、ロバみたいな小さいのは安い。うん、分かってた。
例えばあいつとかそうだ。
ガリガリで小さくて、いかにも貧相な…そんな馬には大した値段付かないよな。
クソ…
気付いたら、俺の手元にはやせ細った仔馬の手綱があった。
金はいつの間にか100万減ってやがる。
どういう事だかは分からない。
まるで時間が止まったような、あるいは勝手に進んだような。
まあ何をしたかはわかる。俺が同情して買ったのだ。
こいつ仔馬だからちょっと高かったんだな…どうせなら大きな大人の馬で農作業をモリモリ手伝えそうな奴が欲しかったんだが…
「マークス、こいつは農耕馬になると思うか?それとも軍馬にできるほど育つか?」
お付きで一緒に来ているマークスに聞いてみる。
こいつも昔は戦場でブイブイ言わせてたはず。
馬には詳しいだろ…たぶん。
おい、お前も同情したような顔をするな。
馬に向けてんだよなそれは?
「まだ小さすぎて何とも言えませぬが…若の育てた野菜をたくさん食べさせて大きくしましょう。そうすれば良い軍馬になるやもしれませぬ」
「ほんとかよ…ガリガリだぞ」
「何の。良い目をしております。これからですぞ」
このクソジジイ適当なこと言いやがって。何が良い目だよ。
クリックリの可愛い目じゃねえか。
敵を皆殺しにしそうなでかくて黒い、世紀末な漫画に出て来るような馬が欲しかったんだよ。俺は。
まあ俺も同情から買った身だから何も言えん。
よく調教して名馬に育ててもらおう。
「名前は何とされるのです?」
「むむ。カイトブラリアンだとか、カイトキャップじゃダメかな」
「若…よろしいのですかな?それはもし、そのですな。…少し言いづらいですが、その馬が寿命ででも死んだ時にはカイトが死んだなどと言われる羽目に」
ああ。
自分の名前を付けるとそういうことがあるのか。ダメだ。
えーっと、んじゃああとは有名な馬は…
「ああ、そりゃ駄目だ。んじゃあ…ディープで。鹿毛だし。」
「良い名ですな。」
「速そうだろう。大きく育てよ、ディープ」
そのガリガリに衝撃を受けたなんて言えない。
あっと言う間に農場資金の1/10は直近の農場とあまり関係ないところで消えてしまった。
どちらかというとこっちに衝撃を受けたね。ビックリだよね。
参ったな。
まあこいつが大きくなれば何人
そう、まさに1馬力の力だ。
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