最弱×内政×ダンジョン=最強魔王?

吉都 五日

楽園の畑

第1話 プロローグ

ようやくだ。


やっとここまでたどり着いた。

この世界最難のダンジョンである『久遠の塔』、その80層のボスである通称、『災厄の巨人』。

その名の通り巨大な人型のボスであり、パワーと耐久力が非常に高いバランスで両立している。

巨体から繰り出す攻撃をまともに食らえば一撃で動けなくなるだろう。



普通はこいつと戦う時は頼りになるタンクと回復役とそして火力役と…つまりバランスのいいパーティーで長期戦を覚悟して戦う事になる。


だが、俺の目的のためには己一人の力でここのボスを倒さなければならない。


「それでは逝くぞ」

「そりゃこっちのセリフだ!いくぞおおお!」


振るわれる大きな腕、その何倍もある槍。

リーチじゃとても勝負にならない。

何とか躱し、懐に潜り込む。


一撃を喰らわし、掴もうとする腕から逃れ。

そして嫌がらせのようにチクチクと攻撃を加える。


いける。このまま勝てば。

80層のボスをソロ1人で倒す。

倒すことが出来れば。

彼女を、アシュレイを取り戻すことが出来るのだ―――











「いやあ、さすがに最強魔王。楽勝もいいとこだったな」


FSADRPG『ファンタジー・シミュレーション・アクション・ダンジョン・ロールプレイングゲーム』。

何のことやらよくわからないがファンタジー要素とアクション要素をストラテジーゲームに詰め込んだダンジョンRPGとして…要は何でもありなゲームとして売り出された作品がある。


名を『King of Kings』。

公式を含めて通称KoKと呼ばれているゲーム。

直訳すると『王の中の王』である。

その3作目にあたる今作は『魔王アシュレイの野望』とサブタイトルが付いている。


KoKは基本的には地域制圧型のシミュレーションゲームである。

プレイヤーはいずれかの勇者、あるいは魔王、あるいは国王となり…他国を侵略して制圧。もしくは圧倒的な技術や魔力で他国を従え、世界を統一することを目指すゲームだ。


それだけ聞くと野望シリーズや3国の歴史シリーズと同じようなゲームに思えるが、このゲームは何故か途中でダンジョン探索要素やアクション要素もモリモリに盛り込んである。


いろんな要素を詰め込んだせいで『何を目的にしたいのかわからない』『詰め込みすぎでクソゲー』などという評価もあるが、その一方で猛烈なファンも多い。

そのコアなファンの支持もあり、徐々に売り上げを伸ばしつつの3作目だ。


今回の3作目のサブタイトルにもなっている『魔王アシュレイ』こと、『アシュレイ・アークトゥルス』は赤いロングヘアに金の瞳、キリリとした顔立ちで出てるところは出て引っ込むところは引っ込んだナイスバディの美女で。

おまけにカッコいい鎧に何やら曰くのありそうな魔剣を持ち…美しく、そして何より強い。


武力はもちろん、統率もカリスマ性も高く…内政能力も高い。

シミュレーションパートの能力値もさることながら、当然アクションパートの性能も化け物だ。



アクションパートではアクションなのにシューティングのボムというか、マップ兵器と言うか。トンデモ性能のスキルを持ち、他キャラの必殺技とほとんど同じ効果の通常技、そしてそれをはるかに超える必殺技、隠し武器を得てからはさらに超必殺技を覚える。


もちろんスキルだけではない。

初期ステータスも十分に高く、そのうえ後半までの伸びも良い。


序盤から終盤までコスパよく使える有力なスキルがあり、必殺技を覚えてからはまさに無双。

超必殺技なんて使った日にはどうやって負けるのか教えて欲しいくらいの性能。

……いわゆるクソチート野郎である。


『3作目から入門する初心者でもらくらくクリアできちゃうよ!』が公式が彼女に付けたキャラ紹介なのだ。






俺は友人に勧められて今回初めて購入してみた。

他のシュミレーションゲームはやったことあるが、KoKは初プレイ。


『とりあえずアシュレイで慣れればいいんじゃない?』とのおすすめ通りに魔王アシュレイを選んでゲームスタート。


イベントを斜め読みしながら進めていく。

ゲーム開始初年度から他国の領土を攻めまくり、1国との戦争中に他国に喧嘩を売る。

2正面戦争は当たり前、中盤以降は3正面でもかかって来い来い……結果としてそれで攻略できてしまうのが魔王アシュレイ陣営の強さなのだ。



そして公式の言葉通りに楽勝もいいところだった。

はっきり言ってヌルゲーすぎてつまらんくらいだ。


「あー、クソ楽勝だった。次はもっと難しそうなのでやってみようかな?えーっとwikiによると…」


wikiでは最も簡単なのは魔王アシュレイだが、その逆に最も難しいのは魔王アシュレイの従姉弟である『魔伯爵・カイト』。

目だけはアシュレイと同じ金だが、後は全く違う。


緑色の髪に金の瞳、肌が色白なのは良いとして…

後はチビでヒョロガリの陰キャ感丸出しの少年だ。



カイトは魔王じゃないのかと思ったが、厳密に言うとカイトは魔王ではない。


ゲーム内でのプレイアブルキャラクターは15名のようだ。

魔王軍側に4名と、人間側勢力の長が8名、そして中立が3名。

人間側の方が多いのはゲーム開始時の勢力図のままだ。その辺は仕方ないね。


魔王軍の中でも最弱の呼び声が高い魔伯爵カイトはあまりに使えない子なのでカイトではなく『バカイト』だとか、略して『バカ』だとか言われている。


見た目は悪くないショタっ子なのだが…ステータス、スキルともに使いづらく、さらに立地条件も悪い。

敵対する人類側との最前線におり、背中を任せる魔王軍の同僚?とも仲が悪い。

…といいところなし。

何もしなければゲーム最序盤に消えていく。


wikiでも彼を使用してクリアするのは至難の業であり、常人にはお勧めできないと書いてある。


だがそう言われればクリアしてやろうと思うのがゲーマーってモノだ。

俺はがんばった。


まずは何もいじらずにプレイ。

2ターン目冒頭にイベントで死んだ。

クソが!

…というわけでイベントモードを切る。



そして1ターン目。

初手土下座外交から始まり、内政へ。

ダンジョンでレベル上げをして戦に備える。



続いて2ターン目。

従姉弟のアシュレイを頼って脛を齧り、送ってもらった援軍を使い潰して何とか防衛。さあここから頑張って内政を…と思っていたところで3ターン目に反対側の国から攻められて終了。


「…なんっっっじゃあこのクソゲーは!キャラによって難易度違いすぎだろが!」


アシュレイの時と比べて全く話にならないくらい難しい。


まず土地が悪く収入が少ない。

そしてカイトの治める国は3か国に囲まれているが、うち2か国は人類側で序盤から完全に敵対。

そして残る1国は中立寄りの敵対。


頼みの綱の従姉弟であるアシュレイは敵国を挟んだ反対側にあり…こいつは同僚の魔王軍のはずなのに中立寄りの敵対なのだ。援軍はその敵国を迂回しないといけないので、非常に時間がかかるようになっている。


つまり自分の所より強い2か国をほぼ独力で防がなければならない…うんキツイなんてもんじゃない。

おまけにどうにか誤魔化して序盤をクリアしていったら野良勇者にフルボッコにされる。

一晩徹夜でやり込んだ、その結果がこれだ。駄目だこりゃ。


「さすがバカイト。つーかこれ公式が馬鹿なんじゃねーの。コンビニ行って飯食って寝よ」


公式が馬鹿だと毒づいてみたが、これでも何時間も試行錯誤した末のことなのだ。


もう何回序盤からやり直したかわからないが、とにかくカイトが弱い。

配下の武将も数が少ない。

マシなのは副官で脳筋のロッソと万能執事のマークスくらいだ。


いやまあ、冷静に考えるとカイト自体はそれほど弱くはないかもしれない。

彼は完全な大器晩成型で、最終的にはかなり強キャラになるようだ。


アシュレイでプレイした時、中盤を過ぎたくらいでほぼ自動的に仲間になったが、ゲーム終盤にはかなり優秀なユニットになった。


だがまあ。

大器晩成型だってのは分かるが…あの立地条件なら早熟型でもほぼ無理ゲーだっつーの。つまりゲームバランスが悪いのだ。早い話がメーカーが悪い!設計が悪い!!!


「あっほらし!やってられっか!」


ぶつくさ文句を言いながら道に出る。


コンビニの前まで行くと、待ってましたとばかりに子供が道に飛び出し…徹夜明けで動く気力もないはずの俺の体は勝手に動いて子供を救い、そしてトラックに轢かれた。




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なろうで完結まで投稿していた作品です。

プロローグはサクサクっと投稿してしまう予定です。


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