最弱×内政×ダンジョン=最強? 最弱魔王は恋人のために強さを手に入れる
吉都 五日
楽園の畑
第1話 プロローグ
2030年 5月30日
現代日本
「…なんっっっじゃあこのクソゲーは!キャラによって難易度違いすぎだろが!」
俺は今、怒りに震えていた。
しょうもない、実にしょうもない理由だ。
楽勝だと思ったゲームの2周目。
使用キャラを変えてみたらとんでもない地獄が始まったのだ。
ファンタジーとアクションとダンジョンをストラテジーゲームに詰め込んだSRPGとして…要は何でもありなゲームとして売り出された作品がある。
名を『King of Kings』。
公式を含めて通称KoKと呼ばれているゲームが2027年に発売された。
直訳すると『王の中の王』。実にそのまんまだ。
KoKは地域制圧型のシミュレーションゲームである。
プレイヤーはいずれかの勇者、あるいは魔王、あるいは国王となり…他国を侵略して制圧。もしくは圧倒的な技術や魔力で他国を従え、世界を統一することを目指すゲームだ。
ところがこのゲームは何故か途中でダンジョン探索要素やアクション要素もモリモリに盛り込んである。
いろんな要素を詰め込んだせいで『何を目的にしたいのかわからない』『詰め込みすぎでクソゲー』などという評価もあるが、その一方で自由度の高さゆえに猛烈なファンも多い。
そのコアなファンの支持もあり、徐々に売り上げを伸ばしつつの3作目だ。
今回の3作目のサブタイトルにもなっている『魔王アシュレイ』事シナリオ上の主人公、『アシュレイ・アークトゥルス』は赤いロングヘアに金の瞳にキリリとした顔立ちにナイスバディの美女で。おまけにカッコいい鎧に何やら曰くのありそうな魔剣を持ち、美しくそして何より強い。
シミュレーションパートの能力値もさることながら、当然アクションパートの性能も化け物。そんなクソチートキャラである。
『3作目から入門する初心者でもらくらくクリアできちゃうよ!』が公式が彼女に付けたキャラ紹介だ。
俺は友人に勧められて購入してみた。
他のシミュレーションゲームはやったことあるが、KoKは初プレイ。
『とりあえずアシュレイで慣れればいいんじゃない?』との公式と友人のおすすめ通りに魔王アシュレイを選んでゲームスタート。
イベントを斜め読みしながら進めていく。
ゲーム開始初年度から他国の領土を攻めまくり、1国との戦争中に他国に喧嘩を売ってみる。
すぐに分かった。
アシュレイは、いやアシュレイ軍は強い。
2正面戦争は当たり前、中盤以降は3正面でもかかって来い来い。
結果としてそれで攻略できてしまうのが魔王アシュレイの強さだ。
そして公式の言葉通りに楽勝もいいところだった。
はっきり言ってヌルゲーすぎてつまらんくらいだ。
「あー、クソ楽勝だった。次はもっと難しそうなのでやってみようかな?えーっとwikiによると…」
wikiでは最も簡単なのは魔王アシュレイだが、その逆に最も難しいのは魔王アシュレイの従姉弟である『魔伯爵・カイト』。
目だけはアシュレイと同じ金だが、後は全く違う。
緑色の髪に金の瞳、肌が色白なのは良いとして…
後はチビでヒョロガリの陰キャ感丸出しの少年だ。
ゲーム内でのプレイアブルキャラクターは15名いる。
カイトはその中でぶっちぎりで弱いとされているのだ。公式で。
魔王軍の中でも最弱の呼び声が高い魔伯爵カイトはあまりに使えない子なので、掲示板ではカイトではなく『バカイト』だとか、略して『バカ』とド直球で言われている。
見た目は悪くないショタっ子なのだが…ステータス、スキルともに使いづらく、さらに立地条件も悪い。
敵対する人類側との最前線におり、背中を任せる魔王軍の同僚?とも仲が悪いといいところなし。何もしなければゲーム最序盤に消えていく勢力だ。
wikiでも彼を使用してクリアするのは至難の業であり、常人にはお勧めできないと書いてある。
だが、そう言われればクリアしてやろうと思うのがゲーマーってモノだ。
俺はがんばった。
まずは何もいじらずにプレイ。
2ターン目冒頭にイベントで勢力が滅亡した。
クソゲーか!
…というわけでイベントモードを切る。
そして1ターン目。
初手土下座外交から始まり、内政へ。
ダンジョンでレベル上げをして戦に備える。
続いて2ターン目。
従姉弟のアシュレイを頼って脛を齧り、送ってもらった援軍を使い潰して何とか防衛。さあここから頑張って内政を…と思っていたところで3ターン目に反対側の国から攻められて終了。
「…なんっっっじゃあこのクソゲーは!キャラによって難易度違いすぎだろが!」
…というわけで冒頭に戻る。
カイトはアシュレイの時と比べて全く話にならないくらい難しい。
まず土地が悪く収入が少ない。
平野はあるが荒れ果てて初期段階では収入にならない。
そしてカイトの治める国は3か国に囲まれているが、うち2か国は人類側で序盤から完全に敵対。
そして残る1国は中立寄りの敵対。
頼みの綱の従姉弟であるアシュレイは敵国を挟んだ反対側にあり…こいつは同僚の魔王軍のはずなのに中立寄りの敵対なのだ。援軍はその敵国を迂回しないといけないので、非常に時間がかかるようになっている。
つまり自分の所より強い2か国をほぼ独力で防がなければならない…うんキツイなんてもんじゃない。
おまけにどうにか誤魔化して序盤をクリアしていったら野良勇者にフルボッコにされる。一晩徹夜でやり込んだ、その結果がこれだ。駄目だこりゃ。
「さすがバカイト。つーかこれ公式が馬鹿なんじゃねーの。コンビニ行って寝よ」
公式が馬鹿だと毒づいてみたが、これでも何時間も試行錯誤した末のことだ。もう何回オープニング直後からやり直したかわからないが、とにかくカイトが弱い。配下の武将も数が少ない。
マシなのは副官で脳筋のロッソと万能執事のマークスくらいだ。
いやまあ、冷静に考えるとカイト自体はそれほど弱くはないかもしれない。
彼は完全な大器晩成型で、最終的にはかなり強キャラになるようだ。
アシュレイでプレイした時、中盤を過ぎたくらいで仲間になったが、ゲーム終盤にはかなり優秀なユニットになった。
だがまあ。
大器晩成型だってのは分かるが…あの立地条件なら早熟型でもほぼ無理ゲーだっつーの。つまりゲームバランスが悪いのだ。早い話がメーカーが悪い!設計が悪い!!!
「あっほらし!やってられっか!」
ぶつくさ文句を言いながら道に出る。
コンビニの前まで行くと、待ってましたとばかりに子供が道に飛び出し…徹夜明けで動く気力もないはずの俺の体は勝手に動いて子供を救い、そしてトラックに轢かれた。
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お馬鹿なカイトと眉目秀麗なアシュレイの二人の物語は次話から始まります。
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