おまじない【2】

 放課後。

 クラスメートの悠希に校舎裏へ呼び出された斂は、彼女から手作りチョコレートを貰った。

 いや、貰ったというより押しつけられたが正しい。


「俺、洋菓子好きじゃないんだ」


 斂ははっきりと断ったのだが、悠希は彼の言葉を聞かず、「いいから貰って!」と無理やり渡してきた。

 斂は返そうとしたが、悠希は帰ったあとだった。

 捨てる、という非情さはなく、斂はしかたなくチョコレートを持って帰ることになった。



 部室にて。

 斂は、クッキーを食べているやまとに、さっきのチョコレートを渡した。


「どうした? これ」

「クラスメートの女子からもらった。手作りチョコレートだと」

「あァん?」


 女子からもらった、と聞いて、倭は不機嫌になる。

 斂は気にすることなく、話を続ける。


「俺、洋菓子は好きじゃないんだ。倭にやる」

「貰える物はもらいます〜」

「なにを怒っているんだ?」

「怒ってません〜」


 倭は苛立ちながら受け取ったチョコレートの箱を開ける。なかにはトリュフチョコレートが十二個分入っていた。


(あー!! 俺が“女”に生まれていれば、こんなことにはならねぇのになあ!!)


 倭はトリュフチョコレートを数個わしづかみ、一気に口へ押し込む。

 味わっていると、突然口もとに手をあて、部室から飛び出していった。

 斂が廊下を覗くと、トイレへ駆け込む倭の姿が目に入る。

 しばらくすると、倭は青白い顔をして戻ってきた。


「最悪だ。どんな思考で“あんなもの”をチョコレートに入れたんだ」

「爪か髪の毛でも入ってたのか?」

「それらも嫌だけどな」


 倭は言うのを渋っていたが、斂の身を案じて話すことにした。


「あのな、チョコレートのなかに――“経血けいけつ”が入ってた」

「けいけつ?」

「女が月イチに起きるアレだ、アレ。“生理”ってやつ」

「ああ、ものか」

「……なんでそっちは覚えているんだよ」


 倭はげんなりしつつ、経血入りチョコレートの箱へ視線をおとす。


「とにかく、これはすぐに処分したほうがいい」

「そうだな」


 さて、どう処分するか。

 斂と倭が考えていると、どこからともなく黒いゴムボールが現れ、テーブルの上に飛び乗った。


『斂! ヨクモ俺サマヲ置イテイッテクレタナ!』


 ムキー! と怒っているゴムボール――夜刀神やとのかみ魂喰たまくいこと通称タマの登場に、斂は先ほどのチョコレートを差し出した。


「ちょうどいい。タマ、物入ものいりのチョコレート食べるか?」

「隠す気ゼロかよ」


 堂々と言う斂に、倭はドン引きする。

 一方のタマはニンマリと笑っていた。


「斂、ヤベェモン貰ッテキタナ!! 重スギル愛情ガギッシリ詰マッテイルジャネエカ!! 今回ハコレデ許シテヤル!!」


 タマは口を大きく開けて、箱ごとチョコレートを食べてしまった。

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