赤ワニ【3】

 錯乱さくらんした女子高生が飛び込み自殺をした現場は悲惨ひさんな光景が広がっていた。

 女子高生は電車に数十メートル先まではじき飛ばされ、ホームにいた三十代〜六十代の男女四人にぶつかるなどした。男女四人は頭や腰を打って病院に搬送はんそうされたが、命に別状はないという。

 ホームや線路などの周辺は女子高生の肉片があちこちに散らばっている。それを見て気分が悪くなって駅員に訴える人もいた。

 人々に混ざってその光景を見ていた青年――荒神あらがみ れんは、赤いくぼみへ戻っていく怪物の姿に気づく。その口には、死んだ女子高生の生首がくわえられていた。


「だから警告したのに…」

『オマエノ警告ハワカリヅラインダヨ、レン!』


 れんがつぶやくと、彼の肩に片手におさまるほどの黒い球体が現れる。球体の頭上にはまたに枝分かれした二本角、後ろに小さな尻尾を生やしたそれはゴムまりのように飛び跳ね、ギザギザの歯を剥き出して笑った。


『最初ハトキメイテイタクセニ! “赤ワニ”ノ警告ヲシタ途端、幻滅シヤガッタゼ!! アノ小娘!!』

「まあ、普通は“えない”からな。信じてくれなくて当然か。次からは気をつける」

『チョット口説クドケバ信ジテクレ…。イヤ、ソレハヤメテオコウ』

「さっきからなにを言っているんだ?」


 ゴム鞠とそんな会話を繰り広げながら、れんはホームをあとにする。

 改札口を出た直後、れんの眼に映ったのは、あの赤いくぼみが道のあちらこちらに存在すること。

 くぼみの奥からのぞく怪物がこちらの様子をうかがいながら舌なめずりする姿に、れんは顔をしかめた。



 あの女子高生のような末路を向かいたくなければ、歩きスマホはしないでください。

 そうしないと、あなたも赤いくぼみに足を取られて、赤ワニに狙われるかもしれません。

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