残り9粒

 ここまで来ればまだマシか?


 市役所通りから商店街へ入り、俺は失速した。

 猫もさっきよりは少ない。


 役所の近くや町の境界線は普段から特に猫が多い。けれど今は深夜だからさらにワラワラいた。彼女との約束がなければ、朝まで戯れていたかもしれない。


 腹、減った。


 夜中まで残業して、全力疾走。そりゃエネルギー切れになるわ。でも時間をかけて食べる気はない。


 手軽に食べられる牛丼に感謝。


 俺はいつもお世話になるチェーン店へ、迷いなく向かった。


 ***


 掻きこむように食べ終えれば、学生らしき男子たちの会話が気になってしまった。


「なぁ……。やっぱおかしいよな」

「部屋の中、誰もいなかったっぽいのに」

「猫だけ、いたな」


 周りを気にしてコソコソ喋っているが、ひと席空けて隣に座る俺には全部聞こえる。


 部屋に猫?


 野次馬根性で推理する。馬鹿馬鹿しくなって、その考えを流し込むように水を飲んだ。そんなことをする人がこの町にいるはずがない。


「3時間ぐらい前には連絡取れてたのにな」

「決まり守らなかったのバレたんだよ、きっと」

「でもさ、あの猫、必死に何かを訴えてたような気が……」


 嘘だろ。


 まさか本当に部屋へ連れ帰ってしまった奴がいたなんて。その後が気になるが、もう食べ終えてしまったことで居心地が悪く席を立った。


「後でもう1度行ってみる?」

「もしかしたら猫が勝手に入り込んだだけ、かもな。鍵、開いてたし」

「だといいけどな。中川なかがわ、目の前がトントンの森に出てくる自宅のモデルになった場所だからって、喜んで住み始めたばかりだし。2階のど真ん中でよく見えるとか自慢して――」


 トントンの森か。


 猫好きの中では有名なアニメの名前を聞きながら、俺は店を後にした。


「うわっ」


 外に出ればさっきよりも猫がいて、嬉しさよりも困惑した。


 俺、自宅の鍵、閉めたよな?


 先ほどあんな会話を聞いたから、不安になる。


 猫が勝手に入った場合、中には入らず役所へ連絡すればいいんだよな?


 きっと鍵はかけたし、中にも猫はいない。もし入っても、その対策として各部屋に内側からしか開かない猫の道があるから、勝手に出ていくはずだ。


 帰ろう。


 あまりにも歩きにくいので、俺はまたマタタビを放り投げた。

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