第5話真珠の涙
「毎日悪いわね、真珠ちゃん……」
自宅マンションの玄関から聞こえるのは母さんの声だった。かなり疲れている印象を受ける。
「いえ、お母さんこそ元気だしてくださいね。光莉君、そのうちひょっこり帰ってきますから」
答えるのは真珠だ。
いつもの上から口調ではなく、いかにもお嬢様のていねいな話し方だった。
真珠はこんな話し方もできるのか。
「あの、これよかったら食べて下さい」
そう言い、真珠はなにか包みを手渡す。
「ありがとう、真珠ちゃん。いつも私のかわりに光莉のお昼をつくってくれた上に今日も来てくれて……」
母さんはその包みを受けとる。
それはたぶん、お弁当のようだ。いい匂いがする。
「いいんですよ、お母さん。私、料理好きですし。それよりもちゃんと食べて、ゆっくり休んでくださいね。」
真珠は母さんを気づかう。見たことのない、優しげな顔をしている。
「そうするわね。真珠ちゃんのお母さんにもよろしくいっといてね」
母さんは言う。
「はい、それではお休みなさい」
「お休みなさい、真珠ちゃん」
バタンと玄関のドアが閉まる。
「本当にどこにいったのよ。みんな心配してるんだから。光莉に会いたいよ、会いたいよ……」
その後、何度も会いたいよと真珠は言い、涙をながし、目元が赤くなる。
そして赤くなった瞳で首だけの僕をみつけた。
首だけになった僕はここまでくるのにエネルギーのほとんどを使いはたし、もう一センチも動けない状態であった。肺もないので言葉を発することができない。わずかに残る皮膚や肉がボロボロと崩れていく。
これはまずい、だんだんと意識が遠のいていく。
「光莉!!」
真珠は僕の名前を呼び、抱きしめた。
真珠の体は温かいな。
涙がぽたぽたと僕の頬にかかる。
生き延びるにはどうすべきか。
薄れ行く意識のなか、僕は考えた。
目の前の真珠にとりつこう。
彼女にとりつき、傷を癒すのだ。
僕は何本か残る傷口の触手を真珠の首の後ろに伸ばす。
「クッ」
小さい真珠の苦痛の声が誰もいない廊下に響く。
真珠の白い首筋に小さな傷をつけ、僕はそれを入り口にして彼女の体に侵入した。
触手を細く細くのばし、真珠の体内の血管や神経に接続させる。
真珠の脳内に極細の触手をのばし、絡ませる。これで僕は真珠の体に寄生できた。
好きよ、大好き光莉。私の体、好きに使いなさい。
脳内に触手を接続したとき、真珠の声が聞こえた。
どういうことだ、真珠は僕を奴隷として好き勝手したかっただけではないのか。
考えようとしたが、とんでもない眠気がおそってきたので僕は眠ることにした。
どれほど眠っただろうか。
僕が目覚めたとき、初めに目にしたのは巨乳になった姫野真珠であった。
彼女は下着姿で姿見の鏡を見ている。
真珠の左の乳房に僕の顔が浮かんでいる。
「おはよう、光莉。さあ、私の奴隷をこんなにしたのだから、きっちりと落とし前をつけなくちゃね」
真珠は言った。
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