No.2 アイスフェスタ(1)
季節はあっという間に五月の中旬になっていた。プログラムはすっかり体も覚えてきて、すぐに曲が流れると踊ることができるようになってきている。
上手くいかないことが多いジャンプは何度も転倒しているけど、あと少しで跳べそうになって焦ってしまうことが大きいかもしれない。
わたしはすぐにトリプルアクセルからのコンビネーションジャンプが跳べないのに少し焦っていた。構成ではトリプルアクセル+ダブルトウループを一番最初のジャンプを予定しているんだ。
セカンドジャンプにトウループを跳ぶのは少しまだ苦手なことが多い。トリプルフリップ+トリプルループ+トリプルトウループだけはクリーンに跳ぶことができるけど、それ以外は上手く跳ぶことができない。
「
「はい」
わたしはすぐにコンビネーションを前半に回して、しばらくコンビネーションを構成にしていくことにしたんだ。
正直トリプルフリップからの三連続ジャンプの後にダブルアクセルのジャンプシークエンスを控えているので体力を温存していきたいという気持ちだ。
そのなかで最初の試合である
ふと視線をリンクとロビーに繋がるドアに向けたとき、久しぶりに見かけた子が立っていた。それは練習していた子のほとんどがこっちに見ていたけど、すぐに入口の方へと滑ってくるのが見えたんだ。
「あれって」
そこには一か月ぶりに顔を見た
「佑李くんだ!」
「ほんとだ。元気にしてた?」
「体調大丈夫なの?」
「なんか痩せた?」
「ご飯食べてる?」
みんな矢継ぎ早に質問されて佑李くんは苦笑いしているのが見えた。
黒く染めている髪は少しだけ伸びて、根本の方は地毛の明るい茶色というかダークブロンドみたいな髪色が見えている。長い前髪はヘーゼルブラウンの瞳を隠すように伸びているのが見えた。
でも、痩せてるように見えているけど元気そうで良かったと思っている。
ここ数週間会わなかったのは、アイスショーと大学の授業で練習時間がずれていたからかもしれない。
それとなかなか会えていなかった
「そう言えばアイスフェスタ、どうなったんだろう?」
「あ、それね。今年もいつもの日程でするって」
「そうなんだ! 清華ちゃんのお父さんも楽しみにしてるってよ」
「え、えええええ⁉ 聞いてない」
フィギュアスケートのクラブは東原
「え、なんで? お父さん」
「あ、ごめんね。清華ちゃん、
大西先生が「淳ちゃん」と呼ぶのはわたしのお父さんでコーチの名前を旧姓の
「先生!」
「ごめんね」
「んんん~、練習してきます」
リンクでは
それと次の新しいシーズンはジュニアかシニアスケーターとして登録して、全日本とインターハイへ出場を目指しているんだって。だから東京選手権からずっと戦っていくかもしれない。
わたしも強化選手ではないし、海外への試合も今のところ決まっていないので、地方予選からがんばって全日本へ行こうと思っているんだ。
この時期はフィギュアスケーターが引退や休養を発表するタイミングが重なる。
日本でも
東原スケートセンターでは最後に引退した選手はアシスタントコーチをしている陽太くんが現役を終えたんだ。わたしはそれを見ていたけど、とても懐かしかったなと思っている。
「あと伶菜ちゃんがフリーを作り替えるって話、聞いた?」
「え、そうなの?」
「うん。フリーをもう作り終えたよ。
蘭先生、知らない先生の名前だった。
「あ、清華ちゃんは知らないかもしれないね。伶菜ちゃんはもともとは別のクラブ……
「そう。東原スケートセンターで練習してて、コーチが
「え、でも……わたしがスケートを始めたときには一緒だよね?」
「ああ、それね。蘭先生が急に亡くなったんだよね……練習中に倒れて」
「そっか……それで」
それを聞いて納得することができた気がする。あの頃の伶菜ちゃんは何となく暗い表情をしていたはずだった。
でも、ゴリゴリに踊ることが得意としているのは江川先生が指導していた頃から話していたんだ。
流れてきたのは『レ・ミゼラブル』でフランス革命から最後の歌うシーンまでを入れ込んだものになっている。表現力の高い伶菜ちゃんはとてもスピードに乗っているのが見えているんだよね。
ジャンプの高さがあるのでとてもすごいなと感じているのが見えているんだよね。
「すごいきれいに滑っていくね~」
「うん。伶菜ちゃん、絶対に全日本行ける」
彩羽ちゃんはとてもうっとりしたような姿で彼女を見ている。
去年の伶菜ちゃんとは雰囲気が違う、大人の女性になりつつあるような感じがしている。
「それじゃあ、今日の練習はここまでです」
「ありがとうございました。
「伶菜さん、清華さん。お疲れ様、ゆっくり休んでね」
「はい」
わたしと伶菜ちゃんと一緒に東原スケートセンターへ出て、隣のドーナツ店に入って少し軽食を食べることにした。
「そういえばさ、二人でここに来るの久しぶりだね」
「そうだね~。ドーナツを買ってドリンクもつけよう」
すぐに交通系のカードで支払ってから食べてから、話を始めることにしたんだ。
話題は大学受験に関してのことが大半だ。
「伶菜ちゃんは
「そうだね……スケートと学業の両立は普通に難しいしね。いままでは学校が近かったからで来てたのかもね」
「うん。
わたしはスケートの練習ができるように自転車圏内で通える高校に絞っていたけど、東海林学館は私立の併願校として偏差値の近い特進コースを選んで受験していたくらいだ。
「でも、清華ちゃんだったら強化選手になってそう」
「まさか。まだチャレンジカップしか出てないのに」
「優勝して帰って来たじゃん? それもトリプルアクセル跳んじゃったしさ、普通に強化選手に選ばれても良いんじゃないの? まだ実績がないのもあれかもしれないけどさ」
「でも、地元じゃ負け知らずじゃん。推薦取れるよ」
「でもね……全日本までは行きたいのよ」
わたしはすぐにポンデリング数種類を買ってカフェオレを頼んで食べ始めていた。伶菜ちゃんはイチゴのかかったドーナツとポンデリングを食べ始めている。
「インターハイってさぁ……七級あれば出れるよね?」
「うん。間に合ってよかったじゃん」
「ほんとにね~」
伶菜ちゃんは年度末に七級に合格しているので、この時点で十五歳以上でジュニアとシニアの全日本選手権への出場資格を得ることになっている。
「そうなんだ。良かったわ~」
「うん」
インターハイで二位になった伶菜ちゃんも、とても次のシーズンを楽しみにしているみたいだ。
「それじゃあ、また明日ね」
「バイバイ」
家に帰ると、今日もご飯と学校の課題を終えてすぐに寝てしまった。
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