No.1 新しい仲間とプログラム作り(2)
翌日は土曜日だったので朝から集合して練習を始めていくことにしたんだ。
「お、おはよう。早いね」
「うん。今日から振付?」
陽太くんと話をしながらウォーミングアップをして体が暖かくなってきて、スケートシューズを履いてすぐに家に帰ることをしていたんだ。
先週から新しい靴にしてようやく慣れてきた感覚になってきているのがわかった。
「あ、
「
その後に足慣らしのためにすぐにスケーティングの練習を始めることにしたんだ。
一週間前に新調したブレードは体になじみ始めて今日は本格的に滑っていくんだ。
正しい重心で勝手に滑っていくような感じですごい気持ちがいいし、加速するときの風が頬に当たるのがとても好きだ。それにエッジを深く傾けていくことを意識して、重心をもっと傾けることができそうだったりする。
わたしはそれが好きでスケーティングの練習にのめり込んでしまうことが多い。
そこからスピンの練習をしたり、ジャンプを練習すると陽太くんから振付の指導をしてくれるみたいだった。
「それじゃ
「清華ちゃん、今日はフリーの振付をするよ。曲はホルストの『木星』で合ってるよね」
「はい。よろしくお願いします」
今シーズンは振付を陽太くんが担当することになっていて、シニアのプログラムを作るのは初めてだというけれど大丈夫だと思っている。
「今回はジャンプ構成も少し限界を超える感じで作ってみたから」
「はい」
彼は三年前に
先生という感じでなくお兄ちゃん的な存在だと思っているので、基本的には知っている人はタメ口で話してる。
すぐにリンクの端っこで陽太くんが踊る前に手を挙げて合図を出し、すぐにお手本を見せてくれるみたい。
「お願いします」
「うわ……伸びがすごい」
スケーティングがすごい伸びることは知っていたけど、こんなに伸びるのは現役時代を彷彿とさせるものだった。
わたしは陽太くんの動きを覚えるように目を離さずに見ていく。
「難しいな。たぶん、陽太くんって振付かっこいいけど」
でも、加藤先生とは違った振付なのが今年は少し覚えにくいかもしれない。
そこからトリプルアクセル+ダブルトウループを跳んでいるのを見て、背筋がとてもゾッとしてしまうくらいだったんだ。
あんなにきれいに跳べるかなって思っている。
「うわ、ダブルトウループ……マジかよ」
もともとトウループを跳ぶのは苦手意識があって、すごい気にしていることが多いかもしれない。
そこからトリプルルッツとトリプルサルコウから足換えのコンビネーションスピンを始めていく。
陽太くんはスパイラルとイーグルを組み合わせたコレオシークエンス、フライングキャメルスピンをしてからすぐにジャンプを跳ぶことにしているみたいだった。
トリプルフリップとトリプルループの単独を跳んでからすぐにトリプルフリップからの三連続のコンビネーション。
それから『木星』で一番有名なメロディーに乗せてステップシークエンスは宇宙のなかにいるみたい。
その後にダブルアクセル+ダブルアクセルのジャンプシークエンスを作ってくれたことはとてもうれしかったんだ。
そこからレイバックスピンをしてフィニッシュという形なんだけど……とても困ってしまうことが多いのは事実だ。
「ちょっと待って! めちゃくちゃ難しいステップを組み込んできてるし」
「うん、もうシニアでレベルを取って加点を狙うにはこれくらいしておいても良いと思う。ルール改正があるかもしれないから」
やっぱりルール改正を気にしているみたいで、それを警戒しているみたい。
実はほぼオリンピック後恒例となっているルール改正が行われているんだ。
それで今回は大まかにシニアで関係してくるのは年齢制限の話だ。
もともとロシアを筆頭に女子が四回転ジャンプをバンバン跳ぶし、高難度ジャンプを跳ぶ選手の低年齢化が課題になっていた。それと北京オリンピックで起きたドーピング問題も影響しているかもしれない。
「よし、整氷後に集合しよう」
「はい……」
わたしは休憩している間、リンクサイドのベンチに腰掛けて待っていたんだ。
そのときに彩羽ちゃんのフリーの練習をしているのが見えた。
流れてくるのはストランヴィスキーの『火の鳥』だったんだ。
トリプルサルコウ+トリプルトウループのコンビネーションを跳んでいて、本田先生と話し合いながら何かを話しているのが見えた。
そして、自分は手袋をして大きく深呼吸をして陽太くんのもとに滑っていく。
「それじゃあ、清華ちゃん。練習をするよ」
「はい……大丈夫かな。マジで」
わたしは不安になりながらも陽太くんと一緒に練習を始めていくんだ。
曲をCDプレイヤーで流しながらすぐに滑っていく。
最初にジャンプ抜きで練習を始めていくことにして、あとからジャンプの構成を考えることにした。
「それじゃあ、俺と並走していこう」
「はい」
正直言って今日で振付を覚えていくのは難しかったんだ。
陽太くんが踊っていく振付はかっこいいのと踊りたいと思っているのに、並走しているのにスピードがとても速くて追いつくことができないんだ。
でも、いままでよりも体を動かさないといけないのが難しい。
振付をしてくれる人が違うだけでこうなるのかってくらいズタボロな感じなのかって思っちゃう。
何度もリンクで転んで立ち上がるのを繰り返して、もう乱雑な感じで振付を踊ってしまうようになった。普段はこんなことはないんだけど、気持ちの対処法が上手く見つからない。
とうとう営業時間が終わるまでに完成することができなかったんだ。
「ん~。じゃあ、今日は終わりだね」
「はい……わかりました」
息を切らしながら陽太くんの方を向くと泣きそうになってしまう。
それを我慢してすぐにクラブの子たちとあいさつをしてすぐに帰ることにした。
「今日はありがとうございました」
「ありがとうございました!」
「みんな、気をつけて帰れよ」
そのままわたしは荷物を持って家に帰るときに、理想とギャップが激しく過ぎてつらくなって涙が溢れそうになってしまう。
何となく泣いてしまいそうになるのを抑えるようにダッシュで家に帰って、シャワーを浴びてすぐに夕飯抜きでベッドに横になってしまった。
何もかもにイライラしている。
やり場のない感情は心を支配していく。
グルグルと黒い感情が心のなかに渦巻いてきてしまう。
なんでできないの、上手くいかなかったらどうしよう、あそこのブランケットからのステップが難しいのに意識できないんだろう……と思ってしまう。
次第に目元が熱くなってきて、布団の中にもぐってうずくまった。
頬と鼻筋を熱い涙が伝って、呼吸も少し荒くなるのを抑えて泣いていた。
翌朝、わたしはすぐに目を開ける。
まぶたが熱を帯びていて、少し腫れているみたいな感じをしている。
何となく体も熱を帯びてるようで、何か変になっている。
部屋を出るとすぐに朝食を食べて、今日は家に引きこもることにした。
「清華、顔赤いね。体温測って」
「うん」
体温計で測ったら三十七度九分、もう少しで三十八度になりそうな感じだった。
休日診療で診察してもらったら、季節外れのインフルエンザと言われてしまったんだ。
新学期早々に出席停止になるのは初めてだ。
しかもプログラム作りの途中で、振付の動画を送ってくれたのでそれを見ながら復帰まで待つことにした。
熱が下がればあとは筋力維持のトレーニングを家でやったりしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます