令和四年、おじいさんの贈り物
大田康湖
第1話 『ファッション・カイドウ』
東京、
令和四年七月二日、土曜日。梅雨もあっけなく終わり、外は灼熱の太陽が照りつけている。店舗の四階にある家族の住居では、昼食の片付けを済ませた
『昭和三十年、
「そうだわ、これも持って行かないと」
梨里子はテーブルの上から書店の紙袋を持ってきた。中には橘梨里子著『厩橋お祭り食堂』の原作コミックスとドラマ特集記事の載ったTV情報誌が入っている。紙袋を小脇に抱えた梨里子は、クッションの入ったパソコン用のバッグに、タブレットPCとノート、ペン型のICレコーダーと古びたアルバムを入れると立ち上がった。
「
「分かったよ」
「早く帰ってきてね」
功輝と桃美は十歳、男女の双子だ。コロナ禍でなかなか外にも行けないので、休みの日は二人でテレビゲームをしている。母親がマンガ家だということはまだよく分かっていない。
そもそも梨里子は結婚前からレディースコミック紙に連載していたが、高校の漫画同好会で知り合った
「行ってらっしゃい」
功輝と桃美の声に見送られ、帽子と不織布マスクを付けた梨里子はエレベーターで一階に降りた。
店の二階と三階は倉庫となっており、一階の店舗に夫の美津則と父の周央、母の
「お、出かけるのかい」
店名の入ったエプロン姿の美津則がカウンターから出てきた。
「梨里子を送ってくるので、お
美津則の頼みに二人は快く答えた。
「
「お土産、忘れないで」
椿が差し出した和菓子屋の紙袋を梨里子は受け取った。
「ありがとう、行って来るわね」
梨里子は店の外に出た。美津則が駐車場から車を回してくるのだ。店のショーウインドーには『ドラマ化決定』の
「おじいちゃん、横澤さんに会ったら昔話をたくさん聞いてきますね」
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