第40話打開策の模索。救世主になること
結局、私はギルドマスターのイルフィさんに相談することにした。
彼女は幼い少女の外見をしているが、私を一目で追放された元・聖女のアルメティニスと見抜いた慧眼の持ち主。それ以外にも様々なことを知っていると思われる。
竜の女の子三人やフィリムさんを信頼していないワケではないのだが、あの子たちやフィリムさんには私が元・聖女であることは隠している。もう正体を明かしても大丈夫な信頼関係は築けているとは思うものの、話すタイミングを完全に逃してしまっているので今更言い出すのも気が引ける。そして、私の正体を隠したままでは現状に対する突っ込んだ相談はできない。
ならばイルフィさんに相談してみるのがベストだと思ったのだ。
フィリムさんが言うにイルフィさんは少し調べたいことがあるから留守にしているという。このタイミングでそれは何か関係があるのではと思いつつもお帰りになられるのを待って、相談してみることにした。
仮面の召喚士として有名になっているとはいえ、このギルドではまだまだ新入りの私が話をしたいといきなり言い出したにも関わらず、イルフィさんは快く私を部屋に招き入れてくれた。
「イルフィさん」
「うん。話したいことは大体分かるよ」
全てを悟っているかのような笑みでイルフィさんは私を迎える。やはりこの人は凄い人だと思う。
「はい。イルフィさんもご存知だとは思いますが、先の決闘で……」
「君が召喚した幻獣の力を抑える力をアレクセイが持っていたこと、だね。それもゴルドバーグ公爵家の人間が提供したっていう」
「そうなんです。イルフィさん相手だから言ってしまいますが、ゴルドバーグ公爵家は私を聖女の座から降ろすことを国王陛下に強く主張していたんです」
「それは怪しいね」
あごに指を添えて思案顔になるイルフィさん。たたみかけるようでなんだが、私は続けた。
「そのゴルドバーグ公爵家は私の代わりに聖女になったミスティアとも結託して王族の権力を削ぎにかかっていると聞きますし、もしかしたら私が奇跡魔法の力を失って聖女の座を降ろされ追放されたことにも関係があるのではないかと私は考えているのですが……これは発想が飛躍しすぎでしょうか?」
自分の考えに自信がないワケではないのだが、あくまで一人の頭の中だけで考えたことだ。奇跡魔法を失った自分が聖女の座を追放されるのは仕方がないと納得してはいるが、その責任をゴルドバーグ公爵家に押し付けたいという思いがどこかにあって、それでこんな考えに辿り着いたのかもしれないと思ってイルフィさんに確認を取ってしまう。
「ううん。そこまで飛躍しているとはボクは思わないね」
が、イルフィさんは私の考えを肯定してくれた。
「ボクもアルメに対してだから言うけど、ゴルドバーグ公爵家に関する黒い噂は色々と聞いているんだ。今の聖女・ミスティアに関する話もね」
「ミスティアは……少なくともこれまでの聖女が行っていた魔物の力を抑えて、国を守るという役目を果たせてはいませんね」
「それが大問題だね。君を含めて歴代の聖女にはできていたことができていない」
聖女が私からミスティアに変わった途端、魔物たちはこの王都を含むアルカコス王国の人里を襲い始めるようになった。思い上がりではなく、私にはできていたことがミスティアにはできていない。それは聖女としての立場にも関わる大問題だと思うのだが。
「本来ならそれだけでもう今の聖女は聖女の座を降ろされても仕方がないんだけど……こうも短期間で次々に聖女が代替わりするのもあまりよろしくはないってことで一応、様子見されているみたいだね」
「そうなんですか……」
やはり私から聖女の座を奪ったミスティアの今の立場は万全とは言い難いようだ。ざまぁみろ、なんて思いはしないが、聖女として国を守る役目を果たせないのは問題だと思う。
魔物たちの力を抑えて、この国の人々を魔物たちの脅威から守る。それは聖女の第一と言ってもいい役目だ。それを果たすことができないとこの国の人々に犠牲が出てしまう恐れがある。いや、既に犠牲は出ている。
聖女の座を降ろされた私だが、聖女としての心意気まで捨てたワケではない。無辜の民を守らないといけないという強い意志は未だにある。
「…………」
イルフィさんを見る。私が追放された元・聖女であることを見抜きつつもそれに関して何ら咎めることはなかった彼女。信頼はしているが、ここから先を話していいかは流石に迷う。
……が、覚悟を決めて私は口を開く。
「実は王女のプリマシア様は私が聖女であった頃、親しくしていただいた相手です。そのプリマシア王女とどうにか接触して現状に対して案を練りたいのですが……」
「難しいね」
「……そうですね」
ざっくらばんに言い切られる。そもそも一般人が王族の人間と会って話をすること自体、難しいなんてレベルじゃないし、それに加えて私は聖女の座を降ろされ、王城・王都からの追放命令まで受けている、仮面なしではお日様の下を歩けない立場なのだ。普通の一般人よりも王族の人と接触するのはさらに難しいことだろう。
「……でも君が仮面の召喚士、救世主として名を馳せれば可能性がないワケじゃないと思う」
イルフィさんが言う。それは私も考えていたことだ。
既に私は仮面を付けた謎の召喚士として王都だけではなく、このアルカコス王国内でそれなりに支持を集めている(勿論、その正体が前聖女だとはみんな思ってもいないことだろうけど)。身に余る称号だと思うが、救世主とまで言われている。
この勢いで名声を高めていけば王族の人とも接触できる機会に恵まれるかもしれない。
「……ですが、流石にいくらなんでも仮面を付けたまま王城に登城するのは……」
「ダメだよね~」
私の懸念にイルフィさんは冗談っぽく返すが、これも深刻なことだ。
いかに仮面の召喚士として有名になっても、顔を隠したまま王城に入るのは無礼が過ぎる。そして、聖女として王城内の聖女の塔に住んでいた私の顔を知っている人間は王城には沢山いるのだ。
追放された元・聖女がいかに今、名声を高めていても王城に入ることは許されまい。最悪、その場で処刑される恐れもある。
「……でも、意外となんとかなるかもしれないよ」
「?」
しかし、イルフィさんはニヤリと笑ってそんなことを言う。どういうことだろう? 私には現状は八方ふさがりに思えてしまうのだが。
「それはどういう……?」
「そこまでは今は話せないけど、とりあえずアルメは仮面の召喚士として活躍していて。そうすれば絶対に好機はやってくる。それだけはボクが保証する」
「は、はぁ……」
イルフィさんの意図がいまいち分からず、私は容量を得ない返事をしてしまう。
「……ですが、そんな悠長なやり方で間に合うのでしょうか」
それも気がかりだ。ゴルドバーグ公爵家は仮面の召喚士である私のことを元・聖女のアルメティニスだと勘付いている節があるし、それ以前に今の聖女ミスティアが魔物の力を抑えていないことで被害に遭う人々が増えるかもしれない。悠長にしてはいられない状況だ。
「たしかにのんびりはしていられない。でも急いては事を仕損じる。急がば回れ、とも言う。今のアルメはまずはウチのギルドを代表するヒーローとして名声を高めて欲しい。焦る気持ちは分かるけど、ボクを信じてしばらくはフィリムたちと一緒に依頼をこなしてくれないかな?」
「…………」
イルフィさんは真っ直ぐな目で私を見る。その瞳は信じられる、と私は思った。
「分かりました」
「それなら良かった。早速、ってワケでもないんだけど、フィリムに伝えようとしていた難易度の高い依頼が寄せられていてね。それにアルメも行って欲しいんだけど、いいかな?」
それを断る理由など私には存在していなかった。
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