第38話聖女の力に似た力、その裏に潜む陰謀の影
ギルド『ドラゴン・ファング』の代表の私、仮面の召喚師ことアルメとギルド『グローリー・ガーディアンズ』の代表、最強剣士の異名を持つアレクセイの決闘は私の勝利で終わった。
周りの野次馬たちが沸き立つ中、私はアレクセイに近付く。
「決着は着きましたね」
「馬鹿な……お前みたいな小娘に私が!」
悔しげに私を見るアレクセイだが、私は彼に訊きたいことがあった。
「貴方……幻獣さんに何かしましたね? あれは何?」
そのことだ。
今さっきの決闘でアレクセイは私が呼んだペガサスさんに何かを仕掛けた。それでペガサスさんの力は抑え込まれたように見えた。
その後、私の自分でもよく分からない力でペガサスさんにかかった力を解くことができたけど、謎は残る。
「答える義理はない……!」
アレクセイは苛立ちげにそう言い放つが、気になることだ。あの力はまるで……元・聖女である私だからこそ分かるのだが、まるで……。
(聖女が魔物を抑え込む力みたいだった……!)
それが気になるのだ。
このアルカコス王国の聖女に代々受け継がれてきた魔物を抑える聖女の祈りの力。今さっき、アレクセイが使ったのはそれに近いものを感じた。
それはもしかしたら、私から急に奇跡魔法の力が失われて聖女の座を降ろされて追放されたことや私を追放した今の聖女ミスティアが魔物たちを抑える力を持っていないのと何か関係があるのかもしれない。
「答えてください」
再度、私はアレクセイに声をかける。アレクセイはやはり不機嫌そうにそっぽを向く。
「義理はないと言った」
そこにフィリムさんがやってくる。
「アルメ。お前はさっきのアレクセイが使った力のことが気になるのか?」
「はい。あの力はもしかしたら今の聖女が魔物を抑える力を持っていないことと関係があるかもしれません」
私がそう言うとアレクセイは動揺した。表情が歪む。一瞬のことだったが、私も仮にも元は聖女。その感情の変化を見逃しはしない。
「やはりあれは聖女の力と関係があるのですか?」
アレクセイに直接問い掛ける。
「…………知らないな」
「そんなことはないはずです!」
思わず私は感情を荒げてしまう。もしかしたら私が奇跡魔法を失い聖女を追放されたことに関わっているのかもしれないのだ。流石に感情的になる。
「アルメ。落ち着け」
「フィリムさん……ですが」
「こういう交渉事は私に任せろ」
フィリムさんは仮面に隠れている私の表情を読み取っているように目線をこちらに向ける。ここはフィリムさんに任せた方がいい、と思った私は沈黙を返事とする。
「グローリー・ガーディアンズの最強剣士アレクセイ」
「……なんだ? ドラゴン・ファングの最強の女戦士フィリム」
「名前を知ってくれているとは光栄だが……こちらもタダで情報を得たいとは思わない」
「……なんだと?」
フィリムさんの言葉が思いもよらないと言うようにアレクセイはフィリムさんを見返す。
「情報を提供してくれたのなら、こちらも決闘で苦戦したということにしよう。そうすればそちらの最低限の面子は立つのではないか?」
「…………」
それはアレクセイにとっては魅力的な提案だったのだろう。アレクセイの目が泳ぐ。
「……いいだろう」
少しの沈黙の後、アレクセイが頷く。
「では、訊こう。さっき使った幻獣の力を抑えたような力。あれはどこで手に入れた?」
「……ウチのギルドに売り込んできたんだ」
「売り込んできた?」
アレクセイの答えにフィリムさんはいぶかしむような声を返す。売り込んできたというのは予想できない入手方法だ。まさか単なる商人が持ってきたとは思えないが……。
「怪しい男だったな。だが、これを使えば仮面の召喚士が呼び出す幻獣にも勝てるって言っていた」
「それをお前は、いや、お前たちは信じたのか?」
フィリムさんはさらに問い詰める。そんな不確かな情報を元に別のギルド、それも圧倒的な力を持つ幻獣を呼び出せる私に決闘を申し込むのはいささか思慮が足りないと思う。
「信じるさ。その男はゴルドバーグ公爵家の家紋を持っていたんだから」
「!?」
私は思わず息を呑む。ゴルドバーグ公爵といえば私を聖女の座から追放することにも関わっていると思われる大貴族だ。その家の関連者が……?
「ゴルドバーグ公爵家といえば大貴族だな。たしかにそれは信じる理由としては弱くはない」
「そうだ。その男はゴルドバーグ公爵家としてもそこの仮面の小娘に好き勝手されるのは迷惑だってな」
アレクセイの言葉に再び息を呑む。ゴルドバーグ公爵家……ゴルドバーグ公爵は私のことに勘付いている? 仮面の召喚士の正体は追放された前聖女アルメティニスであることを察しているというのか?
私が仮面の下に動揺を隠す一方、フィリムさんは理解できないと言う風に問い詰める。
「何故、ゴルドバーグ公爵家なんて大貴族が、たかが1ギルドの冒険者に好き勝手されたら困る?」
「そんなことは知らないね。だが、ウチとしても最強ギルドの沽券にかかわる話だ。そこの仮面の小娘がヒーロー扱いを受けるのは」
「お互いの利権は噛み合っていた。それでその力を受け取り、決闘をしかけたというワケか」
「そうなるな」
フィリムさんとアレクセイの会話を聞きつつも私は胸が騒ぐのを感じた。
この決闘の裏にはゴルドバーグ公爵家が絡んでいる。
だとすればそれは私の聖女としての失われた力や今の聖女ミスティアにも関わること。
それは間違いないことだと思えた。
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