奇跡を失い追放された聖女。古の最強召喚術を得て竜の幼女らと百合しつつ救世主に!

一(はじめ)

第1話聖女追放


「アルメお姉ちゃん、行こうよ!」

「アルメ様、まいりましょう」

「アルメ、行こう」

「分かっているわ、みんな」


 竜の女の子たちが呼ぶ声に応える。私と竜の女の子たちの旅路は順調だ。

 私の15歳の誕生日。私の聖女の力は陰謀により失われ、私は聖女でなくなった。

 これは私が聖女を追放された後、聖女の奇跡より稀少で凄い召喚術の力を手に入れ、可愛らしい竜の女の子たちと共に冒険し、救世主と呼ばれるまでの物語。



 私は聖女アルメティニス。

 アルカコス王国で聖女として崇められている人間だ。


 アルカコスの聖女は長い歴史の中で代替わりしており、私は第17代目に当たる。

 聖女になる条件は色々あるのだが、奇跡魔法と呼ばれる通常の魔法を遥かに凌駕した力を誇る魔法が使える女性である事が必須条件となっている。


 奇跡魔法を使える人間というのは数万人に一人いるかいないかという程度の稀少さなのでこの条件さえクリアできて、今の聖女が引退を考えていればほぼ次の聖女に選ばれると言ってもいい。


 それまでの身分に関係なく、である。


 私が10歳になった時に第17代目聖女として私は聖女になった。


 それからは多少の戸惑いはあれども充実した生活を送っていたと言ってもいい。


 聖女として国民の多くや貴族、王家の方々からも尊敬の念を受ける日々。

 仕事も奇跡魔法を使わないと対処できないような厄介な他国からの呪詛や、国内にはびこる疫病などの対処。式典・祭典などで奇跡魔法の披露により国民の王国への忠誠心を高めさせること。


 さらに大型の魔物が出た際の討伐の手伝いなどであり、文字通り、奇跡を可能にする奇跡魔法を使えばそう難しいことではなかった。


 あいにくと聖女という立場上、敬意は払われつつも美味しいものを食べて(食事はほぼ例外なく薄味の精進料理だ)、高価な服や装飾品を纏うというような豪華絢爛な生活ではなかったが、平民に生まれた身としては望外の幸運な人生を送れている、と思っていた。


 15歳の誕生日を迎えた、あの日までは。


「奇跡魔法が……使えない……?」


 聖女の誕生日パーティーである。


 アルカコス王国の王家の人間を含む、貴族たちも大勢参加し(やはり私は豪勢な料理は食べられないのであるが)、聖女を祝う。


 既に顔なじみ、いや親友の仲にもなっている王女プリマシア様を筆頭に、国王陛下を始め大勢の方から祝福の言葉を受けて、締めに私が奇跡魔法を使って既に夜の時間帯にも関わらずお昼のように太陽の輝きで城を照らす。


 その恒例行事を行おうとした時だった。


 私はとんでもない事実に気付いてしまったのだ。


 奇跡魔法が、私を聖女たらしめる最大の要素が私の中からなくなってしまっていたのだ。


「どうかなされたのですかな、聖女様」


 貴族の中でも最大級の力を持ったゴルドバーグ公爵が豪勢でカロリーの高い食べ物ばかりを食べていてすっかり太り切ってしまった腹を揺らし、肉がたっぷりついた丸っこい顔を不審そうにしかめながら私を見る。


 その目は鋭く、疑惑の色を含んでいる。まずい、と私は直感的に思った。


「聖女様?」


 今度はプリマシア王女様の言葉だ。こちらは先のゴルドバーグ公爵と違い、不審がっているというより不思議に思っているようだ。


 私と同い年のはずだが、同年代よりも幼く見える顔たちの私よりもさらに幼く見える王女の美しい顔が普段の天真爛漫な笑顔とは異なり、不安そうに、心配そうに私を見る。


「あ、申し訳ありません。少し疲れてしまいました。いつもの奇跡魔法での締めは今回は……」

「そうなのですか。それでは仕方がありませんね」


 プリマシア王女は納得したようにいつもの人を疑うことも憎むこともまるで知らない天真爛漫な笑みを浮かべて頷く。他の貴族や王家の人たちもそれなら仕方がないな、と解散のムードになる。


 と、とりあえずは誤魔化せた……。

 私は安堵する。


(大丈夫……今日はちょっと調子が悪いだけ。一晩寝ればまた使えるようになっている……)


 私は自分自身に言い聞かせるようにそう思うと聖女の塔と呼ばれる王城の敷地内に作られた自らの住居に戻ろうとした。

 私の背中に浴びせられるゴルドバーグ公爵の訝しげな視線に不安を覚えながら。


 だが、その日を境に私は二度と奇跡魔法を使えることはなかった。


 すぐにその事実は王城内に知れ渡ることになり、私は国王陛下に呼び出しを受けた。


「聖女アルメティニス。貴女は奇跡魔法を使えなくなったと聞いているが、誠か?」


 既に齢60を超えた国王陛下が厳格な声で私に問い質す。


 聖女とはいえ、元々がただの平民の女であった私ではこのアルカコス王国の全てを統べる国王陛下にいつも圧倒されてしまう。


「それではもはや聖女様は聖女ではありませぬな」


 この場に同席したゴルドバーグ公爵が容赦のない言葉を言い放つ。


 奇跡魔法が使えないのであれば、その女性はもう聖女ではない。それは当たり前のことである。

 それは分かっているのだが……。


「そ、それはその通りなのですが……」


 なんとか弁明の言葉を発しようとする私。でも、言葉が出ない。


「ち、父上! 公爵も! 聖女様は少し調子が悪いだけなのです! 奇跡魔法もすぐに使えるようになります! そのような恐い目で聖女様を見るのはやめてください!」

「プリマシア王女様……」


 同席しているプリマシア王女様だけがこの場で私を庇おうとする。幼い顔ながら必死の形相で私を庇おうとしてくれている。そのことをありがたく思う。


「良い。プリマシア。既に代わりの聖女は見つかっている」

「代わりの……聖女……」


 だが、そんな王女様の言葉も通じず、国王陛下はとうとう決定的な一言を発してしまった。


 代わりが、いる。

 それは私を聖女でなくすことに充分すぎる条件だ。


 奇跡魔法が使えないだけならまだ聖女の座に残ることができる可能性もあった。

 聖女不在というのはこの国の国民に大きく動揺を与えてしまう。


 奇跡魔法が使えなくなったことを隠してお飾りの聖女としてなんとか聖女の地位を維持することも不可能ではなかった。


 だが、既に代わりがいる……。ならば奇跡魔法が使える女性が新たに現れたということなのか……。


「入れ。ミスティア」


 国王陛下の声と共に謁見の間に一人の女性が入って来る。年の頃は私より少し上だろうか。だが、その名を聞き、顔を見た瞬間、私は衝撃を覚えた。


「あ、貴方は……」

「久しぶりね。聖女様。いえ、もう聖女でもない、ただの下賤の女」


 私の故郷の村で有力者であった家の娘だ。私が奇跡魔法を発現する前には付き合いがあった。

 いやそれは付き合いなんてものでもない。私は一平民の娘として、ミスティアには頭を下げ、ミスティアも私の事を下賤の女と見下していた。


 私は聖女になるまではただの平民……いや、貧乏な平民であり、家はアルカコス王国の中でも端の端の辺境の山近く。代々、狩猟を生業として生計を立てていた。


 私も本来なら家の生業を受け継いで女ながらに狩りをして人生を過ごすしかなかったはずのだが、幼少期にいきなり奇跡魔法を発動できたことで全ての運命が変わったのだ。


「貴方みたいな下賤の女が聖女様なんて何かおかしいと思っていたのよ。やっぱり偽りの聖女だったわね」

「そんなことは! 私は……!」

「奇跡魔法が使えなくなったんでしょう? そんな聖女はいないわよ」


 悔しいがミスティアの言う事に全く反論できない。

 奇跡魔法が使えない。それは聖女ではなく、ただの人だ。


「あ、貴方は奇跡魔法が使えるというの……?」


 だが、それが疑問だった。私の知っている限りではミスティアが奇跡魔法を使えるなんて話は聞いたことがなかった。それが。


「ふっ……」


 ミスティアは私を見下すかつての目を向けると手をかざす。そこから太陽の輝き、いや、それよりも神聖さを感じさせる輝きを放つ。


 奇跡魔法。


 そうとしか言いようがない。


 これは普通の魔法ではない。レベルの高い魔法使いなら真似事くらいはできるかもしれないが、この全身に感じる今すぐ、膝を折り、こうべを垂れたいと思ってしまう神聖さは奇跡魔法としか言いようがない。


「ようやく貴方に真の立場の違いを分からせてあげられたわ」


 満足したようにミスティアは言い放つと腕を下ろし、神聖な輝きも消えた。

 見計らっていたように国王陛下が口を開く。


「これよりミスティアを第18代目聖女とする! 偽りの聖女アルメティニスよ。お主はこの城から追放する。偽りの聖女とはいえ仮にも我が娘・プリマシアと親しかった身だ。命を奪うとまでは言わん。しかし、この城の付近に近付くことの一切を禁じる。城下町からも出ていき、大人しく故郷に戻るがいい」

「こ、国王陛下! 私は!」

「お父様! 聖女様に……アルメティニスに対してひどすぎます!」


 私はなんとか国王陛下の情に訴えようとし、プリマシア王女様も私を擁護しようとする。


 しかし、奇跡魔法が使えなくなった聖女。代わりに奇跡魔法が使える女性がいる。

 この時点でもう私が聖女でいられるはずもなかった。


 私は聖女の任を解かれ、聖女の名を騙った罪人としてアルカコス王国に記録されることになった。


 処刑されなかっただけマシかもしれないが、それもプリマシア王女様の必死の嘆願があってのことかもしれない。


 その王女様でもそれ以上はできなかった。


 文字通り、私は追放され、王城を、王都を追い出され、身一つで故郷に帰らされることになった。

 全てを失い絶望するしかない私であった。



「うまくいったね」

「ええ、ミスティア様。アルメティニスから奇跡の力を奪う禁呪……」

「ふふっ、聖女にこんな真似したなんてしれたら貴方もただじゃおかないですわよ、ゴルドバーグ公爵」

「このことが表ざたになることはありませぬ。それより第18代目聖女として我々を引き立てる約束、よろしくお願いしますぞ」

「勿論よ。貴方も私を多くの貴族に紹介してね。お飾りの聖女なんかじゃなくて、私がこの国で権力を握るのだから……」


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