心残りラスク
枕露亜
短編:心残りラスク
くるくるくる、肩に落ちたひと房の髪を人差し指にねじりながら、きらきら乱反射するラスクを一口齧った。アカリは。
「変わったね」
「そう?」
私は彼女の目を見た時に、結局、変わらないんだなって、ラテをすすりながら思う。
言と思いでちぐはぐだけれど、それがすべてで、私の中では完結していた。
「変わったっていうと、あんたも変わったよ」
「私?」
カップを置いた自分の手に自然と目線が流れ、指先、甲、下腕、と過去が重ねられる。
たしかに、大学に上がって私は大きく変わった。
髪型は変えたし、おしゃれに少し気を遣うようになった。眼鏡からコンタクトにしたし、友達と放課後に遊ぶことも増えた。でも。
「そうかな」
苦笑いしながら、私は変わってないな、と一種の自己卑下じみた感覚に浸って、すぐに表層へ上がった。
変わったところは勿論、あるのかもしれない。けれど、形成されたもともとの人格は全然変わらなくて。どうしようもなく、展性はなくて。
「そういや、あたしさ。海外行くわ」
「そっか」
なんでもないように、アカリは言うんだ。私の返す言葉は渇いた文字しか吐けなかった。
私の目は彼女の横顔を映しているけれど、私は彼女の目に映っていない。
もちろん、私は何も動いていないんだ。アカリと関わって、ただ馴れあって、狎れあって、慣れあって。
ただ、彼女を見ながらラテを飲むだけ。
「嘘」
私は勝手に言葉を紡ぎだした。今までの事、これからの事、それらすべてが詰まった不快な言葉。
そんな言葉に返すアカリはいない。いてはいけない。
幾らか経ったか。
「じゃあ、あたし行くから」
彼女は日の光のそばから離れていく。
私は、ずっと俯いたまま。
最悪だ。
私は、この痛みを生理的に、生物的に代謝されて、分子に還元されて、底に眠っていくのか。
どこに向けているのか、自分でもわからない悔しさ。怒り。悲しさ。
それは、けして相互的なものじゃなくて、押しつけがましい希望だったみたいだけれど。
でも、と私は立ち上がる。
「うん、また」
私は流行りのスカートに散ったラスクの欠片を払いのけて。
心残りラスク 枕露亜 @pillow_low
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