【友達思いの殺人者】②

 時間は巻き戻る。

 モリアーティと黒瀧、九十九が美術館で集まっていた頃。九十九探偵事務所の三階に来た男は、泉音に探偵たちのことを話し終えていた。

「……というわけです。この事務所と探偵たちの正体、分かっていただけましたか?」

 向かいに座る男が、泉音に言う。

「……」

 泉音は何も答えない。男への警戒を、その顔と態度に表している。

「ああ、ここへ来た時に言った通り、私は怪しい者ではありません。『探偵』つながりということで、三階の方とはお友達のようなものです」

「お友達……なんだ、そうだったんですか!」

 その言葉で、ぱあ、っと泉音の顔が明るくなった。泉音は一瞬にして、男に対する警戒をく。

「うわあ、そうとは知らず、お茶も出さずにすみません! 今、用意しますね」

 泉音は立ち上がり、ばたばたと部屋の奥へ向かう。そんな彼女の背中に、男が声をかける。

「こちらも、それを先に言えばよかったですね。すみませんが、飲み物は紅茶をいただけますか。スティックシュガーを三本、ティーパックは三分半さんぷんはんしてくださいね。急がなくて結構ですよ。最初から、ここの『探偵』が来るまで待つつもりでしたから」

「そうだったんですか」

 奥の部屋から返事をする。てきぱきと泉音はケトルに水を入れ、ボタンを押して沸かす。その間に、二人分のカップを用意し始める。

「それにしても、夜弦君のお友達だなんて。やっぱり探偵ってすごいんですね」

「そうですねえ。すごいというか、『探偵』は元からそうできているのです。生まれた時から『探偵』だった……とでも言うのでしょうか。私も最近気づいたのですが」

 背中越しに、男の声が返ってくる。泉音は背伸びして冷蔵庫の上のかごを覗き、スティックシュガーを探している。しかし夜弦にコーヒーを出した時に彼がほとんど使ってしまったので、残っているのが一本しかない。泉音は浮かせていたかかとを床につける。

「生まれた時からってことは、代々だいだい探偵たんていだった……みたいな感じですか?」

「それは少し違いますね。我々は『探偵』になるのです。その前は全員、普通の、そう、どこにでもいる人間でしたよ。私なんかは、しがない銀行員でしたから」

「へえ……」

 ケトルに入れた水が沸く。泉音は火傷しないようにそれを傾け、ティーパックを入れたカップにそそいでいく。スマートフォンのタイマーアプリを起動させて、三分半きっちりと待つ。出来上がったそれをトレーに乗せ、部屋に戻る。

「すみません。お待たせし……」

「あ。早いですね。これは予想外。はちみつも追加すればよかったですね」

 男がにっこりした。いつの間にかソファから移動し、夜弦の机を勝手に開けている。

(僕の机は触るなよ。僕の机を勝手に開けたり、この部屋を探ろうとしている怪しい奴は、ここの事務所の奴でも問答もんどう無用むようでぶっ殺していいぞ)

 泉音の脳内に、夜弦が出かける前言ったことが浮かぶ。

 そして、その言葉を思い浮かべた一秒後。泉音はトレーに乗っているカップの一つを掴み、男に向かって中身をぶちまけた。

「!」

 顔面に熱々の紅茶をかけられ、男が顔を押さえてよろめく。泉音はすぐさま次の行動に出る。

 持っているトレーを床に落とし、自身はソファへ置いてある自分のリュックに向かう。派手な音を立ててカップが割れるが、泉音は見向きもしない。

 リュックの中を開け、入れていたものを取り出す。引き抜いたのは、ホームセンターなどで普通に売っている一般的なバールだ。短い方の先端せんたんがV字にれており、反対側の長いの先端部分は薄く平たい形状になっている。

「……これは予想外です。狼どころか、こんな猛獣もうじゅうがいたなんて」

 ようやく顔の紅茶をぬぐった男が、泉音を見て呟く。

 泉音は容赦なく、男の頭にバールを振り下ろした。

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