【友達思いの殺人者】②
時間は巻き戻る。
モリアーティと黒瀧、九十九が美術館で集まっていた頃。九十九探偵事務所の三階に来た男は、泉音に探偵たちのことを話し終えていた。
「……というわけです。この事務所と探偵たちの正体、分かっていただけましたか?」
向かいに座る男が、泉音に言う。
「……」
泉音は何も答えない。男への警戒を、その顔と態度に表している。
「ああ、ここへ来た時に言った通り、私は怪しい者ではありません。『探偵』
「お友達……なんだ、そうだったんですか!」
その言葉で、ぱあ、っと泉音の顔が明るくなった。泉音は一瞬にして、男に対する警戒を
「うわあ、そうとは知らず、お茶も出さずにすみません! 今、用意しますね」
泉音は立ち上がり、ばたばたと部屋の奥へ向かう。そんな彼女の背中に、男が声をかける。
「こちらも、それを先に言えばよかったですね。すみませんが、飲み物は紅茶をいただけますか。スティックシュガーを三本、ティーパックは
「そうだったんですか」
奥の部屋から返事をする。てきぱきと泉音はケトルに水を入れ、ボタンを押して沸かす。その間に、二人分のカップを用意し始める。
「それにしても、夜弦君のお友達だなんて。やっぱり探偵ってすごいんですね」
「そうですねえ。すごいというか、『探偵』は元からそうできているのです。生まれた時から『探偵』だった……とでも言うのでしょうか。私も最近気づいたのですが」
背中越しに、男の声が返ってくる。泉音は背伸びして冷蔵庫の上のかごを覗き、スティックシュガーを探している。しかし夜弦にコーヒーを出した時に彼がほとんど使ってしまったので、残っているのが一本しかない。泉音は浮かせていた
「生まれた時からってことは、
「それは少し違いますね。我々は『探偵』になるのです。その前は全員、普通の、そう、どこにでもいる人間でしたよ。私なんかは、しがない銀行員でしたから」
「へえ……」
ケトルに入れた水が沸く。泉音は火傷しないようにそれを傾け、ティーパックを入れたカップに
「すみません。お待たせし……」
「あ。早いですね。これは予想外。はちみつも追加すればよかったですね」
男がにっこりした。いつの間にかソファから移動し、夜弦の机を勝手に開けている。
(僕の机は触るなよ。僕の机を勝手に開けたり、この部屋を探ろうとしている怪しい奴は、ここの事務所の奴でも
泉音の脳内に、夜弦が出かける前言ったことが浮かぶ。
そして、その言葉を思い浮かべた一秒後。泉音はトレーに乗っているカップの一つを掴み、男に向かって中身をぶちまけた。
「!」
顔面に熱々の紅茶をかけられ、男が顔を押さえてよろめく。泉音はすぐさま次の行動に出る。
持っているトレーを床に落とし、自身はソファへ置いてある自分のリュックに向かう。派手な音を立ててカップが割れるが、泉音は見向きもしない。
リュックの中を開け、入れていたものを取り出す。引き抜いたのは、ホームセンターなどで普通に売っている一般的なバールだ。短い方の
「……これは予想外です。狼どころか、こんな
ようやく顔の紅茶をぬぐった男が、泉音を見て呟く。
泉音は容赦なく、男の頭にバールを振り下ろした。
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