【友達思いの殺人者】

【友達思いの殺人者】①

「そうだ。お前が言っていた新しい助手だが。調べてきたぞ」

 拝島の美術館を出た時。ふと、黒瀧が切り出した。そして、脇に挟んでいたファイルを開く。

「昔、とある中学校で起きた事故じこは知ってるか? いじめられていた女子生徒が階段から落ちて死亡した事故だ」

 開いたページを九十九に見せる。綴じられているのは、少し古びた新聞記事だ。九十九はそれを受け取り、遮光眼鏡を持ち上げ、目を近づけて文を読んでいく。

 新聞記事の日付は四年前になっている。どこかの学校が映っており、『いじめ』や『階段から落ちて死亡』という文章が目立つ。貼り付けられた可愛らしい女の子の顔写真の下には、『亡くなった新谷加代子ちゃん』と書かれている。

 新聞記事の文章を呼んでいる九十九に、黒瀧が説明する。

「事故で死亡した生徒の名前は新谷しんたに加代子かよこ。その生徒は同級生からひどいいじめを受けていたらしい。

 お前から、調査してくれという奴の名前を聞いた時は俺も忘れかけていたが、この事件は俺も覚えがある。俺は当時、交番こうばん勤務きんむだったから関わりはなかったが。

 この出来事は、『探偵』もまだ警視庁に来る前に起きた事故だな。当時はそこそこ騒がれたらしい」

 黒瀧は説明を続けていく。

「死亡した新谷加代子には、同じクラスで仲のいい女子生徒がいたらしい。その生徒の名前は芹沢せりざわ泉音いずね。虐待や育児放棄により、幼稚園や保育園などは通っていない。

 その事件後、芹沢は刑事けいじ未成年みせいねんである十四歳未満の少年少女も受け入れている養護施設に入り、中学卒業までそこで育ったらしい。これはその施設のパンフレットだ」

 黒瀧は別の紙を九十九に見せる。

 その紙には『養護施設 かざみどりのいえ』と書かれ、壮年そうねんの男性と数人の子供たちが笑顔を浮かべて映っている。男性の横には小さい文字で、『代表の風見萃さん』と書かれている。

「事件のあと、警察は生徒と教師に事情じじょう聴取ちょうしゅをしたようだ。当時その件にあたっていた奴に聞いた話だが、偶然ぐうぜん現場を見ていた生徒が、妙な証言をしていたらしい」

「妙な?」

「ああ。

 証言によると、階段の上で新谷加代子はいじめの首謀者三人に囲まれていた。何かを話していたようだが、突然とつぜん、芹沢泉音が彼女を突き落とした……と。そして当の本人、芹沢はこれについて、『かよちゃんに助けてって言われたから』と言っていたらしい」

 さらに黒瀧は、最後にこう付け加えた。

「中学卒業を期に、芹沢は養子ようし縁組えんぐみで引き取られ、以降いこう、今は遠巻とおまき泉音いずみねと名乗っているようだ」

 黒瀧が言い終わると同時、九十九のスマートフォンから着信音が鳴った。

「なに?」

 九十九は相手の名前を確認しないまま電話に出る。

『お疲れ様です九十九さん』

 声は九十九探偵事務所一階で東雲の助手をしている結城だった。

『ええと、今どちらにいらっしゃいますかね。ちょっと三階でトラブルっていうか……いや、いつものことって言えばいつものことなんですけど……』

「三階は誰もいないはずでしょ。長い話はいらないから、分かってることだけ言って」

『じゃあえーっと……そうですね』

 電話口の結城はそう挟み、言った。

『多分、イズネちゃんが一人殺しました。三階に死体が転がってます。部屋の中は散らかってるし、なんていうかすごい有様ありさまですよ』

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