Vの登竜門(リクエスト作品)

小雨(こあめ、小飴)

第1回配信 私、Vになる!

 立ち絵よし、コメント欄よし、効果音と……その他もろもろヨシ!準備は整った。配信開始のボタンを押す指が震える、まるで生まれたての小鹿だ。

「大丈夫、おおおちつけぇ私ぃ」

 座る椅子がギシっと軋み、その音に驚いて飛び上がる。その反動で開始のボタンを押してしまう。故に記念すべき第一声は、

「あぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 になってしまった。


 コメント欄には”⁉”や”どうしたw”などのコメントが並び、Twitterのハッシュタグも瞬く間に広がる。アタフタしてるうちにコメントが飛び交い収拾がつかなくなった。とりあえずやることメモを書いていたおかげで、最低限の軌道修正は可能だった。

「は、初めまして!ミイナです! えと、よろしくお願いします!」

 コメント欄にちらほらと”かわいい”や”ええやん”などのコメントが見えてちょっとうれしくなる。やること1、自己紹介。これは割とすぐに終わった。自分の名前と性別、趣味などオーソドックスなものを紹介する。

 やることその2、コメントへの反応。これはなかなかの強敵だった。なんせ一言目のせいでコメント欄はいまだに盛り上がっているからだ。半分無法地帯にも見える。コメントの速度が落ち着くのに大体35分かかった。視聴数は58と、個人勢なら多いかなくらいの人数が見てくれている。やること3、雑談、フリートーク。今日は1時間くらい喋ろうと思って配信する決心をしたので、最近のゲームの話などで場をつなぐ。私の言葉だけだとボギャブラリーが足りないが、視聴者がいるおかげで大まかな内容の補正が入る。それだけで配信は成り立った。最終的には70人近い人数が視聴しに来てくれ、初手のトラブルはあったものの、初配信自体は成功に終わった。

「では、終わりたいと思います~、ご視聴ありがとうございました~」

 コメント欄には”おつ”や”おつミイナ”などが並び配信終了ボタンを押し、配信終了のポップアップが表示される。

「はぁあああ、終わったぁ……やらかしたなぁあああ」

 ため息交じりで終わったことに安どする。終わった安心感と、やらかした恥ずかしさで複雑な感情になる。ふと心配になって配信アーカイブを見返す。

「あぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 第一声が聞こえて顔がカッと熱くなるのを感じる。まるで激辛カレーとかを口に入れた感じだ。頭の中で第一声が反芻されどうしたらいいかわからなくなりとりあえずアーカイブを閉じた。


 次の日、エゴサすると数件の自分に対するツイートが見られた。第一声や雑談内容に関してのツイートを見てうれしさと恥ずかしさで、朝から枕に頭を突っ込む羽目になった。そんなこんなで一難ありながらも、私のVチューバー生活は始まったのだった。

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