第48話 Curse
「――呪いィ!?」
俺は思わず、藍沢が発した言葉を繰り返してしまった。
夕日が窓から差し込む教室に俺のアホみたいな声が響く。
「そ、そうです・・・信じられないかもしれないですけど・・・呪い・・・なんです」
藍沢は真剣な顔である。
しょうもない冗談を言っているような場合でもなければ、そういう空気でもなかった。
「え、えっと・・・? その呪いっつうのが昨日の薬局で起きた訳わかんねえ事件と関係あるってことか・・・?」
彼女はコクリと頷いた。
「・・・はい」
「いや分からん分からん。どういうことだよ・・・1から説明してくれ」
「あ、すみませんいきなり過ぎますよね・・・ちゃんと順を追って説明します」
深呼吸する藍沢。どことなく緊張している様子だ。
「えと、まずこの島ではあらゆるものがSEPで購入できるという話は、御影くんも知ってますよね」
「あ、ああ・・・それはまあ・・・」
SEPさえあれば、食料品から人の尊厳までありとあらゆるものが買えてしまう。その異常さについては一定の理解をしているつもりだ。
「その上で、呪いという言葉を咀嚼してほしいです」
「・・・? なんだ、どういうことだってばよ。全然順を追ってもらえてない気がするぜ・・・いきなり素数を覚えさせられる小学生の気分だ・・・」
呪いなんて言葉を咀嚼する必要があるのはRPGの中くらいのもんで、1ターン経過するごとにダメージを受けんのか、行動を封じられるのかは知らないが、少なくとも今この瞬間に答えを出すことは不可能だと思った。
「すまん・・・まったく咀嚼できねえ・・・」
ということですぐ諦めて頭を下げた。
間髪入れずに俺の頭上で、正解が呟かれる。元々俺が答えにたどり着けないと分かっていたのだろうか。
「――呪いさえも、SEPがあれば買えるんです」
「・・・呪いが、買える・・・?」
うん、分からん。
答えを告げられても、解法も途中式もないのでは理解のしようがない。
キョトンとせざるを得ない俺を置いて、藍沢はうつろな目で続けた。
「・・・あの日、私は・・・ッ」
「だ、大丈夫か?」
一瞬だけ、藍沢は言葉を紡ぐのをためらった。
唇を噛みしめ、肩に力が入っている。
俺の言葉に答えるように首を横に振り、それでも尚絞り出すように、真実を告げる。
「――あの男が私の・・・いえ、この島の全てを歪めてしまったんです。・・・――SEPの権利を行使することによって」
「――っ、藍沢・・・お前・・・」
窓から差し込む光が、彼女の頬を伝う涙に反射していた。
夕焼けに微睡む教室で、無垢な彼女は忌まわしき過去を語る。
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