第28話 L Loom:2
いつのまにか葛西は俺を正面に迎えてソファに正座していた。
少し潤んだ瞳に俺はドキリとする。
なんだ? 葛西はなんて言った?
俺が欲しいだ? おいおい冗談だろ? 幻聴か?
「え、えと葛西、俺は――」
「ううん、答えなくていいの。YESでもNOでもきっと誰かが損をする。だから私はSEPを稼ぐよ」
「・・・? SEPを稼ぐ?」
どうして、今SEPの話に・・・?
「SEPで、御影くんの人権を購入するためだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
ん? なに? 人権のフリーまっけっと?
「SEPは何でも買える。食べ物も日用品も電化製品も、それ以外のものでも"この島に存在するもの全て"が対象だよ」
余りのイカレ具合に、絶句する。
なに? 俺の人権を買う? 年パスみたいなノリで俺の人権買うの?
てか、人権買うって何???
「勿論"他人の人権"だから必要なSEPはべらぼうに高い。でも、もうここまできたら諦められないの」
どこまで来ても引き返していい道もあるはずだ、と俺は言いたくなった。
しかし、俺に有無を言わせない気迫が彼女からは漂っている。
「い、いや葛西、話に全くついていけないぞ・・・」
「だって、あ、あそこまで二人の距離を縮めておいて今さら他人に戻るなんて、無理だもん・・・」
あそこまで――というのはおそらく先日の件だろうが、あれって距離縮まるイベントに換算していいの? 物理的にしか縮まってなかったよ?
「御影くんの言いたいことは分かる。『俺の人権くらいタダでもいいよ』って、ありがとう。でもね、私もちゃんと御影くんと向き合うために、頑張りたいの」
いや何も分かってないよこの人。脳内で勝手に俺の分身作って遊んでるよ。何このカオス。顔赤らめてる葛西さんの可愛さと狂気をひしひしと感じてるんだけど。
「だからね、御影くん。それまでは私たちの逢瀬はお預け」
「おうせ・・・」
なんつー古風な言葉を。
そして別にお預けっつうかそもそもそんな予定はないというか・・・
「高校生活は長いんだし、時間をかけてゆっくり愛を育もみたいの。熱しやすく冷めやすい恋じゃなくて、じっくり燃え続ける愛の方がいいと思うし」
「・・・」
俺は、考えるのを止めた。
葛西一葉という人間は、確かに学園きっての美女である。
だが同時に、学園きっての変人でもあるのだろう。
「こんな話、他の誰かに聞かれちゃまずいし、それこそ秋庭さんにも聞かれたくなかったから・・・わざわざこんな個室に呼び出して、期待させちゃってごめんね? あ、そうだ、私のヌードなら送ってあげるからそれで――」
「・・・いや、大丈夫」
「えー? 足りない? それじゃあ音声でも送ろ――」
その時、葛西のポケットから携帯電話の音が鳴った。
葛西は慌てて電話を手に取る。
「――もしもし? うん・・・うん・・・え、ホント!? 分かった、すぐ行くね」
良かった。解放される。
「ごめんね御影くん、ちょっと急に呼び出し喰らっちゃって・・・! 部屋の鍵は職員室に返してもらえれば良いから! あとよろしく!」
「はいはーい」
もう適当に手をひらひらさせて、葛西を見送る。
「・・・? どした?」
が、葛西がなぜか扉の前で立ったままだった。
「・・・み、御影くん・・・」
「・・・?」
学園きっての美女がこちらを振り向いて、とびっきりの笑顔で微笑んだ。
「――愛してるぞっ!」
それだけ言って、彼女は扉を勢いよく開けて去っていった。
相変わらず、去り際に訳わからんことを言う人である。
「・・・ふぅ」
一つため息をついて、俺は綺麗に整えられている仮眠用ベッドに飛び込んだ。
妙な緊張感から解放されたおかげか、それとも訳の分からない葛西の言葉に脳が疲れてしまったのか。
ともかく異常な疲労感を感じていた俺は、そのまま眠りに着いたのだった。
仮眠用ベッドにしては、随分と深く沈みこむ質の良いベッドだった。
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