第228話 と期待したけど……。

 ジルもクロードと同じくハイエルフ。

 しかも魔法に関してはクロードバカよりも遥かに精通した帝国神官長。

 もちろんヒールの魔法も心得ている。

 アルテマたちはさっそくジル(携帯)を持って元一のもとへと行こうとしたが、


「……で、コレはどうやって持ち運べば?」


 ビンッ――と繋がったゴーレムを引っ張って、アルテマは困惑した。

 移動するために一度ゴーレムを抜いてみたら、電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールはまた止まってしまった。

 慌てて挿し直し、復帰したが、このままでは繋がっている範囲内でしか動くことができない。


「どうもこうも……わたしに聞かれても……。ゴーレムって伸びたりしないのか?」

「……多少は伸びるが、病院までは届かんぞ!?」

「え~~~~……じゃあどうするんだ……。せっかくヒールを唱えてもらえるようになったのに……今度は移動できないなんてジレンマにもほどがあるぞ……」


 一難去ってまた一難。

 新たに持ち上がった問題に頭をかかえるモジョ。


「……げ、元一をここまで運んでくることは?」

「……ヒールの存在を病院側に理解してもらえたら可能かもしれないが、現実的には無理だな。アホかと思われて終わりだ……」

「だ、だったら……え~~~~と、え~~~~と……」


 なにか良いアイデアを捻り出そうと座り込む二人だが、そんな都合のいい解決策など思いつきはしなかった。

 そんなとき、ジルが画面の中でエンヤコラと踊りはじめた。


「……? 師匠がなにか言っているぞ?」


 モジョに言われ、気が付くアルテマ。

 どうかされましたか、と覗き込む。

 すると、


「――――はい、はい……。そ、そうだったんですか? ……ええ、はい……は!? わ、私がですか!?」


 なにやら驚いたようすのアルテマ。


「……どうしたんだ? ジルさんはなんて言っているんだ?」


 尋ねるモジョに、アルテマは難しい顔をして答える。


「その……師匠はゴーレムをもっと大きく広げれば良いと言っている」

「広げる? ……まさかこの遥かに延びる通信ケーブルに沿って……?」

「そうだ、病院までゴーレム化しまえばいいと……」

「そ……そんなことができるのか……?」


 信じられないと目を丸くするモジョ。

 アルテマも微妙な表情で、


「……意志の持たない下等レッサーゴーレムならば可能だったと……」

「だった……?」

「じつはさっきの稲妻魔法で効果範囲を計っておられたようなのだ。……しかし残念ながらこの電脳開門揖盗サイバー・デモン・ザ・ホールを通してしまうと魔力が大きく削られてしまうようでな……そこまでのゴーレムは作れないらしい」


「……なんだ、じゃあダメじゃないか」

「しかし、私が増幅器となれば話は別らしい」


 期待の反面、ガックリするモジョ。

 しかしアルテマは苦笑いしながら。妙な案を伝えてくる。


「増幅器? ……お前を中継して魔法の威力を上げるってことか?」

「飲み込みが早いな。その通りだ」

「……できるのか、そんなこと?」

「普通は無理だが、師匠クラスになればそんな離れ業も使える。『滅私奉公ゴートスケープ』という魔法技の一つだが……自分の魔力が尽きたときなど、他の者の身体と魔力を借りて、とっかえひっかえ乱射できる奥義だ」


「……う~~ん? ……戦争シューティングとかで武器を拾いながら戦う感じか……?」

「そう……だな。というよりか味方を武器扱いする感じだが……」

「はた迷惑な……」

「ザコ魔法使いが無駄に魔力を消費するよりは、師匠に使ってもらったほうが良い場合が多い」


「それで今回はアルテマを利用し、一度弱まった魔力を膨らませ直して出力を上げるということか……?」

「ああ……だがしかしそれにも問題がある」

「またかい……今度はなんだ?」

「実はもう……私の魔力も底を尽きかけているんだ……」

「はぁ? じゃぁ補充すればいいだろう?」

「そうなんだ。そうなのだが……」





「……駄目じゃ、危険すぎるわい」


 一旦、集落に戻り占いさんに相談したアルテマたち。

 なんとか悪魔祓いを再開し、魔素を補充したいと持ちかけたのだが断られてしまった。


「魔法も使えんいまのお前が、たとえ低級とはいえ悪魔退治など……。とてもさせるわけにはいかん。危険すぎる」

「わかっている。わかっているが、そうしないと魔力を溜めることができないのだ」


 いままでのことを、占いさんにも説明した。

 話の半分も理解していないようすだったが、ともかくこの危機を解決するために大きな魔力がいることだけはわかってもらえた。

 飲兵衛も一緒に聞いてくれていたが、


「話はわかったけどなぁ……いくらなんでもそりゃ占いさんが正しいで? いまのお前は、ただの幼女も同然なんや。危険な悪魔と戦うなんて……もし逆に憑依でもされたらどうするつもりや? 魔物になってしまうんやろ? それこそゲンさんが悲しむ。っていうかワシらも殺されてまうわ……ヒック」


 赤ら顔で難しい顔をつくった。


「……だったら、以前みたいに物から吸収するっていうのは?」


 ぬか娘の提案に、今度はアルテマが難しい顔をした。


「あれは……効率が悪すぎる。一発の魔法アモンを唱える為になら使えるが、全回復させるとなると……いったいどれほどのお宝を用意せねばいけないか……」


 話を聞いて占いさんはサッと数珠を懐にしまった。

 飲兵衛も一升瓶を背中に隠した。


「だったら私の秘蔵コレクション『サンダーバード2号』ブリキ仕立てを進呈……」

「……たぶん30点くらいだと思う」


 ああ~~困ったと頭を悩ませるアルテマであった。

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