第205話 複雑な気持ち
――――どがががががががががががががががががが。
仮設橋梁の上を、資材を一杯に積んだトラックが通過していた。
クロードによって半壊させられた橋は突貫工事で修復され、不格好ではあるが、なんとかその役割を果たしている。
川を渡ったトラックはそのまま鉄の結束荘の校庭へと入り込み、どんどんと資材を下ろしていた。
そろそろ日が傾こうとしていた。
それでも彼らの作業は終わる気配を見せない。
その光景を、アニオタとモジョがなんともやるせない表情で眺めている。
「……せ、せ、せっかくここまで抵抗していたでござるに……。な、なんだか、いままでの苦労が台無しになった気分でござるよ……」
「……しかたないだろう、事情が変わったんだ。もうわたしらにあの山を護る理由はないし、それどころか偽島組の力を借りねばならなくなってしまっている」
「し、し、しかし……今朝、あんなにヤラれたというのに、この人たちタフでござるな……」
偽島組との大乱闘があったのは今朝の話。
元一の必殺技(?)で一度は壊滅状態になってしまった作業員たちだったが、魔法の効果が切れたのと、クロードの回復魔法のおかげで昼過ぎには半数ほどが動けるようになっていた。
偽島からすべては誤解だったと事情を聞かされ、そしてこれからの作戦を説明された彼らは、疲労した身体もなんのその、現場監督を中心に動けるの者から順に作業を始めていた。
「……それだけ真子とかいう娘を救いたいのだろうな……」
作業の目的は最初の通り『太陽光発電ソーラーパネル』の設置。
ただし。
その目的はSDGsに乗っかった金儲けなどではなく、
村長の木戸誠司が現場監督となにやら話している。
図面を広げているところをみると、陣を形作るための詳しい配列を説明しているようだ。
作り出そうとしている結界陣の源となる力。
それはこの国、日本の最高神とも言われる女神――――
その計り知れない法力(魔力)は、誠司はもちろん占いさんでさえ扱いきれない。
だがアルテマは『自分ならできるかもしれない』と、みなにそう言った。
もちろん、この世界の魔神(神)など知らない。
なので確証があるわけではない。
しかし異世界時代の経験から、一瞬、力を借りるぐらいは、なんとかなるかもしれないというのだ。
しかし当然、それには危険が伴う。
強大な力を扱いそこねた時、その術者がどうなってしまうのか。
それは元一が堕天の弓で見せてくれた。
だから全員が反対した。
アルテマもその心配を受け入れた。
しかしいざというとき、どうしても
それが格上との戦いにおける〝帝国騎士の覚悟〟だと説得された。
だから偽島組は動いているのだ。
彼女の、いざというときの〝覚悟〟のために。
「……こ、こ、こんなもの使う羽目にならなければいいでござるがなぁ……」
アニオタが珍しく真面目な顔をする。
しかしモジョは、相変わらず眠たそうに軽いあくびをした。
「……あふぅ。……まぁ、それぞれできることをヤルしかないってことだな。わたしも一応やっとかないとね……ふぁぁ~~あ……」
「れ、れ、れ、例のデジタル
噴き出す汗とともに眼鏡を光らせるアニオタ。
モジョは地下室へと向かいながら、ダルそうに言った。
「あと少しで、できそうなんだよね」
「大丈夫か偽島よ? ……貴様、血の気が引いて顔が真っ青じゃないか?」
裏山を登りながら、元一が振り返った。
そこには、ボロボロにほころんだスーツもそのままに、山道を革靴で登る偽島誠が息も絶え絶えに肩を揺らしていた。
組員たちに指示を出した偽島は、アルテマたちとともに真子の足取りを追って
『気持ちはわかるが、ただの人間であるお前が行くのは無謀だ』とアルテマは止めたが『あなたが私の立場なら、どう行動するんですか?』と返され、それ以上はなにも言わなかった。
その代わりアルテマも同行することと、あと、これは言いにくいことだったが『なにがあっても
本当は結界陣ができあがるのを待って動きたかったのだが、それは無理な話。
ともかく真子、そして消えた他の娘たちの安否は確認しなければならない。
なので慎重に、あくまでも偵察として山に入った。
メンバーはアルテマ・偽島・元一・ぬか娘・ヨウツベ。
元一とぬか娘はアルテマを心配し。
ヨウツベは『一度、
遊びじゃないと言いたかったが、彼の記録と動画作成は〝集落の生活を守る〟という意味で重要な成果を出している。無視はできない。
だったら、盾&回復要員として
いまごろ飲兵衛の家で非合法な点滴でも刺されていることだろう。
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