第160話 拒絶の悪魔・季里姫②
背中から引き抜いた短竹刀(子供用)。
怨霊はその魔法力に警戒し、低く唸った。
『ほお……破邪の剣か……久々に見たな』
「破邪の剣? ……これは魔神アルハラムの加護を受けた帝国の魔法剣だ、そのようなものではない」
『…………して? お前、それで我に歯向かうつもりか?』
「攻撃を止め、話を聞いてくれるとあらば収めるが?」
『それは……』
怨霊は、荒れた心を表すようにゆらり揺れると、
『面白くないな!!』
――――ドッ!!
着物をはだけ、脇差しを振り上げ切りかかってきた!!
「むっ!!??」
――――ガキィンッ!!!!
問答無用の一撃を、加護の竹刀で受け止める。
しかし。
ドンッ――――バキャラガラグワッシャンッ!!!!
押し負け、縁側を飛び越え、庭の藪へと吹き飛ばされた!!
「ぐは――!? な、なんて力……?」
刃は何とか受け止めたが、パワーが全然敵わない。
かろうじて起き上がったアルテマは、手のしびれと、一撃で消滅させられてしまった加護の光に唇をかみしめた。
………魔力でも及んではいないか?
『……勝手に引きずり出しておきながら、なんの仕置もなしに済ませられると思ったか? 我は怨霊季里姫、怨念と呪いを司りし者……』
――――ごっごごごごごごごごごごごごっ!!!!
怨霊の怒りに怯えるよう、地面が踊る。
土には細かな亀裂が走り、猛る怨霊の片腕には、紫の煙が吸い込まれるように集まっていく。
やがてその煙は、手の平で丸く輝く鈍い光となった。
『罰当たりな異国の戦士よ。
――――ゴッ!!
叫び、着物の裾を置き去りに、腕を振り下ろす怨霊。
光は豪速の玉となりアルテマに襲いかかった。
――――ゴッ!! ドンッ――――!!!!
空気の壁を突き抜け、迫る謎の
その中に計り知れない量の魔素をアルテマは感じ取った。
「ぐっ――
再び加護をかけ直し、魔法剣と化した竹刀で受け止めようとするが、
――――バギャンッ!!!!
「っ!?」
加護は光玉に触れた途端、再び力負けして粉砕した!!
衝撃で竹刀が手から外れ、宙に投げ出される。
光玉はそのまま威力を落とすことなくアルテマの顔面へと迫った!!
「ぐっ!!」
しかし間一髪、体を仰け反らせかわすアルテマ。
光玉はその反った体の上を滑るように通過する。
触れた衣装が灰でも崩すように分解された。
「なん!??」
巫女衣装の前面をはだける形になってしまったアルテマは、そのまま地面に倒れ込み、通過した光玉ははるか向こうの畑に着弾した。
ドオォォォォォォォォオオォォォォオォオォオォオォォォォォォォォオオォォォォオォオォオォオォォォォォォォォオオォォォォオォオォオォオォォォォォォォォオオォォオォオォオォオォォォォォォォォオオォォォォオォオォオォンッ!!!!
途端、地雷でも爆発したかのように地面が弾け、土砂が飛び散った。
後には大きくえぐられた大穴が無惨に口を開けていた。
「な、な、な……」
それを見たアルテマは大きく目を見開き、小さく震えた。
なんだこの破壊力は!? ――――爆撃魔法!???
はだけた衣装を押さえつつ、引きつった顔で冷や汗を流す。
まるで大砲、ワイバーンの火球。
小細工のない純粋な破壊技に上級悪魔の貫禄を感じた。
『外したか……ならばもう一撃放つまで……』
怨霊はさして消耗したようすもなく、再び腕に煙を集め始めた。
……冗談じゃない!!
こんなもの、ポンポン撃たすわけにはいかない。
アルテマは、怨霊が次弾を放つ前に、
「――――アモンッ!!!!」
――――ドガァァァンッ!!!!
カウンターとばかり、得意技を打ち込んだ!!
炎を圧縮させた変形型の
そうすることで爆弾のように弾け、標的を吹き飛ばす。
破壊力には破壊力。
かつての威力には及ばないが、転移し始めの頃よりはよほど力が上がっている。
これで倒せるとは思っていないが、わずかでもダメージが通ればしめたもの。
呪文の連射速度と小回りで勝機も見いだせる。
しかし――――ドンッ!!!!
吹き上げた煙の中から、紫の光が飛び出してきた!!
例の光玉だ。
円形に割れた煙の向こうには、まるで無傷の怨霊が冷酷にこちらを見ていた。
――――効いていない!?
まさかのノーダメージに凍りつくアルテマ。
そこに光玉が襲い来る。
タイミング的に、今度は避けられない!?
「ア……アルテマ!!!!」
怨霊の背後から苦しそうな元一の声が聞こえてきた。
アルテマのピンチにせめてもの援護をしてやろうと畳をむしるが、しかし強力な呪いによって硬直してしまった身体は、激痛を生み出すだけで動いてはくれない。
アルテマは逃げ場がないと悟ると一か八か、
弱って抵抗力のなくなった悪魔を魔素に分解する技。
弱っていない相手。それも自分よりも格上相手に成功する確立は億に一つもない。
だけどもこれに賭ける以外、他に手段は残されてなかった。
慢心していた。
上級悪魔だろうとも、力を取り戻しつつある自分と、元一ら仲間がいてくれればなんとかなると自信があった。
しかし蓋を開けてみれば、ものの数秒で絶体絶命。
完全に自分の判断ミスだった。
中隊をも率いる暗黒騎士たる自分がなんて無様な……。
平和な暮らしにのぼせ上がっていたとでもいうのだろうか?
勝機は絶たれた。
あまりにあっけない全滅に、アルテマはみなに言葉にならない謝罪を思う。
だが、そこに――――。
「――――ザキエル!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます