第154話 誰……?
「伝承を聞いていなかったのか? かの龍、
アルテマの言葉に土まみれのクロードは忌々しげに茄子を噛みちぎる。
「やつめ俺の話を聞こうともせずにいきなりぶっ放しおった!! コレで三回目だぞ、いったいどうなっている!?」
「だからぁ……男のお前が行っても無駄なんだって。あいつが欲しいのは女なんだから、しかも生娘のな」
「なんたる……身勝手でハレンチなエロトカゲだ、ますます許せん……いずれ成敗してやるぞ!!」
成敗されに行ってたんじゃなかったっけ?
すでに最初の目的を忘れているクロードにあきれるが、まあコイツはこんなもんだろうと諦める。
と、モジョが、
「……だったらわたしらが行けば、話を聞くのか? 一応、生娘だし……」
ぬか娘の肩を抱きながら言う。
ぬか娘は恥ずかしがるどころかむしろ誇らしげ。
そんな二人をヨウツベアニオタが神々しく崇め、六段が微妙な顔をする。
「……いや、それはそれで喰われてしまうのでダメだ。ここはやはり私が行くしかないようだな」
困った顔をしてアルテマが言う。
前回話が通じたとは言え、やはり得体が知れない相手なのは事実。
想い人の非業を伝えて、もし暴れでもされたら……。
そう思うと恐ろしいが……かと言ってそれ以外に
アルテマは覚悟を決めて山を見上げた。
『
「いあや……だからぁ……お前の恋人だったひとだよ……」
やっぱり忘れているよねと、アルテマは
まぁまぁ……それは想定内。
だからこそ、この龍は見境なしに人を襲うようになったのだから。
逆に言えば季里さんを思い出させ、非業の死を選んだ彼女の想いを悟らせれば成仏(?)してくれるかもしれない。
ちなみに
『竜族。超級悪魔。魔素そのものを操り全ての魔法を無力化する。精神体のため物理攻撃無効。ぶっちゃけ無敵。封印できなければ逃げるしかない。しっぽが美味☆』
物理無効でどうやってしっぽを食えというのかしらないが……まぁその辺りは精霊界のブラックジョークなのだろう。
とにかくやはり勝てる相手ではなさそう。
魔法が無効化されるのであれば魔素還元で浄化させてやることもできない。
となれば生贄を渡してしばらく眠ってもらうか、怨念の元を断って自ら成仏してもらうしかない。生贄など用意できないアルテマは後者を選ぶしかなかった。
『恋人か……うむ……我の魂の渇き……遠い昔に……』
「その人はお前と駆け落ちするはずだった約束の晩、無理やり他の男のところにやられたんだよ。そして望まぬ契を結ばされ……思いあまって自ら命を断った。でもそれはお前を想っていたからこそ。……結ばれこそはしなかったが、お前たちの心は繋がっていたのではないか? ならば何を嘆くことがある? 恨むことがある?
よし、まぁまぁ上手いこと言えたんじゃないだろうか?
アルテマは自分の説得にちょっと自信を持って
しかし、
『ん~~~~~~~~……』
龍はなんともつまらなそうに唸り、
『そう言われてもな……我、その女など知らんし……』
納得できないようす。
「いや……だから思い出さんか? 言ってもお前がその姿になった元の出来事なんだぞ?」
『そう言われてものぅ……我……自分の歳も忘れているくらい生きているからのう……千年より前はよく覚えておらんのう……源次郎……?』
自分の名前すら覚えていないようだ。
千年……。
たしかに長寿のエルフ族なんかは、そのくらい生きると記憶がパンクして気が狂う者も出ると聞いた。そのため最近(?)のエルフは記憶力の退化を以て対抗策としているらしいが……。若手のクロードがそれと関係あるかはわからない。
話を聞かせただけでは思い出せないとあれば、もっと記憶を刺激する何かを用意する必要があるな……とアルテマは判断した。
「わかった、また来よう」
『次に来るときは器量の良い娘を連れてきてくれると嬉しいが? ……どうも呼びよせてもなかなか女が集まらんでな。ヌシ……なにか知らんか?』
帰ろうとするアルテマに
魔素を操り若い娘を引き寄せる能力があるらしいが、幸か不幸か、いま集落は孤立させられ人の出入りがほとんどない。
あるとすれば悪魔祓いの患者くらいのものだが、それらはみな年増で対象外。
ぬか娘とモジョは……いままで特殊な訓練(悪魔退治)で鍛えられて耐性でもついているのだろう。
しばらくは犠牲が出ずに済みそうだが……しかしゆっくりしてもいられないな、とアルテマは足早に山を降りていった。
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