第144話 帝国の危機
『ああ……アルテマ……良かった繋がったのですね』
応答すると、そこには憔悴したようすで涙ぐむジルの姿があった。
映し出された映像は、なぜか乱れ波打っていて、声も聞き取りづらかった。
「師匠? どうしたのですか……繋がったとは?」
『先日から繰り返し呼び出しをしていたのですよ? でも全然応答がなくて……もしやあなたの身に何かあったのかと心配で心配で……』
「呼び出しを……? いえ、こちらは何も反応していませんでしたが!?」
『そうですか……ええ、よもやと思っていましたが……そうすると魔法の方に問題があったようですね』
魔法の方……?
おかしなことを言うジルに、アルテマは怪訝な表情をつくる。
「どういうことですか?」
『……どうやら峡谷に起こった地殻変動が、
「悪影響!?」
『世界を繋ぐ渓谷が閉じてしまったら
ジルの言葉に一緒にちゃぶ台を囲んでいる元一と節子が顔を見合わせた。
「……それはなにか? そうなるともう、そちらと連絡を取る手段がなくなってしまうということか??」
眉をひそめ元一が尋ねると、
『ええ、そのとおりです。アルテマの魔法は魔神様への信仰で力を得ています。そちらの世界との繋がりがなくなれば……』
「信仰も届かなくなり、魔法も使えなくなるということか……」
「そんな……」
両手を見つめ言葉をなくしてしまうアルテマ。
最悪、異世界へ帰れなくなっても
そう考え、楽観していたアルテマだったが、しかしこうなると急に不安感が押し寄せてくる。
異世界との関係も絶たれ、魔法も使えなくなった自分など……ただの子供でしかないからだ。
『ですのでアルテマ。世界が完全に絶たれてしまう前に、なんとか返る手段を見つけてください。でなければ私たちは今度こそ本当のお別れとなってしまいます』
乱れる声と姿で、ジルが涙を滲ませる。
アルテマは元一と節子の顔を見た。
すると二人は呆然と箸を置き、青ざめた顔でこっちを見ていた。
節子は震える声で、
「ア……アルテマ? まさか……帰るなんて言わないでしょう?」
「……いや」
「お前はここで大使として働くと言ったじゃろう? ずっとここにいるんじゃろうな?」
「……いや、しかしこうなっては大使の仕事など……」
「仕事なんていいんです!!」
めずらしく節子が声を大きくした。
「あなたは私たちにとってもう、かけがえのない娘になっているのです!! ……あなたが向こうに行ってしまったら……私は……私たちはもう……生きてなどいけませんよ!?」
ボロボロと涙を流してアルテマの手を握る節子。
アルテマもそんな節子の思いに深く感謝し、涙を溢れさせるが、しかしジルもまた節子と同じく泣いていた。
ジルにとってもアルテマは子も同然の存在なのだ。
節子の思いには感謝しかないが、しかし育ての親であるジルと永遠の別れを告げる決断などできるはずもない。
どうしたらいいのか……。
思考が止まっていく。
そんなとき、ジルが言いにくそうに口を開いた。
『アルテマ……こんなときに、こんなことを言うのは辛いのですが……話はもうひとつあるのです』
「リンガース公国が侵攻してきたですって!?」
リンガース公国とは、帝国の西にある聖王国とは真逆の位置に存在するもう一つの隣国である。
『はい。……聖王国との戦いの背後を突かれるという形で進撃を受けています』
「しかし……公国とは古くから同盟関係にあったはずでは!?」
『同盟は破棄されました。……一方的な宣言でした』
「どうしてそんなことに!?」
『どうやら……異世界との繋がりを知られてしまったようです。そちらの世界の文明を吸収し、国力を増強させようとする帝国に危機感を感じての行動のようです。公国だけではありません。その隣、またその隣と帝国に槍を向ける国はどんどんと増えていっています……このままでは……』
「バカな……我が帝国が日本と交流をしているのはそんな野望のためではないです!! 誤解は解けないのですか!?」
『無理でしょう……それに異世界〝科学〟を帝国の軍事力に変えようと言う動きは実際にあります。……私も幾人からそちらの兵器を送ってもらえないか聞かれました……。もちろん断りましたが』
「そこから悪い噂が出たと言うことですか……」
『この事態を受け、聖王国は戦争の正当性を主張し、公国との共同戦線をはりました。前後のみならず周囲をすべて敵国に囲まれてしまった帝国は、もはや滅亡の危機に
「皇帝はなんとしておられるのですか?」
『もちろん徹底抗戦の構えです。総力を守りに宛てがい、しのぎ切るおつもりです』
「しかし全域を包囲された状況でしのぎ切るもなにも……」
『そこであなたにお願いがあるのです』
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