第134話 嘘でつくれる平和もある

「ああああ……視線が痛いわあ……」


 あれから数日。

 クロードと停戦合意し、襲われる心配のなくなった輸送班たち。

 しかしそれでも仕事しているフリはしなければならないと、一応は襲ってくる暁の愚連隊。

 それらと戦うため、今日もぬか娘は半裸で往来に立たされているのであった。

 野良仕事をしているおじさんや、通り過ぎていく車からの注目が突き刺さる。

 しかしこれも自分が選んだ道。

 ヤケクソに開き直って、ぬか娘は台本どおりに演技をはじめた。


「しつこいわねあなたたち。今日こそこの愛の戦士ヌカムスメーンがコテンパンにして引導を渡してくれるわ(棒)」

「け、そうわいかねぇよ。今日もお宝たんまりいただいて、帰らせてもらうぜぇ(棒)」


 もちろん、クロードから話は聞いているので彼らも本気では襲ってこない。

 あくまでも演技ヤラセで喧嘩を吹っかけてくる。


 舎弟Aの攻撃。

「やぁ」

 ――ポカ。ヌカムスメーンに10のダメージ。


 舎弟Bの攻撃。

「とう」

 ――ポカ。ヌカムスメーンに8のダメージ。


 アニーオタの攻撃。

 アニーオタはメテオの呪文を唱えた。

「くらうでござる」

 無数の石礫いしつぶて(BB弾)が舎弟たちを襲った。

 ――バシッ!! 舎弟A に25のダメージ。

 ――バシッ!! 舎弟B に23のダメージ。

 ――バシッ!! 舎弟Cに27のダメージ。 舎弟Cを倒した。


 ヌカムスメーンの攻撃。

 ヌカムスメーンの魔神斬り。

「え~~い」

 ――バシューンッ!! 舎弟Bに54のダメージ。舎弟Bを倒した。


「く……くそ……お、覚えてろよ!!」

 舎弟Aは逃げ出した。

 舎弟の群れを倒した。


 ヂュラララ~~~~ンッ!!


「はいオッケーオッケーいい感じでしたね。お疲れ様でした」


 カメラを止め、満面の笑みで拍手を送るヨウツベ。

 お望み通り、いい絵が撮れたようである。


「……しかしあんたらもよくやるね。仕事とは言え馬鹿馬鹿しくない?」


 一息ついたぬか娘が、戻ってきた舎弟Aに聞いた。


「いやいや、現場に出されるよりこっちのほうが全然楽なんだよ。おまけに手当まで上乗せでもらえるしな。あ、奪った種芋は返すぜ」


 このあと夕方までテキトーに時間を潰し、頃合いを見て疲れ果てた顔で帰る。

 それで今日の仕事は終わりである。

 クロードから停戦の話を聞いたときは驚いたが、もともと興味なく付き合っていたお遊びだ。報酬さえ貰えればどうでもいい。


「でも、私らを止めないとそっちの会社が困るんでしょ? それはいいの?」

「べつに……技術さえあれば建築業なんてどこでもやっていけるからな。いまの会社がポシャっても大した問題じゃねぇよ」

「へ~~~~いいなぁ……やっぱり職人さんって強いんだな~~」


 私もいつか就職することがあったら、なにか技術が身につくことをしよう。

 ありもしない未来だろうが。


「ま、そんなわけで明日も来るんだろ? なら同じ場所で待ってるからよ、またよろしくな」

「こちらこそお手柔らかに~~」


 お互い手をふり合い、実に平和的に今日の戦いは終了したのだった。





 そしてクロードはというと。


「わははははははははは。いや~~やはり聖王国の酒は美味いな~~!!」

「ほんまやな。帝国の酒は辛口やったがこっちのは甘口やな? マイルドな喉越しでいくらでも飲めそうやなぁ、わははははははははははは、ヒック」


 元一の家で、飲兵衛と一緒に昼間っから酒を飲み交わし、ぐうたらしていた。


「いや、ぐうたらすんな」


 ぐにゅ!!

 その横腹につま先アタックを食らわせるアルテマ。


「むおん」

「お前、情報共有に来たんじゃなかったのか?」


 クロードはこの15年間なにもしていなかったわけじゃなかった。

 どうやら彼なりに異世界に戻れる方法を探していたらしい。

 答えは見つかっていないが、まだこっちへ来てひと月程度のアルテマよりは情報を持っているという。


 今日はその話をするために訪ねてきたのだ。

 妙に協力的じゃないか? 

 アルテマはちょっと怪しんだが、もちろんそれには理由があった。


 停戦合意の対価として求めた、聖王国への生存報告。

 その返事に、聖王国から懐かしい食べ物や書物などが送られてきた。

 その中に今回の酒と、クロードの父からの手紙が入っていた。

 手紙の内容をザックリと説明すると。


 まずは生きていたことへの歓喜の言葉。

 そして聖王国の状況。

 事実上帝国との戦争には勝利したが、被害の立て直しと新たに得た領土の治安維持のため人材が不足している。とのこと。

 そのため一刻も早く帰る手段を見つけ、再び聖王国要の将として国に尽くせと要請されていた。

 必要であれば暗黒騎士アルテマとの協力も許す、と言葉もあった。


 それでクロードは父に従い、さっそく協力を申し出。酒を持参してやってきたというわけである。


「まぁ言われずとも、ある程度の協力はするつもりだったが……。あの父上に一刻も早くと言われてはな、出し惜しみなどしてはおれんと言うことよ……フ、身内に頼られすぎるというのも考えものだ。ふははははははははははははははっ!!」


 もちろん手紙は偽物である。

 アルテマの作り話がバレるといけないので、検閲したジルが内容を都合よく書き換えたもの。

 無事の知らせだけは武士の情けで伝えてやったが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る