第122話 第3ラウンド②

「はーーーーはっはっはーーーーーーーーっ!! 馬鹿どもめ、懲りずにのこのこやって来おったな!! 荷物はまた我々『暁の愚連隊』がすべてもらい受ける!!」


 ヨウツベたちの目論見どおり、飛び出してきた総長クロードは大高笑いを上げ、すかさず手を天にかざした。

 その先にバチバチバチバチとラグエルの魔法が生成され――――、


「ついでに昨日の借りも返してくれるわーーーーーーーーっ!!!!」


 激昂の声とともに軽トラに向かってそれを放ってきた!!


「きた!! ぬか娘、頼んだよ!!」

「うぅぅぅ……恥ずかしいけど、これも異世界とアルテマちゃんのため……」


 玉涙を浮かべながら車の外へ飛び出すぬか娘。

 ビキニアーマーに、ほんの気持ち程度隠されたムチムチの胸とお尻がゆれる。

 剣を抜き、盾を構えたその姿はどこに出しても恥ずかしい立派な痴女戦士。


「ぐふぐふぐふ……さ、さ、三次元もたまには良いんだな……ぐふふ」


 小さな下鎧からはみ出た半ケツを眺め、アニオタがよだれを垂らす。


「こ、こらぁ!! どこ見てんのよ!! やめろよ~~~~!!」

「ほらほらぬか娘、そんなこと言ってないで、さあ来るよ!!」


 言いつつ迫り来るラグエルをザブカメラで、半裸のぬか娘をメインカメラで撮っているヨウツベ。迫力的には魔法のほうを高画質でおさめてやりたいところだが、視聴者的には痴女戦士のほうが鮮明に見たいだろう。ニーズを考えての処置である。


「ぐおぉぉ……あ、あんたら後で覚えてなさいよ~~~~!!」


 真っ赤な顔で涙を浮かべ、しかし何かが突き抜けヤケクソになるぬか娘。

 車の前に出てきた奇妙な女戦士を目におさめたクロードは、


「はっ!! 馬鹿が!! そんな装備などラグエルの前には紙くず同然!! 一瞬にして丸裸にしてくれるわ~~~~!!」


 むしろそれこそが真骨頂と大笑いする。

 ――――ゴッ!!!!

 空を裂き、宙の塵を無に帰しながら迫りくる破壊の光弾。

 対するぬか娘は、車を守るように立ちふさがる。


「うぅぅぅ!! た、頼むよジルさん!! わ、私信じてるからね~~~~!!」


 そしてギュッと目をつぶり、盾の影に隠れた。

 ジルの言う通りならばこれでラグエルを跳ね返せるはずだ。

 もし言う通りじゃなければ……盾も剣もブラもパンツも人工物だ。跡形もなく消されてマッパの自分が残ってしまう。


 そうなったらどうしよう……。

 まずヨウツベとアニオタ、二人の目をつぶしてスマホとカメラを叩き壊して……それからそれから……。


 ――――パキャァァァァァァァァンッ!!!!


 いろいろ後ろ向きなことを考えているうちに、ラグエルが盾に衝突した!!

 重い振動と、魔法同士が打ち消し合う金属音にも似た振動が体をしびれさせた。


「うぅ!! き、きた!!」


 着弾を感じたぬか娘はより強く目をつぶって縮こまる。

 やがて遠くの方から『ぬおぉぉ!??』と言う叫び声が聞こえた。

 恐る恐る目を開けると、そこには逆神ぎゃくしんの鏡の裏側が。

 そしてブラもパンツも健在だった。


「せ……成功……した??」


 見ると遠くの正面には、なぜか素っ裸になって股間を押さえ、踊り喚いているクロードがいた。


「ど、どうなったの……!?」


 車内で笑い転げているヨウツベを振り返る。


「どうもこうも、見事にヒットしてたよ(笑) 跳ね返した魔法が綺麗にクロードバカへとストライクだ!! 完璧だ、やったなぬか娘!!」


 望遠モードで一部始終をしっかりおさめながらゲラゲラ笑っている。


「ほ、ほんとに!? や、やった、じゃあこの盾ほんとに効果あるんだね!!」

「ああ、アイツもまさか跳ね返されるなんて夢にも思っていなかったんだろうね。避けもせず固まったまま自分の魔法に身ぐるみ剥がされてたよ。いいぞこれでもうクロードなんか怖くない」

「だね!! じゃあこれで安心して仕事ができるね。はいはい、じゃあ他の誰かがこないうちにさっさと帰ろうよ恥ずかしいよ!!」


 ぎゃあぎゃあ喚いているクロードに、ガッツポーズをするぬか娘。

 いまのうちに走り去ってやろうと車に乗ろうとするが、


「取り巻きが動くでござる。注意するでござる!!」


 スコープで敵の動きを警戒していたアニオタがそう報告してきた。

 茂みに飛び込んだクロードが、部下に突撃命令を下したようである。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 裸の大将を置き去りに、やたら元気に走ってくる舎弟(偽島組社員)たち。

 ヨウツベたちは知らないが、彼らには特別報酬が払われている。

 さらに蹄沢のメンバーたちには偽島組特設の懸賞金もかけられており、それぞれ生け捕りにした場合、さらにボーナスが出る。


 具体的には――――。

 萩野 真琴(ぬか娘)  10万円

 斎藤 順(アニオタ)  10万円

 野木 真司(ヨウツベ) 30万円

 である。


 ちなみに捕獲できなくても、ある程度ボコせば敢闘賞かんとうしょうとしてその一割が送られる。

 愚連隊だの総長だの、いい年こいてバカバカしいと彼らもわかっているのだが、金が絡むとそこはそれ、仕事と割り切ってなんでもやれるのだ。


「おおっとととと!!」


 魔法じゃなく物理攻撃。

 そうこられると逆神ぎゃくしんの鏡は役に立たない。

 喧嘩も大の苦手な三人。

 ヨウツベはぬか娘が乗り込んだのを確認するとハンドルを目一杯回してアクセルを踏み込んだ。


「クロードさえ止めてしまえば後は何とでもなるさ。回り道して奴らを振り切るよ」


 Uターンした軽トラは彼らに背を向け、逃げるように走り出した。


「後ろは頼んだよアニオタ」

「りょりょりょ、了解でござるヨウツベ殿。殿しんがりは任せるでござる。そ、そ、そ、その代わり僕の勇姿をしかとカメラにおさめるでござるよ。あ、あ、あとでルナ殿に見てもらうのでござるから!!」


 そう鼻息荒く意気込んで、アニオタは荷物の中に潜ませておいた秘蔵の品。電動ガトリングガンを掘り出した。

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