第111話 第二ラウンド③
ヨウツベの考えたシナリオはこうである。
まずアルテマが雑魚を一網打尽にし、親玉(偽島)をおびき出す。
約束に従わなかった種明かしと再戦通告をしたところで、おそらく敵側はクロードを投入してくるので大太刀回り開始。(ここは本気の戦闘)
元一、占いさんの二人はそのあいだ別ルートにて相手の背後に回る。
アルテマの見立てでは現時点でのクロードとの実力差はほぼ互角っぽいので、ある程度の見せ場は自然に出来上がるだろうとのこと。
それを見計らい、監督兼演出兼カメラマンのヨウツベが合図を出し、元一ら二人がクロードの背後を襲う。
あとは全員で
背後を突くとか複数で袋叩きとかイメージが悪いんじゃないのか、との物言いも出たが、戦隊モノとは本来そういうものである。
戦隊モノにもかかわらず、タイトルがアルテマ一人だけしか表現していないじゃないかとの物言いもさらに出たが、アルテマ以外の戦士は爺と婆だけ。そこはたとえ他を無視してでもアルテマの可愛さを全面に押し出さないと再生数が稼げない。
そしてもちろんヒーロードラマであるかぎり、主人公のピンチもきちんと演出しなければならない。それも考慮して援護の合図を送らせていたのだが……。元一が、我慢できずに飛び出してきてしまったのだ。
「もうちょっと……あと1アクション欲しかったなぁ~~」
まぁ、アルテマをなにより一番可愛がっている元一のこと、そしてその理由も充分知っているから文句は言えない。
ヨウツベは苦笑いしながら、それでもカメラを回し続ける。
そして『あとは流れを読んでアドリブでよろしくお願いします』とのメッセージを手信号で送る。
良い絵を撮れなかったのは残念だが、そもそもこのドラマはアルテマの正体を誤魔化すための茶番。出来の良し悪しは二の次。
「……まぁ、適当に爆発エフェクトとか入れて。怪我のシーンはあとで大げさに別撮りすればいいかなぁ……」
いまは編集の時代。実際に撮るのは大雑把な景色や動きだけで充分。
細かな演出は自分で作り出せばいいのだ。
アニオタも手伝ってくれている。
ストーリーなど、後付でどうとでも構築してみせよう。
――――がきゃん、ばきゃん、ぼきゃんっ!!
元一の放つ魔法の矢を、聖剣特殊警棒を駆使しなんとか叩き落とすクロード。
「この!! 卑怯な年寄が!! これでもくらえっ!!」
隙きを見てザキエルを飛ばす。
ゴッっと唸りを上げ、元一の周囲の空気が渦を巻くが、
「ふん、昨日見た攻撃じゃな。悪いがそんなもの、くるのがわかっていれば躱すのは容易いわい!!」
言って元一は歳にまったく似合わない軽い身のこなしで枝から枝に飛び移り、森の奥へと移動する。
それを追いかけるようにザキエルの竜巻が進むが、たくましい木々と豊富な枝葉に遮られて風が散ってしまう。
風魔法ザキエルの弱点は二つある。
一つは発動時間が遅いこと。
呪文の完成から竜巻の発生まで約2秒。
よほどの素人か、軍隊のような集団相手でもないかぎり、そうそうピンポイントで当てることは出来ない。
もう一つは、いまのように障害物に弱いということ。
とくに樹木は防風林ともいうように、風の天敵。
昨日の戦いひとつ見ただけで元一はこの二つの弱点を自然に見抜き、戦うにもっとも有利な場所を陣取った。長年培った狩人の経験がなせる戦術である。
「くっそっこのこのっ!! ちょこまか隠れおって!!」
かき消されたザキエルにいきり立ち、ラグエルの光も放つが、やはり自然物である森の木々に阻まれ元一にはとどかない。
「おのれおのれおのれっ!! かくなる上は!!」
直接打撃で葬ってくれるわと、聖剣特殊警棒を握りしめ森へと入り込む。
接近戦ならば、若く体力のある自分が年寄りに負ける道理はない!!
自信満々で突進する。
「クロード!! 貴様の相手はこの私だ!!」
「いや、いいぞ若造。そのままこっちに来い。森中の狩人の恐ろしさ、とくと教えてくれるわ」
アルテマはその背に向かってアモンの炎をロックオン。
そして元一は弓を猟銃に持ち替えてロックオンするが、
「やれやれ、じゃあ久々にわたしも対人法術を使ってみるかのぉ……60年ぶりじゃから上手くできるか心配じゃが……たしか……」
プレハブを挟んで反対側の森に潜んでいた占いさんがぬっと現れた。
そして退魔の杖を振り上げると、
「
禍々しいオーラを全身に滲ませながら、なにやら唱え始めた。
「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女の精よ我に力と業を、仇に没と滅を、おお、我と汝に捧げよう」
そして、
「
奇妙な気合とともに杖を振り下げると、
カカッ――――ドッカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
強烈な光とともに極太の雷が、天から大地に突き刺さった!!
「ぐおっ!?」
空を切り裂く轟音と衝撃。
吹き飛ばされかけた元一は、慌てて木にしがみつく。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
「うっわぁぁぁっ!??」
「ぐおぉぉぉぉぉ!??」
「な、なんだこの術は!??」
動画を撮っていたヨウツベとぬか娘、クロードの後を追うべく飛び出していた六段、アルテマも驚き、その衝撃にひっくり返る。
そしてしばしの硬直の後、耳鳴りが収まり、光に焼かれた目が慣れてきた皆の視線の先には――――、
「――――げほ……む、無念……」
真っ黒に焦げたクロードが煙を吐いて倒れていた。
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