第110話 第二ラウンド②
ばらばらばら、と天高く舞い上げられた水滴が雨となって落ちてくる。
水蒸気爆発にさらされた周囲の被害は、幸い大したことはなかったが、当事者の二人はその爆風をモロに食らってしまい、お互い吹き飛ばされてしまった。
クロードは橋の途中に倒れ伏し、アルテマは校舎の納屋の扉を破って中に飛び込んでしまった。
「だ、大丈夫かアルテマ!?」
「……ぐ、だ、大丈夫……だ」
ホコリまみれ泥まみれ、古ぼけたガラクタの山に埋もれるアルテマ。
かすり傷はあるものの、幸い大した怪我はしていないよう。
確認した六段はホッと胸をなでおろした。
「く、くそう……奴の調子にのった顔がムカついて……つい火力を上げすぎた」
ガラクタを押しのけ、ぶつぶつ言いながら這い出てくるアルテマ。
六段が手を差し伸べるが、
「ぐっ!? 痛い……」
起き上がろうとして前のめりに倒れ込んでしまう。
どうやら足首を捻ってしまったよう。
「アルテマ!?」
「だ、大丈夫だ、これしきの怪我、戦場ではかすり傷にも入らん」
強がって足を引きずりながら表に出る。
それを遠目に見たクロードは、してやったと目を細めた。
「ふ……ふはははは!! やった!! やってやったぞ!! とうとうあの憎き宿敵アルテマに一矢報いてやったわ!! どうだアルテマ我が聖魔法の威力は!! 恐れおののけ、そして屈せよ!! いまなら泣いて許しを乞えば殺すのだけは勘弁してやってもいいぞ? ただし帝国への『――――アモンっ!!』――――ぐあっちゃちゃちゃーーーーっ!!」
さぶんじゅ~~~~~~~~ぅ!!
間髪入れず放たれたアモンに全身を焼かれ川に飛び込むクロード。
「のうアルテマ……あいつはなぜお前にかすり傷を負わせたぐらいであんなに喜んでいるんだ?」
「……いままでで一番ダメージをもらったのがコレだからな……」
「ああ……なるほど」
ひょこひょこ歩くアルテマを見て、ほほを掻く六段。
異世界での力関係がなんとなく理解できた。
「ぐぅ!! おのれおのれアルテマ!! 一度ならず二度までも神聖な騎士の体を焼きおって!! ……この屈辱、万倍にして返してやろうぞ!!」
「……お前を焼いたのはもう十数回目だと思ったがな……?」
「ええい、うるさいうるさい!! 異世界での戦績など無効だ!! そんな遥かな昔の話、いまさら持ち出さないでもらおうか!!」
「持ち出しているのはお前のほうじゃないか……」
ずぶ濡れになりながら橋に這い上がってくるクロードを嫌々見つめ、アルテマはくたびれたように肩を落とした。
理由も原因も道理も理屈もなにもわからないが、奴の話を信じるならばクロードは自分より15年も先にこの世界にたどり着いていたことになる。
どこで時間軸が入れ替わったのかわからないし、考えてもこんがらがるばかりだが、世界を渡っている時点で全てがおかしいのだ。
ここは戦うよりもむしろ和解して、二人の状況を整理して考えてみたいものだが……。
「仕切り直しだ暗黒騎士アルテマよ!! 次こそ我が聖魔法で貴様の息の根を止めてやる!!」
チリチリにパーマがかかった金髪を逆立たせ、懐から短い棒を取りだす。
シャッと振るとアンテナ状に伸びたそれは、伸縮式の特殊警棒。
それにロンギヌスの加護を与えるとクロードは、
「もはや我らの戦いに小細工は不要、ここは正々堂々一騎打ちを申し込もう!! 貴様も栄誉あある騎士ならばこの申し出、よもや断りはしないよな?」
言って、手袋ならぬ軍手を投げつけてきた。
〝聖剣特殊警棒〟をかかげ息巻くクロード。
魔法で息の根をとめると言ったばかりなのに武術での決闘とは……?
足を捻っている上に段違いの体格差、さらに幼女相手といった武人にとってこの上ない不名誉な決闘を、自信満々で申し込んでくるクロードに、おなじ武人である六段はあきれて声も出ない。
「どうしたアルテマ? なぜそんな微妙な顔で俺を見ている!? ここにきて怖気づいたというのなら――――」
そして同じくあきれ返っている武人、いや、戦士がもう一人。
――――ヒュッ、ビィィィィィィンッ!!
どこからともなく飛んできた魔法の矢が、クロードのほほをかすめて後ろから放たれ、橋の鉄板に突き刺さった。
「なに!? 伏兵か!??」
切れたほほを押さえて振り返るクロード。
すると後方の広場に接した森、その木の上に弓を構えた
「な、き、貴様は昨日のジジイ!! あのれ後ろから奇襲とは卑怯なったらたらたらたらーーーーーーーーっ!???」
罵倒も言い終わらぬうちに、有無を言わせず連射される魔法の矢。
クロードはそれを小躍りしながら逃げ回る。
「……なにが卑怯か。貴様こそ……ワシのかわいいアルテマの足を、よくも捻ってくれおったな……」
ぬぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ……。
昨日と同じく黒いオーラを燃やし、殺気を爆出させる元一。
その目は、完全に殺気に満ち溢れていた。
「ああもうゲンさん、出てくるのが早いですって!!」
それを二階校舎から眺めて、ヨウツベが頭を抱えた。
昨日の晩、元一に頼んでおいたのだ。
ストーリーの演出上、合図を送るまで出て来ないでくれと。
せっかくいい感じで
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