第76話 アニオタの乱⑧
見上げる空にはアルテマの言う通り、無数の低級悪魔たちが8の字を描くように飛んでいる。それらはみんなアニオタの上空で旋回しており、次に取り憑くのは自分の番だとお互いを牽制しているよう。
悪魔たちは低級なれど姿形は人の姿、それも妖艶な和服美女の格好をしていた。
彼女らはいわゆる淫魔と呼ばれる精神生命体。
言葉を操り、知性があるように見えるが実際は人から精気を吸い取ることしか考えていない
「こ、こいつら……いったいどこからこんなに湧いて出てくるんじゃ!?」
退魔の弓で牽制しながら元一が叫ぶ。
先日、アルテマが除霊をしながら言っていた。
この村には悪魔付きが多いと。
この土地には異世界の平均的場所よりも多くの悪魔が潜んでいる。
「わからん!! だがもしかしたら、龍穴の祠が関係しているかも知れん!!」
「龍穴の……お前が倒れていた祠か!?」
「ああ、占いさんが言うには、あれが何らかの原因で逆に動いているせいで本来の厄除けとはまったく逆の作用を発しているらしい!!」
「……じゃあ、あの祠がこいつらを引き付けてるということか?」
「そう、そうして集まった悪魔たちは、この付近に住んでいる我ら村民を隙きあらば取り付き、喰ってやろうとしているのだろう」
そのアルテマの解説に元一と六段は顔を見合わせ頬を引きつかせる。
「だったらまずはその祠を何とかせんとイカンじゃないのか!?」
「やれるもんならやっている!! しかし無限に魔素を吸い取り続けるあの祠には、近づくことまでは出来ても触れることなどできん。……もし触れてしまおうものならたちまち魔素どころか生命活動に必要な精気まで持っていかれて、たちまち死んでしまうだろう!!」
「絶対に近寄るな!! 良いなアルテマ!!!!」
「だからそれをいま私が言ったのだ!!」
そうこう騒いでいるうちに、
『ひひひっ!! 次に一番搾りをもらうのは私だよ!!』
と下卑た笑いを上げ一体の悪魔がアニオタめがけ急降下してくる。
『なっ!?』
『ちょっと抜け駆けかいっ!!』
『次は妾の番だぞえ?』
『面白え、じゃあ早いもん勝ちといこうじゃねえか!!』
それを見た他の悪魔たちも口々に文句を言い、先頭の悪魔を追いかける。
その様はまるで真夏の砂浜のビーチフラッグの如し。
その旗役に選ばれるのなら、男としては本望✕10くらいの幸せなのだろうが、あいにく彼女らは
取り憑かれでもしたら途端に体を操られ、その体で老若男女ところかまわず精気を吸い取ってまわる見境知らずの助平モンスターの出来上がりとなる。
いつものアニオタも大概変態なのだが、それは自分の妄想世界だけに止めていて、実際には人畜無害なのが良いところだったのだ。
その唯一と言っていい取り柄を護るべく。
ここは何としてでも死守するぞ!! と、アルテマ、元一、六段の三人は気合を入れてその悪魔たちを迎え撃つ。
――――
『
『
『
『
『
「よし、とくにヤバいヤツはいないな!!」
戦闘においては、という意味で。
別方向にはヤバいヤツだらけである。
「来るぞ、先頭の磯女は六段に任せる!! 元一は後から来る奴らを弓で迎撃だ」
「了解だ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「わかった!!」
ドカバキグシャべこどきゃゴッシャンッ!!
ひゅぼひゅぼひゅぼひゅぼっ!!!!
六段の百列拳が磯女の顔面をとらえる!!
続き元一の連射がその脇を飛んでいく、
『ごわあひゃあがぼきゃっ!???』
『ぐあっ!!』
『げっな、なんだとっ!!??』
『ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!』
『があぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
激突は一瞬でケリがついた――――、
先頭の磯女はボコボコに弾き飛び、
他の四体は的確に急所を射抜かれて墜落する。
そしてしばしもがき苦しんだ後、みな蒸発して消えていった。
「まだ来るぞ!! 油断するな!!」
悪魔たちはまだまだ湧いてくる。
アルテマの警告に二人の戦士は充分承知とその腕を下げてはいない。
「なんだその弓、加護無しでも悪魔に通じるのか!?」
「ああ、なにせ堕天の弓じゃからの。天使に効くなら悪魔にもそりゃ効くじゃろ」
「なら次はワシも魔法の鉤爪あたりをねだってみるかな」
思案を巡らせつつ、新たに出現した悪魔に立ち向かっていく六段。
元一も休むことなく弓を撃ち続けて、しばらくすると周囲は、射抜かれた低級悪魔の骸で一杯になっていた。
――――
その骸群を次々と魔素分解し、片っ端からトドメを刺して回るアルテマ。
しかしそれでも悪魔たちは際限なく湧き出てくる。
六段も、元一にも、そろそろ疲れが見え始めていた。
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