第62話 偽島組④
「……これが……今朝の騒動だと言うのか?」
蹄沢より山ひとつ離れた街の中心街。そこに偽島組本社の入ったビルがある。
ビル・住宅建設、道路工事、設備工事その他諸々、この地域一帯の工事という工事を一挙に取り仕切る総合建設会社である。
そこの社長室で、先程、木戸村長が持ってきた映像を再生している男たちが三人。
偽島組営業課長にして次期社長の偽島
映像には巫女服姿のアルテマが暗黒魔法『
「そうです親父!! こいつが俺たちに喧嘩を売ってきたガキです!! やろう……資材も機材も台無しにしやがって。この落とし前は万倍にして返してやるからな。まずは火傷を負った部下らを重体に仕立てあげて刑事沙汰にしてやりましょう。それからクレーンやトラックを台無しにしてくれた賠償金もあり得ない額をふっかけて連中を借金漬けに……あれ? どうしたんですか二人とも?」
いきり立ち、復讐に燃える偽島。
だが、親父社長と顧問弁護士は互いに顔を見合わせて難しい顔をしている。
「……この小さな巫女が、お前が言う『おかしな力』とやらを使って、周囲に火を撒いた……だったか?」
「そうです。これこの通り!! この映像が動かぬ証拠です!! どうですか明らかに怪しいでしょうこの巫女!!」
「……いやぁ……でもこれCGですよね?」
言いづらそうに、ハンカチで汗を拭きながら弁護士の男が確認する。
「違うわ!! CGとかじゃ無いわ!! これは本当に燃やされてるんですよ、実際怪我人も出てるし、機材も壊れてるでしょう!?」
「いや、でもこんな黒い炎とか……とても現実のものとは思えないんですが……?」
「そうだな。それに、炎の規模に対して怪我人の程度が軽すぎる……。これが仮に本当の炎だったとしたら……お前ら、死人が出てもおかしくないだろう?」
親父社長が疑いの目で息子を見やる。
実際はアルテマが手加減をして温度を下げていてくれたのだが、そんなことは当然この三人が知るはずはない。
「小学生くらいの巫女少女が黒い炎を操って……どちらにせよ、こんな非現実的な映像、証拠として警察に提出しても笑われるだけだと思います。止めておいたほうが……」
「……誠、もしやお前……工事の遅れを誤魔化すために自分でわざと火を点けたんじゃあるまいな?」
息子の復讐に手を貸すどころか、逆にあらぬ疑いをかけてくる親父社長。
「い……いやいやいやいや!? まさか!! これが俺の自作自演だとでも!? 違いますよ、これは間違いなくあの集落の連中の仕業なんです。現に村長だって襲撃を受けたと言っています!! 俺たちは喧嘩を売られたんですよ!!」
「だったら買ってやればいいだろう? ……だが、表に出すようなことをするな。たとえお前の言っていることが本当だろしても天下の偽島組がこんな女子供年寄り相手にコケにされたなどと……世間の良い笑いものだろうが。……この件はお前が一人で、責任を持って片をつけろ。……いいか? 発電パネルはもう議会を挟んでC国に発注済なんだ、こんな小さな村の問題なぞさっさと解決して次の
「……はい」
親父社長の一睨みには逆らえず、無念に口をつむぐ偽島誠。
弁護士もやれやれと言った顔で映像を閉じている。
たしかに……映像を見る限りでは、どこぞの三流特撮映画のワンシーンに見えなくもない。その場にいた者でなければ、これが現実などとはとても信じないだろう。
それに親父社長の言う通り、こんな連中にかまっている時間がないのも事実。
はやく次の契約を取り付けて、金欲の塊どもが無計画に送りつけてくる発電パネルを処分して回らねばならない。
さもなくば、親父どころが県会議員……いや、政党幹部にまで突き上げを食らうかもしれない。
自分は自分で必死なのだ。
こんな田舎の無学で無知な連中の心情なんぞにかまっている場合ではない。
……くそう……こうなったら、さっさと実力行使に出てやるか……。
偽島は部屋を出ると携帯を取り出し、部下に何やら指示を出し始めた。
次の日の朝――――。
節子が作ってくれた朝ごはんを今日も呑気にいただくアルテマ。
今朝のメニューは大根とウサギ肉の煮物。目刺しイワシ。小松菜のお浸し。ナスのお味噌汁と、ぬか娘お手製のニンジンの味噌漬けである。
幸せの味が凝縮されたそれらをパクパクもぐもぐポリポリじゅるる~~と平らげて感謝のお辞儀をするアルテマ。
「ご馳走様でした。今朝の料理も美味しかった。ありがとう豊かな大地よ、ありがとうこの地に送り出して下さった魔神様よ、ありがとう底なしに優しい我が恩人、節子よ」
「嫌ですよこの子は大げさなんですから。食べたらまた占いさんのところへ行くのかい?」
お茶碗を片付けながら困ったように照れる節子。
ついでにアルテマの頬についたご飯粒を取ってやる。
「うむ。昼まではいつものお祓いをしつつ、二件の除霊もするつもりだ」
巫女服の襟を正しながらそう答える。
「まあ、大変ね。……くれぐれも気をつけるんですよ」
「大丈夫だ、まだまだ低級悪魔しか相手にするつもりはない。昼からはモジョのところでゲームをする約束をしているから食事はそっちで即席麺でもご馳走になる」
「まあまあ、じゃあこれを持ってお行き」
節子はそう言って何かが入った風呂敷をアルテマに持たせてきた。
「……これは?」
「紅白饅頭よ。先週寄り合いに行ったときに貰ったんですよ。たくさんあるから若いみんなで分けて食べなさい」
「おお……それはありがたい。この世界の甘味は格別に美味いからな、楽しみだ」
ほくほく顔でそれを受け取るアルテマ。
その時――――、
どおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉおぉんっつっっ!!!!
ビリビリビリ――――と、地面が揺れる轟音が集落全体に響き渡った。
裏山の野生鳥が一斉に空へと飛び立ち、アルテマと節子の目も点となった。
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