第32話 暗黒神官長ジル・ザウザー③
「「
一同が顔を見合わせる。
そんな中、占いさんは当然だと静かにうなずき。
アルテマは押し黙って苦い顔をしている。
そんな彼女を諭す母のように、ジルは厳しい表情でアルテマを見下ろす。
『……
「……なるほど、等価交換の法則というやつか。それは世の
モジョが納得したように呟くと、アニオタも深くうなずいた。
だが、アルテマはなおもジルに噛みつく。
「し、しかし師匠!! 水が無ければ国民は生きては行けません!! ここはどんな代償を払ってでも補給を決断すべきでしょう」
『…………確かに、あなたの言いたいこともわかります。現にこちらでも各地に飛ばした術師によって他国からの転移輸送を試しました。しかし水を桶一杯転送するのにこちらは……子供を……一人用意しなければいけませんでした』
その事実を聞いてアルテマは唖然と目を見開く。
「……ばかな。いくら水が貴重だと言えど、以前はまだ食料や宝石と交換出来ていたではないですか!?」
『……聖王国が全ての輸送路を閉じてしまいました。それにより帝国は物資が不足し、合わせて
「なんて……ことだ。くそ、聖王国め、許せんっ!!」
――――ダンッ!! ダンダンッ!!
怒りと悔しさを拳に込めて、地面へ叩きつけるアルテマ。
そこにまたモジョが手を上げてきた。
「……すまんがまた質問いいか?」
『はい、何でしょうかモジョさん』
「……水を転送するのに子供が必要と言ったが、受け取り側も帝国の術師なのだろう? ならば、その子供を連れて帰ってくればいいだけではないのか?」
「おお、そうか。それはそうじゃな。さすが佑美、ずる賢いのう」
六段がポンと手を打ちモジョを褒める。
「……ずる賢くない。当然の応用だろう。あと本名言うな」
それを聞かれたジルは悲しそうな顔をしてそれが出来ない理由を説明する。
「
「…………なるほど、それは恐ろしいな」
理由を聞いたモジョは納得し、他の者もゾッとした顔で言葉を無くしている。
アルテマのコミカルさで忘れがちだったが、帝国は暗黒神を司る国。そこに伝わる術もまた悪魔と深い関係があるのだろう。
ならば強力な術になるほど、その制約も厳しくなるというわけだ。
皆は、先の悪魔との戦いを思い出していた。
「なるほどのう……その辺りの定め事はこちらと大差ないとみた。……して、その相場は悪魔が決めておるのか」
占いさんが訊いてくる。
『……それは……わかりかねます。古代の魔法ですし、先人が時の悪魔とどのような契約を成されたかは歴史の埃に埋もれてしまっております』
「うむ、そうか……。しかしのう、その相場はそちらの世界のものじゃろう? こちらとでは、また変わって来るかも知れんぞ? 試してみてはいかがかな?」
『それは……』
「うむ、そうじゃ占いさんよく言ったぞ。師匠、ここは試すだけ試してみましょう!!」
そうアルテマに詰め寄られ、ジルは深く苦慮し、黙り込む。
そしてしばらくしたあと、意を決したように目を開くと、
『……わかりました。たしかに何事もやる前から諦めてはいけませんね。……これも帝国の民のため……では、しばらく待っていて下さい』
そう言って部屋から出ていってしまった。
部屋の外までは空間が繋がっていないので、ジルが何をしに行ったかは一同には全くわからない。
そこに興奮した面持ちのヨウツベが、カメラを持ってアルテマに寄ってくる。
「ちょ……ちょっとちょっと、アルテマさん。ジルさんってめちゃくちゃ美人じゃないですか、それにあの耳!! もしかして……エルフってやつですか!??」
「そ、そ、そ、そうなんだな!! リアルエルフなんだな!! ぼぼぼ、僕は興奮してこ、こ、こ、今夜は眠れそうにないんだな!!」
アニオタも鼻息を荒くし、ドスドス飛び跳ねている。
「た……確かに師匠はエルフ族だが、なんだお前らそのいやらしい目は!! 師匠に邪な考えをもてば、私が許さんぞ!!」
「でもでも、アルテマちゃんのお師匠様って……じゃああの人、歳いくつなのかな?」
ぬか娘が首をかしげる。
「そ、そ、そ、そりゃあエルフなんですから数百歳――――いや、も、も、も、もしかして千歳って事もありありありありえまするぞ!!」
テンション爆上がりなアニオタ。
本物の魔法に続いて、本物の異世界、本物のエルフ。
ファンタジーの三種の神器を一気に見せられて、感動で目には涙も浮かんでいる。
「師匠は意外と若いぞ? ……たしか今年で75歳だ」
「うぅぅぅわ~~ぁ……なんかリアルな数字……」
聞いてのけぞり、微妙な表情を作るぬか娘。
しかし見た目は二十歳前後にしか見えないところをみると、やはりエルフとして長寿は長寿なのだろう……ただ、その数字が人間で換算出来る位置にあるだけに生々しいというか……なんというか。
「ああ……ワシや節子とほぼ同世代じゃの」
元一が呟くと、
「な、な、な、萎えるぅぅぅぅぅぅ……」
ヨウツベは崩れ落ち、
「ああ……うちの婆ちゃんとも同い年なんだな……」
アニオタの目は氷のように冷めていった。
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