第31話 暗黒神官長ジル・ザウザー②

「……感動の再会に水を差すようで悪いが……いまの話……少し物言いをさせてもらおう……」


 お互いの無事を喜び合う師弟に、モジョがぴょこっと手を上げて物申す。


『はい? ええと……なんでしょうか?』


 ……この人はたしか、ゲエムとか言うものを趣味にされてる方でしたね。

 アルテマの紹介を思い出す。

 一見、ぼ~~っとしているが村一番の常識人でもあるとも密かに教えられた。


「……時間の流れが違うと言っていたが、それだと色々辻褄がおかしいと思ってな」

『まあ、そうですか? どの辺りがおかしかったのでしょう?』


 ジルが首を傾げてモジョの意見に注目する。


「……互いの世界が違う時間の進み方をしているのなら、今現在……わたしらと普通に話せてるのはおかしいと思うんだ。そちらの世界がこちらより早く進んでいるのであれば、あなたはわたしらの目に物凄く速い動きで映っていなければならないし、わたしらはあなたにとって物凄くゆっくりでないといけない……」

「おお~~~~……とぉ??」


 元一に六段、節子とぬか娘が置いていかれる。

 しかしジルはすぐにハッとして、


『あらやだまあまあまあ……わたくしとしたことが、本当ですね、確かにあなたの言う通りですわ。ええと、モジョ……さんでしたね。ご指摘ありがとう御座います』


 と、素直に頭を下げ、お礼を言うジル。

 神官長の肩書を持つお偉いさんにしてはえらく柔軟な姿勢だなと、モジョは言葉には出さなかったがジルに好感を覚えた。


「む!! モジョよ、ならば私が向こうを去った日と、こっちに転移した日がズレているのはどういうことだというのだっ!?」


 こっちはムキになって突っかかってくるなと、モジョはアルテマを冷ややかな目で見る。この辺りに人間としての器が出るものだ。

 しかしまぁ、アルテマの疑問もわかる。モジョは少し考えて。


「……それはこっちが聞きたいな。半年前に消えて、二週間前に現れた。その間の数ヶ月、お前はどこで何をしていた?」

「な、な、なにをって……私も知らないぞ? 私の感覚では消えて現れるまで一瞬だったからな!? むしろこっちが聞きたいくらいだ!!」


 探偵ばりに指を突きつけてくるモジョに、何となく動揺して狼狽えるアルテマ。


「……うむ。ならば……その空白期間に『何かが』あったと言うことになるな……。転移に掛かる時間か? それとも単純に時空の歪みに流されたか……」


 う~~~~む、と考え込むモジョ。

 そこにぬか娘が、


「あらあらモジョったら、また悪い癖が出てる。ごめんねアルテマちゃん。モジョって昔懐かしのコマンド式推理アドベンチャーが大好きだから、謎があるとすぐ考え込む癖があるのよ」

「こ、コマ……なんだって?」

「煙草に火を点けたいな……だれか持っていないか?」

「おお、それならワシが持っとるぞ」


 六段が懐からホ○プを取り出す。


「いや……それではダメだ。……推理するときはマ○ボロと決めている」


 あまった裾をフリフリと、それを断るモジョ。


「吸えないくせに何言ってるの? ごめんねアルテマちゃん、この子、神○寺の大ファンだから」

「神宮○?? ええいっどうでもいいわ!! 今はそんな時間のズレを考えてもしょうがない。そもそも世界を渡ってる時点で辻褄など合っていないのだから。それよりも私は先にやらねばならない事があるんだ!!」


 馬鹿馬鹿しい、付き合ってられんわとアルテマが話を切り替えてくる。

 たしかにいまは細かな疑問に引っかかっている場合ではない、と、他のメンバーもこの問題はいったん横に置いておこうという運びになった。


「師匠、いま現在、帝国はかつてない窮地に立たされていると思われます。特に、水と食料の不足が深刻かと……」

『ええ、もちろんそうですが……まさか、アルテマ……?』


 アルテマが何を言わんとしているかを察して、ジルの顔が曇る。


「はい。お察しの通りです。……こちらの世界には水と食料が豊富にあります。開門揖盗デモン・ザ・ホールを使い、そちらに物資を輸送出来るか……試してみませんか?」


 それを聞いた元一はポンと手を打ち、


「ほお……なるほど、そういえば物資の転送も出来ると言っていたな。それを使えば困っているそちら側に、こちらから援助が出来ると言うわけか?」


 名案だとうなずく元一だが、ヨウツベが即座にそれに疑問を述べる。


「ま、待ってください。……本当にそんな事が出来れば素晴らしいことですが、しかし国一つを救うだけの援助物資など……さすがに用意しきれませんよ?」

「たしかに、それば莫大な量になるやろうな? どうにか集めるにしても、資金やもろろもろの問題が降って出てくるやろうな……ヒック」


 赤ら顔で飲兵衛も難しい顔をする。

 だが、その意見にアルテマは、


「大丈夫だ、いまは食料まで用意してもらおうとは思っていない。こちらがまず支援してもらいたいのは――――水だ」

「うむ、確かに水が一番貴重だろうからの」


 六段が頷く。


「ああ、この集落は大きな川に囲まれているだろう? そこに門を開いて帝国に送りたい。水さえあれば、食料事情もかなり改善する。…………できるだけ迷惑は掛けない。しかし今は……どうかお願いだ、苦しむ帝国に力を貸してくれないか」


 そう言って深々と頭を下げるアルテマ。

 そんな彼女に一同は顔を見合わせて、


「……まあ、べつに水くらいならいいんじゃないですか?」

「確かに、それならいくらでもありますしねぇ」

「ちょっと待て、いくらでもはないやろう? たとえ水だろうが一国に送る量やで? 下手すればこっちが干からびてまうんとちゃうか? ……ヒック」

「いや、なんなら海の水でもいいんじゃない? それなら塩も取れるし」

「それな!!」

「……だ、だ、だ、だとすると、遠出になるね。ししし、しかもなるべく目立たない場所となると……」


 さっそく地図アプリを広げるアニオタ。

 そこにジルが割って入ってきた。


『待ってください。……お気持ちはありがたいのですか、それは出来ません』

「な、なぜですか師匠、名案じゃないですか!! こちらの方々も協力的になってくれていますし」


 訴えるアルテマに、ジルは厳しい顔で問う。


開門揖盗デモン・ザ・ホールの制約。まさか、忘れてるわけじゃないでしょう?』と。

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