第24話 暗黒騎士の実力⑥

『ぬ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!??』


 黒炎の一撃を食らい、苦しみもがく悪魔。

 その隙にアルテマは元一の元へと駆け寄った。


「すまぬ、遅れた。怪我はないか!?」

「ああ……何とか大丈夫じゃ、しかし今の炎は?」

「二階の部屋にやたら強力な魔素溜まりがあったんでな、吸収させてもらった。もう大丈夫だ。あとは私にまかせておけ!!」


 魔力は満タンになったが、しかしそれでも異世界にいた時ほどの威力は出てない。

 これはこの世界の空気がそうさせているのか、それとも幼児化レベルダウンしてしまった自分自身の問題か。

 どちらにせよ、いまはこの悪魔の処分が先。

 この程度の悪魔なら今の状態でも問題ないだろう。


 アルテマは玄関口で拝借した竹ボウキをクルクル回転させると天に掲げる。


「魔神アルハラムに命ずる。汝、その御力の欠片を刃とし万物を滅する威を示せ――――魔呪浸刀レリクスっ!!」 


 そして唱える付与魔法。

 ホウキはその呪文に応じてゴッと赤黒く燃え盛る。


「おおっ!?」


 その様子を見て元一が驚きの声を上げる。

 まさかと思ったが、本当に魔法を使うとは!?


「アルテマちゃんっ!!」


 道の向こうから、ぬか娘が走ってくる。

 他のメンバーも続々と追いついてくる。

 占いさんを背負った六段も加わり、集落の者全員がアルテマと悪魔を囲う。

 手にはみなそれぞれ、棒だのクワだのスコップだのと思い思いの武器を持っている。


「か、かかか、加勢しますよっ!!」


 釣り竿を握りしめたヨウツベが膝を震わせながらそう言ってくれるが、


「大丈夫だ、こいつは私が一人で相手をする。お前たちは下がっていろ!!」


 そう言い、手出し無用と皆を制すアルテマ。


「いや、でもアルテマさんだってさっき逃げ出してたじゃないですか!!」

「さっきのことは忘れてくれ!! いまからが本当の暗黒騎士の戦いなのだ!!」

「って、言われてもなぁ……そんなホウキで一体何を……」


 そうこう言い合っているうちに悪魔が炎を掻き消し、


『ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!! よくもやってくれおったなぁぁぁぁっ!!!!』


 ――――ドギャッ!!!!

 咆哮とともにアルテマに突進してきた!!


 黒炎に包まれた皮膚は焼けただれたまま回復はしていない。

 魔法が効いている証拠だ。

 それを確認したアルテマは、すうぅ……、と息を吸い込み、静かにホウキを中段に構える。


『そんなふざけた武器で我に対抗できると思うなっ!! 砕け散れ暗黒騎士っ!!』


 悪魔の棍棒が唸りを上げてアルテマに襲いかかる!!


「ふざけてるわけではない」


 ――――シュバッ!!!!

 ホウキが一閃した!!

 同時にアルテマの身も悪魔と交錯する。


「お前ごとき、コレで充分だと判断しただけだ」


 ――――ゴォンッ。

 悪魔の棍棒が断ち切られ、その先端が地面に落ちた。


『なん……だと……!?』


 信じられないといった表情でその断面を見る悪魔。

 アルテマは振り返り、さらに、


 ――――黒炎竜刃アモンっ!!!!

 黒炎の追撃を加える。


『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』


 再び巨大な黒炎に包まれる悪魔。

 断末魔の叫びを上げもがき苦しむ!!


「あ……アルテマちゃん」

「す……すごい……さっきとはまるで別人のようです」

「…………魔力を手に入れたとみた……」


 そんな圧倒的な強さのアルテマを呆然と見つめる一同。


「どうだ、見たかお前たち!! これが私の本当の実力だ、わははははっ!!」


 汚名を返上したぞと高笑いを上げるアルテマ。

 そしてさらに黒炎魔法を唱えると。手の平で燃えとどめめさせ、


「さて悪魔よ。これで実力の差ははっきりしたな?」

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』


「貴様を魔素還元してやる前に、少し聞きたいことがある」

『ぬぐぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』


「占いさんとの契約……貴様は一体何を、」

『おんぐぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

「聞けよ」


 ――――どすっ。

 焼かれて転げ回っている悪魔の背中に、魔剣竹ボウキを突き刺すアルテマ。


『うぎゅぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

「余計うるさくなったか……しょうがない。魔素吸収!!」


 アルテマが手を広げると、燃え盛っていた黒炎が魔素へと還元され吸収されていく。

『ぐあぁぁぁ……ぜいぜいぜいぜい……』


 ようやく鎮火し、ひとまず安堵する悪魔。

 しかしもう戦う力は残っていないようだった。

 そこに再びアルテマが黒炎を手に近づいてくる。


『ぐ……ま、待て……わかった、我の……負けだ。とっとと喰らうがいい……』


 焼かれ、消滅するよりも、魔素へと変換され輪廻へと戻るほうが100万倍マシだと判断した悪魔は膝を折り、頭を垂れた。

 完全降伏の姿勢である。


『おぉぉぉぉおおぉぉぉ……!!』


 あっけなく、そして圧倒的についてしまった勝負に皆が歓声を上げる。


「うむ、その心がけやよし。なに、輪廻に帰るのもそう悪くない話だぞ? 次は悪魔ではなく、もっと可愛い存在になって生まれ変わると良い」


『……あの婆との契約は……直接本人から聞けばよいだろう……。我が消滅すれば呪いも消える。ならば奴も正気に戻るであろう……』

「そうか、ならばそうしよう」


 そう言って、観念した悪魔の頭に手をかざすアルテマ。


「――――魔素よ、我が元に集まれ」


 魔素吸収スキルを発動させると、悪魔の身体が薄くぼやけ、やがて光の粒に変わる。

 そしてそれがアルテマの手の平へとすべて吸い込まれると、


「よし、これにて悪魔退治の儀、完了だ!! もう大丈夫だぞ皆の衆」


 胸を反らし、皆に宣言した。

 道端には、再び大きな歓声が上がった。

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