第11話 大熊と鉄砲と
「え? ちょっと、まっ――――!!」
慌てて祠にかぶりつくアルテマだが、持っていかれた魔力は戻ってこない。
「ど、どうしたんじゃアルテマよ?」
「どうしたもこうしたも、いまこの祠が私の魔力を奪っていったのだ!!」
「そ……そうなのか? 今の光が魔力と言うやつか?」
「ああ、祈りを捧げたら吸い取られた……一体どういうことだ??」
「……よくわからんが、お供え代わりに持っていったんじゃないのか?」
戸惑いつつ、適当に答える元一。
「そ、そうか。ならば私の願いは聞き遂げられるということなのだな?」
「さてのぉ……」
しかし待てど暮せど何も起こらなかった。
「――――おいっ!!」
祠の中に鎮座した、御神体らしき丸い石に文句をいうアルテマ。
「供物が足りなかったんじゃないのか?」
「なんだと!? ならば一体どれだけの魔力を与えれば良いのか!?」
「それは知らんよ。そもそも魔力なんて見たのも初めてじゃ。まるで見当がつかん」
元一は不思議なこともあるもんだと、マジマジと石の祠を眺めている。
「ふむ。魔力の光に、それを吸い取る古の祠か……。まだまだ世の中にはワシの知らんことが一杯じゃのう。この歳になってまだ驚くことがあるとは驚きじゃ」
そう言ってカッカッカとお気楽に笑う。
と――――、
『ぐるるるるるるるるるるる……』
突然、広場の外れ、木々の奥から野太い唸り声が聞こえてきた。
「うん?」
「むっ――――この唸り声は!?」
振り向くアルテマと元一。
するとそこには黒く毛むくじゃらの巨体。
凶暴そうなモンスターが牙を剥き出して威嚇していた。
「――――なっ!? 山の……魔獣かっ!?」
即座にそのモンスターの正体を調べようとするが。
『し~~~~~~~~ん』
魔力が無いからだ。
『うぐるるる……』
のそりのそり……と近づいてくるモンスター。
その口からはネバネバした涎が大量に溢れ出て、完全にアルテマを捕食対象と定めているようだ。
「し、しまった……。――――
その敵意に対抗し、戦闘に使えそうな魔法を片っ端から唱えてみるが、やはり何も出てこない。
『ぐるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁおっ!!!!』
「くっ!?」
猛獣が吠える!!
大人の背丈の倍近く。
目視の鑑定で判断すれば、この獣は元の世界で言うところのウォルビーストに近い!! 大きさから言って兵士五人分程度の強さはあるはずだ!!
かたやコッチは年寄りの狩人と、魔力と体力の尽きたお子様暗黒騎士。
――――逃げることも出来そうにない……マズイぞ……これは……。
いきなりの窮地に、あせるアルテマ。
しかしその脇を元一がスッと前へと出ていき、
「……月の輪熊じゃ。アルテマよ耳を塞いで下がっておれ」
そう言うと、背中の猟銃とか言う謎の鉄棒をモンスターに向けて構えた。
「よ、よせ、元一!! あぶないぞ」
アルテマが止めに入ろうとしたが、それよりも早く、冷静に獲物を見据えていた元一の指が引き金を引き縛った。
――――どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!
鉄の棒が、とんでもない轟音とともに火を吹いた!!
「なぁぁぁぁっ!???」
耳を刺す爆発音と、震える空気の圧に弾かれて、アルテマは吹き飛ばされ地面を転がった。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。
耳鳴りが頭一杯に広がる。
そして――――ずぅぅぅぅぅぅん。
重い音をたてて巨大モンスターが地面に伏した。
「…………ふん、仕留めたか。大丈夫か、アルテマよ」
倒れたモンスターは頭を撃ち抜かれていて即死しているようだ。
アルテマは、その煙を上げている鉄の筒を震える目で見上げた。
「そ……そ、それは……何だ!?? ま、魔法具の一種か??」
「んん? 何を言っておる? 単なる狩猟用のライフル銃じゃよ。魔法の類ではないぞ?」
「魔法では……ないだと!? では弓や槍のような通常武器だと言うのか!?」
「そうだな、それよりは少し複雑じゃが、通常武器と言えばそうじゃな。火薬という燃える粉を爆発させて弾を飛ばす――――まあ、弓矢の進化版みたいな物じゃ」
弓矢の進化版……だと!?
アルテマは絶命している〝熊〟とかいう猛獣を驚いた顔で見る。
体長にして2メートルはある大物だ。
弓矢でこいつを仕留めようとしたら、一体何本の矢を刺さなければならない?
それがこの猟銃とかいう武器は、たったの一撃で仕留めてしまった。
触らずとも硬いとわかる、その頭の骨を貫いて。
しかもそれが魔法などの特殊武器ではなく、誰でも扱える通常武器だという。
「――――ズルい!!」
アルテマは思わずそう呟いてしまった。
それを聞いた元一は、仕留めた熊にトドメのナイフを刺しながら顔をしかめる。
「だれもズルくはないわ、これでもきちんと免許は持っておるんだからの。……と、言ったところでわからんか」
ブツブツ言いつつ、携帯電話を取り出し、
「おお、ワシじゃ。聞こえておったか? おお、そうじゃ大物じゃ。一人では無理そうじゃからの、いつもの通り頼んだぞ」
そう誰かに連絡し、切った。
「い、今のはスマホというやつか!? タブレットで読んだぞ、どんな遠くの相手とでも話が出来る魔法具だと!!」
アルテマは興味津々、目を輝かせてそれに食いつく。
「だから魔法ではないと言うに、これはな…………まぁ……ワシもよくわからん」
説明しようとしたが、元一にも構造が理解できてなかったらしく、すぐに言葉を引っ込めた。
しばし、間抜けな空気が流れたところで、
「おおぉ~~~~い!! 生きとるかぁ~~。いま手伝いに行くから待っとれよぉ~~~~っ!!」
六段爺さんの大きな声が山の麓から聞こえてきた。
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