幼馴染の『ラジカセ音声日記』再生ボタンに、ついつい手が伸びてしまう。 ~誘惑に勝てないヘタレな俺の、無自覚ヘタレな恋の結末~

野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中

第1話 彼女の気持ちを知りたくて。



 硬質な手触りのボタンの上に人差し指を乗せながら、俺はごくりとつばを飲み込んだ。

 

 目の前にあるのは、ただの古びた赤いラジカセ。

 つい先日まで埃をかぶっていた筈の何の変哲もない骨董品にもプルプルと指が震えてしまうのは、俺がヘタレだからだろうか。


 


 幼馴染の部屋でコレを見つけたのは、『偶然』だった。

 一回目は知らないものへの好機心が、俺にカセットの再生ボタンを押させた。

 そして彼女のを、人知れず手に入れた。


 二回目はきっと、『魔が差した』。

 いけない事だと思いつつ、悪戯心とスリルと直接彼女の気持ちを聞けないヘタレさが、俺を駆り立て抗えなかった。

 


 それからずっと、機会を見つけては音声日記を盗み聞いた。

 それなりの場数は既に踏んでいる。

 なのに今日ほど緊張した事は無い。



 いつも通り、誰も居ない幼馴染の部屋で、ついにカチリとボタンを押し込む。

 流れてきたのは、ジーッというノイズ音。

 しかしそれも数秒だ。


<7月23日。今日は――>


 最早聞き慣れた女の子の声が、スピーカーから自らのを語り始める。

 


 今日の俺には知りたい事が一つあって。

 それは聞きたくて、でも直接はどうしても聞けない事で。


 それがついに分かるかもしれない。

 いや、分かってしまうかもしれない。

 

 聞きたいような聞きたくないような、難しい男心がグラグラ揺れる。

 それでも耳をそばだて微動だにせず、ラジカセの前に正座している自分を俯瞰すれば、きっと俺は、本当は知りたいのだろうと思う。


 彼女の気持ちを、彼女の出した答えを。

 だから俺は、もう一度ゴクリをつばを飲み込み膝の上の両手をギュッと握り締めた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る