第28話
ユニコーン、なんでもいいのかユニコーン。
それはかつて勇者オウガが彼に刻み、後世まで伝えよとした詩であるという。
「大賢者その美しき人、愛しく思うと言ったところ勇者は我に問うたのだ。ユニコーンは処女しか愛せないのではないのかと。否! そのようなことがあろうか!? 処女とは何か!? 性別とは何か!! 男女の人括りしかないのか!? 答えは否だ!! ありとあらゆるものに処女性は宿り、女性らしさとは性別に非ず! その生物そのものに宿りし答えそのものだ! そして処女性とはそれらに付随するものであり、性行為ひとつに拘るなど愚の骨頂! 故に我は、我は……!!」
「もうイいカら」
「なんだ、良い所なのに」
「こいツら、勇者が隠しタ装備、何故隠シたか知りたイ。知ってルか?」
「装備に宿る精霊が災いであると耳にしているぞ」
「えっ……」
しれっと答えたユニコーンに、冒険者たちが一斉に驚いた。
それはそうだろう、万物に宿ると言われる精霊だが、それが災いというのは耳にしたことがなかったのだ。あらゆるものに宿る精霊のその力を借りて人は魔術を行使することもあるので、それ故に災いが発生することはあっても精霊そのものが災いなどということは聞いたことがなかった。
「そも、勇者の装備は全て『作り出したものだ』と聞いている。そこに新たに生みつけられた精霊なのだろう。人間族はそういった研究をし、そして低確率ながら成功させていて大賢者としてはとても嘆かわしく、そして恐ろしいと言っていたな。確かにそれはひとつの未来としての形なのであろうが、我も彼女が言っていたようにそれは神の領域ではないかと思うのだ。なぜならば精霊というものは神に作り出された遍く存在に対となるかのように生まれそしていずれ消えていくようなもの、それを一つの存在が新たに生み出すということは新たなる世界の創造外ならぬのではないか、新たなる世界の創造をするのであればそれは神の領域に挑むということでありそれを成すということはこの世界ではなく新たなる世界の創造をした以上責任をもって」
「い、いやいやいやちょっと待ってくれ!? 俺たちは勇者が“いた”国の人間だが、そんな話を気いたことなんざねえぞ!!」
「うむ? そうか? 我の弟の話によれば今でも研究は続いているというが……弟が緊迫した様子もないのでまあ、もしかすれば彼女が居た頃と同じように低確率での話なのやもしれぬし、或いは神による干渉があったのかもしれない。基本的に世界を作り出した神は我らに対し不干渉を決めておられるとその昔、まだ我がいたいけな仔馬であった頃に長老より聞いたことがあったがかように危険な真似を幼子がすることを認められはなさらなかったのだろう。だがそれを罪として咎めるのではなくそっと遠ざけるだけに留めてくださったのやもしれぬ。その真意まではわからぬが」
「だカラ、長イって……」
ゴブリンさんが眠そうにユニコーンの言葉を遮って、冒険者たちを見た。
冒険者たちもどうして良いのかわからないのでゴブリンさんに視線を送るだけで、次の言葉は生まれてこない。だが問題は幾つか浮上した、というのは確かである。
「まず、なニかラ聞きたイ?」
「はいはーい、ユニコーンって兄弟いるもんなの? なんで世情に詳しいの?」
「うむ、それはだな……」
「手短ニ」
「むぅ」
しゅたっと手をあげた盗賊男の素朴な疑問に、もっともらしく頷いて見せたユニコーンだったがゴブリンさんの一言に、ぐっと言葉に詰まった。どうやら喋り過ぎの自覚はあるらしい。
「人間族はなにをするかわからない、故に我らモンスター族の中でも穏健派は常に世情を知り、
「それでか。その状態で長けてるっていうのか」
「む? 我は基本的には外に出ぬが……なにせ他のユニコーン族とのやりとりは我が出る故」
「それで、兄弟っていうのは?」
「うむ、我らユニコーン三兄弟、長男が我だ。次男は少々人見知りが激しいゆえにマスクを被り人化して格闘家として時に活躍をしている。文化的な物事は市井に混じるのが最もわかりやすい。子供たちに人気ぞ?」
冒険者たちの頭に浮かんだ次男とやらは、馬の頭をしたマッチョがポージングしている姿であった。
ある意味それはまあ、ショーとしての格闘ならばきっと面白い被り物をした人だなあと思われているに違いないと納得もする。子供人気にも。
「そして末っ子、この子は大変大人しく真面目な気性で、人化よりも馬に化けて王城に潜入している。時に人化して女性たちに接し話を聞いてくるのだ。政治的な物事は、それを行う場所がより良く情報を得られるからな」
「案外まともに諜報活動してやがるだと……!?」
「そして王城とかで何故バレない!?!?」
「そこはそれ。我らユニコーン族の知恵と鋭意よ。詳しくは……」
「語るナ。長イ」
「くっ」
「次」
ゴブリンさんが、くぁりと欠伸をする。
一応協力はしてくれているのだが、どうにもやる気はないらしい。エンシェントドラゴンに至っては窓辺の花に水をあげ始めたので興味すらないらしく、冒険者たちは何とも言えない気持ちになった。
だが彼らはあくまで協力者であり、こうして情報提供者を紹介してくれて手伝ってくれているのだから十分すぎると言われれば十分なのだ。改めてそう思うと何とも不思議だけれども。
だって協力者(モンスター)が情報提供者(モンスター)を冒険者(人間)に……というのはなんだこれ奇妙過ぎないか。
そもそも冒険者たちが依頼された、『異界の勇者が持ち去った装備』とやらが『人為的に作り出されたなにかヤバい精霊が憑いてる装備』というだけでも不穏な空気満載である。
そんなヤバげなものを見つけ出してあわよくば持ち帰ってこいと言ってくる上司と、報酬も特にないのに友達だからと手伝ってくれるホブゴブリン。
どちらがありがたい存在か改めて浮き彫りになりそうで、冒険者たちは慌ててその考えを振り切った。
「そ、装備はどこに隠されたか知っているか?」
「山の中だな。山の中、いくつにも洞窟がある。その中一つ、奥深くに次元を歪めた場所だ。そう簡単にはいくまい、勇者と大賢者の術をお前たちは破ることができるのか?」
「うっ……、それは……」
「そウいうコとなら、リッチ頼む、してみル?」
「ああ、あのリッチならば可能かもしれんな」
うむ、と無駄に威厳たっぷりに頷いたユニコーンに、女戦士が素朴な疑問をぶつけた。
「……リッチさんは女性カウントなさらないんですか」
「あれはただの女装癖のある骨だから」
「女装癖のある骨」
ゴブリンさんは、いい加減眠気も遠のいてしまったらしい。
ぼんやりと天井を見つめ、呟くのだ。
「腹、減ったなア……」
そういえば食事らしい食事をしていない。
案外大食漢のゴブリンさんにとっては死活問題である。
「オデの腹、助けロくださイ……」
「食事にするか、小僧」
「ホントか!!」
「待っていろ、適当に煮込んだシチューでも作ってやるわ」
「私はベジタリアンだ、ゴブリンに与える肉は別に用意してやって欲しい」
「ワガママなやつらじゃの。お前さんらも食うか?」
「ア、ハイ、イタダキマス」
果たしてそれが、冒険者たちの胃袋にあったのかどうかは別である。
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