ゴブリンさんは助けてほしい!
玉響なつめ
プロローグ
ゴブリン。
それは醜くて、小さなモンスター。
群れを成して人や家畜を襲い、女を孕ませて繁殖する醜悪な生き物だ。
熟練の冒険者からすると単なる雑魚モンスターであるが、新人冒険者にとっては良い経験を積む対象であり、一般人からすれば恐怖の対象に他ならない。
それが、一般的に知られている『ゴブリン』だ。
「ひっ……ひっ……」
浅い呼吸、ぼやける視界。
森の入り口からもう少しだけ奥に入ったところに転がされたのは、まだ少女と呼べる年齢であろう娘だった。彼女の両手足はきつく縛られている。
要するに彼女は、生け贄だ。
最近、ゴブリンの姿が見えた。
まだ向こうが気付いていないのか、或いはこれからの計画を練っているのか。
とにかく襲撃を受けてはたまらない。取りあえず手ごろな生け贄を差し出して、ゴブリンが少女に群がっている間に冒険者を雇うなり、領主に嘆願するなりしよう……そういう事だった。
非道とは言えない。
田舎の、地図に名前も載らないような小さな村では自分たちが生き残るための手段の一つなのだ。
勿論、それが非人道的行為であると彼らだって認識はしている。しているが、自分とその家族を守る、それが何より彼らにとって大事なのだ。
少女には身寄りがなかった。流行り病で両親も、兄弟も、みんないなくなってしまった。
だから、選ばれたのだ。
(おそわれる くわれる おかされる いやだ、いやだ、いやだ)
白羽の矢が立った時、少女はそれを知って逃げようとした。
だが当然その行動を予測していたであろう村人たちによって殴られ、縛り上げられ、「すまない、すまない、こうするしかないんだ、すまない」という彼女にとって意味をなさない謝罪の言葉を聞きながらこうして森に放り出されたというわけだ。
殴られた箇所が痛い。
簡単に逃げられないように足も傷つけられているから、そこから流れる血の感触も気持ち悪ければじくじくと熱を持っているかのような痛みに涙が止まらない。
恐怖と、痛みと、憎しみと、怒りと、悲しみと。
どれがどれだかわからない彼女の耳に、がさりがさりと草を掻き分ける音が聞こえてくる。
(ああ、ああ――どうか、どうか、かみさま、どうか)
どうか、ゴブリンでありませんように!
当然森なのだから、肉食獣だっている。そのことは少女の頭からすっぽ抜けていた。
彼女は「ゴブリンにその体を捧げられ、冒険者や領主の軍が来るまで凌辱されるか生きたまま食料にされるかなのだ」と聞かされていたことが頭を占めていたのだとしても誰が責められるだろうか。
そんな少女の願いもむなしく、現れたのは醜悪な小人だ。
「ギャッ、グギャ? ギャギャ?」
「ギャッ! ギャッ! クルルル、ク?」
「ギィッ」
絶望が、少女の胸を満たしていく。
全部が、いやだ。もう嫌だ。
そう少女は意識を手放した。
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