Chapter 2

入店音。マホがレジに向かって進んでいく。


セキ「いらっしゃいませー・・」

マホ「セキくん?」

セキ「あけましておめでとう」

マホ「あけましておめでとう・・。びっ、くりしたー・・」

セキ「俺も」

マホ「ここで?」

セキ「そう。一年くらい」

マホ「えー全然知らなかった。すごいね、すごい偶然・・。わたしいま妹と住んでて、」

セキ「ああ、シホちゃん」

マホ「そう、シホがね、千葉大に通ってるの。はじめはシホも一人暮らししてたんだけど、なんか前のバイト先の同僚の人が危ない人だったみたいで、家までついてこられたり、出したゴミを漁られたりしたらしくて」

セキ「ええー、」

マホ「わたしも親も「引っ越さなきゃだめだよ!」って言ったんだけど、ひとりだとまた不安だって言うから、やっぱりこっちも心配だし、それでちょうどね、会社がリモート勤務中心に変わったってこともあって、週にいちにちふつか出社するだけなら家も都心じゃなくていいかなって思って、こっちに二人で住むことにしたの。セキくんは?」

セキ「あー、俺はなんていうか、ここの店長と偶然知り合って、なりゆきで」

マホ「そうなんだ・・。具合はもう悪くないの?」

セキ「うん。見てのとおり、今は人生サボらせていただいております」

マホ「そんなことないよ。これまでが頑張りすぎだったんだよ」

セキ「そうかな、」

マホ「今ね、クラス会のあと、ミサコの車に近くまで同乗させてもらって」

セキ「みんな元気だった?」

マホ「みんな心配してたよ、セキくんのこと」

セキ「(笑って)俺はなにも、心配してもらうほどのことはないよ」

マホ「そんなこと、」

セキ「それ?(マホが手に持っているものを指さす)」

マホ「え、ああ、うん、」


マホ、QRコードが書かれたクーポンを見せる。


マホ「シホにね、このお店で景品と引き換えられるからって言って渡されたんだけど。ここのQRコードを読み取ってもなんかおかしなことになっちゃって」

セキ「おかしなこと?」

マホ「そう、」


二人の顔が近づく。


マホ「わ、」

セキ「なに?」

マホ「わたし、お酒くさくない?」

セキ「大丈夫だいじょうぶ」

マホ「大丈夫ってどっち? お酒くさくないってこと、それともお酒くさいけど我慢するから大丈夫ってこと?」

セキ「いやー、」

マホ「もう・・。ひどいよセキくん、こんな近所のコンビニで働いてるなんて思わないんだから」

セキ「ごめんごめん、」


ヤオが戻ってくる。


セキ「あ、ヤオさん、ちょっと」

セキ「(マホに)ヤオさん。千葉大の修士一年生」

マホ「千葉大? シホの先輩だ」

セキ「そう。中国から留学で来てる」

マホ「你好」

ヤオ「こんばんは」

マホ「あ、こんばんは・・」

セキ「(ヤオに)羽鳥マホさん。高校の同級生」

マホ「セキくんがお世話になってます」

ヤオ「没什么」

マホ「・・」

セキ「こういう子なんだ」

マホ「うん、いい性格してる」

セキ「なんかこのクーポンがおかしいって話、聞いてる?」

ヤオ「おかしい?」

マホ「ちょっとやってみせるね」


マホがスマホでQRコードを読み取ると、音楽が流れ出す。


セキ「え、なにこれ」

マホ「なんかね、音楽が流れるんだけど、画面はずっと真っ黒なの。しかも、音量を変えたり、マナーモードにしたり、できなくなるの。この曲が終わるまで、待つしかないの」


音楽が終わる。


マホ「ね? 変でしょ」

ヤオ「合ってますよ」

マホ「え?」

ヤオ「これで合ってます」

マホ「景品と引き換えできるんじゃないの?」

ヤオ「お客様は今とてもよい音楽をお聞きになられました。それが、わたしの彼氏のオリジナルソング、プレゼントキャンペ〜〜ン」

マホ「・・・・」

セキ「ヤオさん。わかってると思うけど、店員がコンビニの施策を勝手に利用してはいけません」

ヤオ「お言葉ですが、この音楽はもっと広く聞かれるべきクオリティです」

セキ「そういうことじゃないよ・・。これ、本当はなにがもらえるクーポンだったんですか」

ヤオ「(マホを見て)ヒロアカのフィギュアです」

セキ「(マホを見て)ヒロアカ好きなの?」

マホ「あ〜・・わたしはそんなだけど、シホがフィギュアとか集めるの好きで」

セキ「ああ、それでか」

マホ「うん、それで」

セキ「すぐ元に戻してください」

ヤオ「(下唇を突き出してため息)」


ヤオ退場。

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