第四章 ニューアイテム、これで大丈夫!?

31話

(なんでこうなった)


 ヨシヤはがっくりと肩を落とす。

 その横で、そんな彼をどうにか慰めたくてオロオロする巨大な蟻が二匹。


 なんともシュールな光景である。


 時はほんの少し遡る。

 ナタリーとギャレッドという新たな信徒を得て、ハナのレベルが上がった。

 大変喜ばしいことである。


 それどころか、この二人、なんと熱心な信徒になったのだ。

 ハナの好意で与えられた結び紐を大切にすることは勿論のこと、それに似せたものを純金で作らせて崇め奉り、ご近所や社交界でも話し始め、ヨシヤにあれこれと尋ねてハナの容姿を聞き出してブロッサム神像を作り出し、神殿がないと知るやいなや建立して広く知らしめるべきだ! と活動を開始したのである。


 飛躍しすぎだ。

 金持ちコワイ。


 ヨシヤがそう思ったのも無理はない。


 最終的にはヨシヤと同じく彼らの暴走っぷりを案じたハナが、結び紐を通じて信託を与えるという形で彼らを諫め一旦は落ち着いた。


 しかし、暴走とはいえ彼らの行動により信徒が増えたのである。


 この世界で、妊娠・出産はごくごく自然のことわりである。

 そのため、不妊に悩む夫婦は世間一般から見れば異常とされることもあるのだ。

 なんとも閉塞感のある部分が少なからずあり、それに悩む人々がいる。


 それを救ってくれる神がおわすならば、縋りたくなるのも人である。


 まあ信者が増えることはハナがこの世界で存在する生きるために必要なプロセスであるので、ヨシヤとしては大変ありがたいことだ。

 おかげで神域にある自宅もレベルアップしてあれこれ便利になった。


 ちなみにヨシヤの眷属レベルも上がったが、何ができるかは今のところ謎である。


 そんな中、ハナよりも偉い神が現れて人の世に警告を発せ、そう指示を出してきたのだ。

 勿論現世に姿を現すにはレベルが足りないハナに変わって行動をするのはヨシヤだ、それは眷属なので否やということはないが……その内容に彼は胃を痛めているのである。


 そう、下された大神の神託。

 それは信徒の数で力を得ることもあれば消えてしまうこともある神々に対する救済措置のようなものだ。


 大神によるランダムで出された指示に対して成功すれば、神としての名を広め信者を獲得する可能性が高くなる。できなくても大神にとって別になにもない。

 全ての神々に与えられるものではなく、一定の努力が認められて信徒の数が少ない神に与えられたチャンス、そんなものだ。


 それを受け取った夫婦は決めたのだ。

 チャレンジしようと。


 そして冒頭に至る。


「ううう……成功させたい、ハナを喜ばせてあげたい、頑張れ俺……ッ!」


 愛する妻のためならば、ヨシヤだってやる時はやる。

 彼女と結婚する時に誓ったのだ、ハナを幸せにすると。

 ハナはいつだってヨシヤに幸せをくれたのだ、そんな可愛い妻を笑顔にする夫という存在でありたいとヨシヤはいつだって思っている。


 結婚何年目だよ新婚か? そうツッコまれようと構わない。

 むしろ万年新婚だ上等。


 だけど、胃が痛いのだ。


 だって、一般の人に布教活動するのでさえ脂汗が出そうなのに今回チャレンジする先がとんでもない。


「なんで領主様のところなんだよオ~~……」


 しかもつい最近暗殺騒動があったらしく、陳情書を出すことも面会を申請することも一切受け付けないなんていう厳戒態勢まっただ中の、領主相手なのだ。


(大神様、試練がキツすぎるっす……!!)


 ホトホトと嘆くヨシヤに、蟻たちはオロオロしながらも何かを決意した顔でヨシヤに訴える。

 もう最近ではなんとなく意思疎通ができるようになったのは、主従として喜ばしい。


「え? なに? 代わりに行って……」


 ジェスチャーをする蟻たちの行動をヨシヤは読み解く。

 蟻たちも二匹であれこれと動くのがなんとなく可愛いと思えるようになったのだから、ヨシヤも進歩したものである。眷属以外の虫はさっぱりダメだけども。


「いやいや!? 門兵やっつけて中に入るとかだめだよ!? 人質とるとかそういうはなしじゃないからね!?」


 ヨシヤが慌てて止めれば、蟻たちは揃って首を傾げる。

 蟻たちはヨシヤとハナが大好きなので彼らが望むことはなんでもしてあげたいと思っているタイプである。


 そのため、他のことには大変疎い。

 今回もヨシヤが悩んでいる先が領主館であるということまでは理解したが、主を悩ますところをプチッとすればいい! そう結論づけたのだ。


 そんな眷属たちの想い遣り(?)にほろりと涙が零れるヨシヤ。

 果たして彼の流した涙がどんな意味を持つのか、もうそれは彼にしかわからない。


「よ、よお~~~~~し、俺、頑張っちゃうぞォ~……」


 このままここに至って愛する妻の元へは戻れない。

 そしてこのままこうしていたら、蟻たちが痺れを切らして本当に突撃してとんでもないことをやらかすに違いない。

 

 なんとも気弱な気合いを入れて、ヨシヤは意を決して一歩一歩重い足取りで領主の館に向かうのだった。

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