第27話
ヨシヤは緊張していた。
それはもう、人生でこれほどまでに絢爛豪華な部屋に入ったことはないんじゃなかろうかというくらい金ぴかな部屋に招き入れられた。
そしてこれまたテレビで見たことがあるかもしれないような、一目でお高いとわかるようなティーカップに良い香りがする紅茶とたくさんのお茶菓子が目の前に置かれたのだ。
コレは歓迎されている。
間違いなく、歓迎されている。
普通ならばそれは喜ばしいことなのであるが、今のヨシヤはそれがプレッシャーでもあった。
なぜならば、目の前のナタリー・ベルジャヤンとその夫……彼の名前はギャレッドというらしい……が、マーサからの手紙に恐ろしいほど真剣な眼差しを向けているからである。
(ハナぁ~……)
心の中で妻に話しかける。
これまでのレベルアップでお互いが意識を向けていれば念話が使えるとステータスに出ていたので夫婦でこれは便利だなんだとはしゃいでいたものだが、よくよく考えると不便であった。
だって、いつどのタイミングで相手が自分に話しかけているのかなんてわからないからである!!
『ヨシヤさん?』
しかし神はいた。むしろ彼の妻は神だった。
呼びかけておいて即返事があるとは思っていなかったヨシヤは思わずビクッとしたが、幸いにも手紙に集中していた夫妻は気がつかなかったようだ。
同じ室内にいる執事らしい人物もただじっとしているので、気にされてはいないのかもしれない。
『ハ、ハナ……良かった、気にしてくれてたんだね!』
『ええ、ちょうどどうしてるかなぁってエイトと話していたのよ。どうしたの?』
『マーサさんの友達に会えたんだけどさあ……』
目の前にいる夫妻に見えるゲージについて伝えると、ハナも一生懸命ヨシヤを通して彼らの様子を見ているらしい。
まだ女神としてのレベルが低い彼女にしてみれば、信者でもない人間を鑑定するのはなかなか難しいらしかった。
それでもそれが可能であるのは、眷属であるヨシヤがそこにいるからだ。
『ううーん。どうやら……その……』
『うん』
『そちらのご夫婦、男性不妊ね……怪しげなお薬を飲んでいるみたい』
ヨシヤはハナのその見立てに思わずパッとギャレッドを見た。
ちょうどその時、彼らもまた手紙から顔を上げたところでばちりと視線がかち合う。
「あっ、ええと……」
「……手紙を拝見して、確かにマーサからのものであるとわかりました。わざわざ、ありがとうございます」
ヨシヤがどうするか迷っていると、ギャレッドが先に口を開いた。
その表情はとても申し訳なさそうで、そんな彼の隣でナタリーはうなだれて今にも泣きそうな顔をしているではないか。
(えええ、一体どんな内容が書いてあったらそうなるんだ……!?)
疎遠になっていた友人から近況を知らせる手紙、それを受け取ったのであれば喜びが見えそうなモノだが。
ヨシヤはどうしていいかわからず、彼らの顔をただ見返すしか出来ない。
「……マーサが、この町を離れたのは、わたしのせいなのです」
沈黙に耐えられなかったのか、ナタリーがぽつりとそう言った。
ナタリー自身、マーサに対して心配が過ぎると自覚はあったのだという。
そもそも彼女は資産家の一人娘ということで、両親から大変大切にされた箱入り娘であった。
マーサと知り合い世界が広がったものの、施設育ちのマーサとは価値観が違うことが多々あり、お互いそれを話して納得し合う形で友情を育んだのだそうだ。
だが、逞しく生きざるを得ない環境で育ったマーサと、それこそ彼女自身が何もしなくても誰かが世話をしてくれる環境にいたナタリーとでは行動パターンが違いすぎるのだ。
ナタリーはマーサの行動力を尊敬すると同時に、自分であれば決して許されない、危険だと止められることの数々であったことから純粋に心配していたのだ。
それが友人のストレスになっているだなんて、思いもしなかった。
決定的になったのは、マーサの妊娠がわかった頃だろうか。
より一層過保護になってしまったナタリーに、手紙を残して消えてしまったマーサ。
「自身が妊娠出来ない状況で友人のそれは本当に、本当に嬉しかったのです」
マーサが消えて手紙に記されていた負担、それを知って納得出来ないナタリーを諭してくれたのはギャレッドだったのだという。
「夫婦でこうしてもっと話し合っていれば、マーサさんにも負担をかけずに済んだのだと思うと……本当に申し訳なく思っているんです」
(この人達もイイヒトそうだなあ……)
「マーサはここから離れた村で暮らしているのですね……今は出産に向けて順調だと書いてありました。ヨシヤさんのおかげだとも……詳しい事情を、知りたければヨシヤさんに聞くようにとも」
(マーサさあああああん!?)
唐突な! キラーパスが! ヨシヤを襲った瞬間であった!!
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