第26話

 それから。

 ヨシヤはきちんと、大きな町まで無事にたどり着けていた。

 実を言うと少々ズルをして、エイトの子供たちに道具袋ポータルを途中まで運んでもらい、ある程度近づいたところから歩いたのである。


 しかしながらこの異世界暮らしのおかげで、メタボ街道まっしぐらであったヨシヤもほんの少し体型改善が見られている。

 それもこれも日々のフィールドワーク(という名の蟻たちとのお散歩)と畑仕事(主に収穫) 、それから行商(村に行って物々交換と小銭稼ぎ)のたまものである!


「うわあ……」


 腰に道具袋を下げ、リュックに蜂蜜の瓶を入れたヨシヤはどこから見てもおのぼりさんであった。

 大きな町だけあって危険物の持ち込みや犯罪者が入っては困るということで入り口で検問もあり、彼は緊張しつつもなんとか営業スマイルを浮かべてみせる。


「商人ギルドに登録したくて来ました」


「紹介状か何かあるのか?」


「あ、はい! 以前この町で暮らしていた、学者のリチャードさんからいただいています」


 リチャードは親切にも二枚の紹介状を書いてくれていた。


 一つはヨシヤを商人ギルドに所属させてもらえるよう知人にあてて書いたものであり、もう一つは町に入るためのものである。


 基本的には町に入るために検問を受け、通行量を支払うものであるそうだが、ある一定の条件を満たした人物からの紹介状があるとそれらがパスされるというのだ。


(もしかしなくても、リチャードさんって結構すごい人だった……?)


 学者だったとしか聞いていないが、紹介状が書けるというだけでもしかすれば実は……ということを思い浮かべ、ヨシヤは胃をキリキリさせる。


 しかしおかげで面倒な手続きをパスして町に入れたのだ、感謝の気持ちをきちんと行動で返さねばならない。

 ヨシヤはそういうところは生真面目な男なのである!


「ええと……ナタリー・ベルジャヤンさん……か」


 ご丁寧に地図まであれば、迷いようもない。

 幸いにも町の中は活気に満ちあふれてはいても、見慣れぬおっさんを騙したり喧嘩を売ったりするようなタイプの人間はいないようだった。

 ヨシヤとしてはゲームやアニメの世界のような展開を想像していて、少しばかり恐怖を覚えていたくらいだったので心底ほっとしたところだ。


「あ、すみません。こちらはベルジャヤンさんのお宅でよろしいでしょうか」


「はい、そうです。どちらさまですか?」


 大きな門の入り口に立つ門番に歩み寄り、穏やかに声をかければ相手もにこりと笑って応対してくれて、ヨシヤは安心する。

 紹介状も何もまだ出していないのにこの対応ということは、見た目でまず判断せずに丁寧にしろと上の人間が教え込んでいるからに違いない。


 で、あれば、紹介状があるヨシヤのことを無下に追い返すこともないだろう。


(良かった、結果が出せるかどうかはわからんが、ちゃんと義理を果たすための第一歩は成功だ!)


 内心ガッツポーズをしつつ、ヨシヤは懐にしまっていたマーサからの手紙を取り出し、差し出した。


「私は旅の行商人でヨシヤと申します。立ち寄った村でマーサさんとリチャードさん夫妻に出会い、こちらをナタリー・ベルジャヤンさんに届けてほしいとお願いされて参りました。できましたらば、ご本人に手渡しでとお願いされておりますので、お取り次ぎ願えませんでしょうか」


「少々お待ちください」

 

中に入っていった門番を待つこと数分、屋敷と言っていい建物の中から一組の男女が現れた。

 そんな彼らの上にはヨシヤにしか見えないゲージがこれでもかというくらい主張していたのである。


(ああー……!!)


 話を聞いてもらえれば、妻に見立ててもらって明るい未来は見えるだろうか。

 ヨシヤはそう願わずにはいられないのであった。

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