白銀の国
広大な大地に真っ白な雪原がどこまでも続く、『白銀の国』アルベリオ。
オルニア帝国本土のはるか北方に、その国はあった。
そこに古くから住む「アルベリオ」(これも帝国人が勝手に命名した名称に過ぎないが)の人々は、固有の言語や文字を持つ他、帝国が属する大陸文化圏とは異なる独自の文化を形成していた。
現在は帝国領となっており、アルベリオから出稼ぎのために帝国本土に移住してくる人々も大勢いる。
そんなアルベリオ人には、特筆すべき特徴があった。その名に見合うほどの、幻想的な容姿である。端的に言えば、色素が薄く、「白い」。肌の色も、髪の色も、瞳の色も薄く、全身が雪のように真っ白だった。
このような容貌の人種は、帝国はもちろん、他のどの国や地域にも存在しない。彼らは、その稀有な容姿から、伝説上の妖精がこの世界に顕現したと形容されることもあれば、差別や偏見、人身売買の対象にもなってきたという暗い歴史も持っていた。
とは言え、現在の帝国において、特に首都のリースではアルベリオ人との共生が進んでいる。街中では真っ白なアルベリオ人の姿を見かけることもそう珍しくはなくなってきている上、帝国の名誉市民権を得る者や、帝国人と全く同じ教育を受けて育つ者、帝国に帰化する者も存在していた。
帝国の軍隊や憲兵隊、警察機構も、健康で若いアルベリオ人の獲得に意欲を示していた。
彼らを雇うことがアルベリオ人に対しての融和政策にもなるという目論見もあったのだが、アルベリオ人の生来の恵まれた体格や高い身体能力を買っていた結果でもあった。そして、幸か不幸か、出稼ぎや立身出世という目的を持ったアルベリオ人の若者との利害が一致していたのである。
「植民地出身」というハンデを負いながらも、若干十代で少尉に昇格したミーシャもまた、帝国への帰化を認められたアルベリオ人の一人である。
彼もまさに、雪のような肌に白銀に輝く髪、透き通るような薄いアクアマリンの瞳をしていた。まつ毛ですらも色素が薄く、太陽の光に透かされて、そのまま透明な空気の中に消え入ってしまいそうである。かと思えば、目鼻立ちはくっきりしていて端正なお陰で、どう足掻いても人目を引いてしまうことは間違いない。一つ残念なことがあるとすれば、それは彼の職業柄、顔に傷を作ってしまいやすいということかもしれない。
アルベリオ人らしい長い手足と高い身長に恵まれてはいるが、彼の誠実さと真面目な性格に加えて、ほとんど人たらしとも言えるような爽やかさを持ち合わせている故に、軍人にありがちなむさ苦しさや威圧的な印象を他人に与えることはほとんどなかった。
彼は毎日出勤するたびに、すれ違う同僚やその他の人間に対しても、その爽やかな微笑みを浮かべながら、律儀に軽い会釈をしていくのだった。その人当たりの良さ(馴れ馴れしさ)たるや、質実剛健な気質の軍の中では、明らかに異質であった。
帝国人(殊に本土の人間)の植民地出身者への態度は二分化される。彼らを自分たちと同格の同僚と認めて受け入れる者と、自らを支配者側だと認識し、彼らを蔑視する者とである。
前者のような人間の数が、まだまだ少ないのが現実だった。
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