第134話 協力

「そんなことが本当に出来るのか!」

「出来るのかじゃない。やるんだ」

「ど、どうやって!」

「俺は最強だ。この力を持って武力で反対するものは潰す! そして、恨みは全て俺が買う。そうすれば……いずれ……理解し合える時が来ると俺は信じている」

「……」

「頼む。人間にも……分かり合いたい。争いたくないと思う者達がいるんだ。協力してくれ」

「!」


 俺はそう言って頭を下げる。

 今まではこんなことはしてこなかった。

 でも、これは……俺と……リーサが望んだことだ。

 最強で言うことを聞かせるのではなく、魔族の者達みんなが受け入れてほしい。


「わたしは信じる! 彼は……捕らえられていたわたしを人間の砦から助けてくれたんだから!」


 そう叫ぶ女性をみると、国境の砦に捕らえられていて、助け出した女性だった気がする。

 彼女は震えながらも、声をあげてくれた。


「俺も彼らに助けられた! その時は魔族の見た目だったけど! それでも助けてくれたんだ! だからやってみたい!」


 魔王城に来る道中で、助けた人も声をあげてくれた。


 そういった者達が増え、俺の言葉は……ある程度受け入れられた。

 もちろん、全てではない。

 でも、ほんの少数でも受け入れられれば、それだけで……前進したことと同義だ。


 そんな事を考えていると、ヴァニラが隣に降り立つ。


「なかなかやるではないか。後はあたしがやろう」

「任せた」

『諸君! もちろん不安はある! だが、これが成功したら、こんな荒野に追いやられなくてもすむ! もっと豊かな土地で生活できるかもしれない! 共に変わる覚悟を持とうではないか!』


 魔王はそうやって実利じつりの面からも民たちを説得し、落ち着かせることに成功した。


 そして、俺達は人間の国に戻ることになった。


「では……行くか」

「うん!」

「はい」

「どうやって行くのだ?」


 俺達のメンバーは4人になっていた。

 本当は3人で帰って説得してから……ということを思っていたのだけれど、魔王が、


「あたしはお前の支配下にある。なら、ついて行くのが当然だろう」


 ということを言いだして聞かなかったのだ。


 そして、移動はさっさと……この空気が冷めないうちに、ということで俺が3人を運んで走っていくことになった。

 これが一番速い。


 運び方は簡単で、『結界魔法シールド』で3人を囲み、俺がただ走る。

 それだけで1日もあれば到着するだろう。


「よし。到着した」


 ということで、かなり頑張って走って到着することが出来た。

 1日かかるかと思ったけれど、夜の間に間に合った。


「は、速すぎるよ……シュタル」

「景色が……景色がもう……」

「シェイクされる……」


 彼女達はぐったりとしている。

 全く、ただ乗っていただけなのに情けない。


「さっさと行くぞ」

「ま、待ってください……『回復魔法ヒール』」


 リュミエールが回復魔法を使って、3人の体調を回復させた。


「もういいか?」

「う、うん……なんか気持ち悪さがどこかに残っている気がするけど……」

「私も……ちゃんと回復させたはずなのですが……」

「なんだろうな……この気分は……」


 そんな事を話している彼女たちを連れて、俺は王城へ行く。


「ふむ……面倒だな。よっと」


 俺は王城に向かう時に、兵士に止められるのが面倒だったので、国王の部屋を直接目指す。


 そして、こんな夜遅くなのに本を読んで勉強している国王に声をかけた。


「よう。元気だったか?」

「ん? なにや……師匠!?」

「久しぶりだな。元気にしていたか?」

「一体どうしてこんなところに……?」

「何、ちょっと頼みたいことがあってな」

「頼み……? 何かわかりませんが、出来ることなら……」

「そうか。では魔族との融和を国家単位として推進してほしい」

「なるほど、魔族との融和ですか、承知しま……出来るわけないでしょう!? いくら師匠とはいってもそれは……」

「何が障害だ?」

「え……それは……勇者がどう思うか……」

「アストリア。問題ないな?」

「うん! ボクはシュタルのことを応援するよ」

「勇者!? なぜこんなところに!?」

「俺が探していただろう?」

「な、なるほど……それで……光の巫女も……。し、しかし、魔族側がなんというか!」

「魔族側はあたしが抑える。なら問題はないか?」

「うん? そこにいるのは……魔族!? どうやって入った!?」

「俺が連れて来た」

「師匠が!?」


 国王は驚いて目が飛び出るほどに俺を見つめていた。


「そうだ。それも魔族との融和を推進する為だ。これで問題は無くなったな?」

「そ、それは……」

「お前達はいつまで魔族と争い合う? 殺し合いを続けるんだ? もう……十分殺しただろう?」

「……」


 国王は俺の言葉にじっと黙り込み、何かを考えている。


 そして、彼なりに決まったのか、口を開いた。


「師匠は……魔族と人間が殺し合わなくてもいい世界を作りたい。そう捉えていいでしょうか?」

「それでいい」

「なるほど……。確かに、殺し合うよりも、共に力を合わせた方がより良い方に向くとは思いますが……ここでそう宣言しても、他の都市が許さないでしょう」

「では、他の都市を説得したらいいんだな?」

「え?」

「よし。聞いたなお前達。早速他の都市に行くぞ」

「え? 師匠?」

「国王として……その言葉、たがえるなよ」

「師匠ー!?」


 俺は叫ぶ国王を置き、今までの街に向かった。




「シュタルさん!」

「久しぶりだな、セレスタ」


 俺はリュミエールと出会った街、セントロに来ていた。

 そして、領主の館に来ると、助けたセレスタが領主の秘書をしていたのだ。


「はい。シュタルさんもお元気そうで」

「ああ、領主に会えるか?」

「はい。シュタルさんのお願いであればなんでもお聞きしますよ。こちらへどうぞ」


 彼女に案内された部屋では、領主が忙しそうに仕事をしていた。

 彼は俺達が入ると顔をあげて、首を傾げる。


「はて。誰だったか?」

「俺はシュタル。最強の魔剣士だ。率直に要求を伝える。魔族との融和に賛成してくれ」

「はぁ!? 突然何をいうかと思えば貴様、それでも人間……」

「賛成します」

「セレスタ!?」


 領主は驚いて彼女を見ているけれど、彼女は澄ました顔のままだ。


「シュタルさんが魔族と融和を結ぶ。そう決められたのでしょう? なら力を貸しましょう。その方がよくなります。それに……もし反対されるのであれば、私はこの仕事を辞めます。よろしいですか?」

「それはダメだ! 家臣たちが減った中でお前が居なかったらどうなっていたことか……」

「であれば、答えは1つですね?」

「むぅ……わかった。約束しよう。だが、他には一体だれがこれに賛成している?」

「すでに魔王と国王はこちら側につけた」

「国王……に魔王まで!?」

「そうだ。ヴァニラ」

「あたしが現魔王のヴァニラだ。よろしく。そう話すようなことはないと思うがな」

「そんな……本当に魔王なのか?」

「そうだぞ。これで納得したか?」

「むぅ……わかった。そこまで話が進んでいるなら仕方ない。協力しよう」

「感謝する」


 俺達はこうして仲間を増やしていった。


 そして……。

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