第125話 最高


「【最高】……!?」


 俺は奴が言っていることが理解出来なかった。

 しかし、奴は高笑いを続けながら切りかかって来る。


「おいおい! どうしたそんな驚いた顔をして! まさか初めてか!?」

「ああ……そうだな。そういう……お前のような存在とは初めてだ」

「なんだよ! なんだよ! じゃあ……俺が勝っちまうぜ!?」


 奴はそう言いながら剣圧倒的な速度の剣を振ってくる。

 しかし、【最高】スキル……ということか?

 だが【最高】ってなんだ?

 スキルなのか?

 そう思ったけれど、俺のスキルも、【最強】……であることを考えて行くと、別におかしくはないように思う。


 元々スキル等、神から与えられるもの。

 一応、与えられる対象が望んだり、想いを強く持てば得られることがあると言われているよくわからないものなのだ。

 ならば、【最高】などという物があってもおかしくはない。


 そして、俺は……その奴の言葉に答える。


「なるほどな。しかし勝てるのか?」

「何を言っているんだ!?」


 奴の剣戟は鋭く、重たくなる。

 しかし、それは俺には効かない。


「決まっている。俺は【最強】だ。貴様の能力で勝てるとは……思わないが?」

「はっはぁ! そんなことは知っているさ! だが、勝つのはおれだ!」


 奴は俺のスキルを気にした風もなく、楽しげに向かってくる。


「【最強】は確かに強い! 確かに最も強いと言われているだろうさ! だが! それでも、おれは最高なんだ! 最強に強いお前と戦い! 最強に強いお前に勝ち! そして、おれはおれの存在を持って最高だと証明する! それが! それが俺がもっとも目指すべき道なんだからな!」


 奴は話しながらであるはずなのに、楽しそうにそう叫びながら攻撃を仕掛け続けてくる。


 自分が勝つことを一切疑っていない。

 それほどに、彼は自身のスキルを信頼……いや、自身を信頼しているのだろう。


 俺と同じように、どんなことがあろうとも勝ってきた。

 最高の成果を手に入れて来た。

 それが、彼の行ってきた自信に裏打ちされているのだろう。


「いいな。そんな……そんなお前を叩き潰し、それを証明することが、俺が最強であることの証明か」

「はっはぁ! その気持ちで来てくれねーとなぁ!」


 奴はそう言って、俺から少しだけ距離を取る。


「こっちも遊んでいる訳には行かないんでな! 『能力付与三重エンチャントトリプル:絶対切断』『能力付与三重エンチャントトリプル:崩壊領域』」


 奴は能力を使い、俺ではなく、この世界を切り刻もうとする。


 能力的にこの世界を壊そうとしているのだろう。

 俺が簡単にこの世界を作れるように、奴も簡単に壊せるのだろうから。


 でも、そうはさせない。

 奴の自身の得意なフィールドに持ち込んで戦う事もまた、必要なことであるからだ。


「『月世界ルナワールド』」

「これは!?」


 俺は新しい魔法を発動する。

 この魔法は俺から近くの場所に、重力が10分の1のフィールド……新たな世界を作り出す物だ。

 そして、この魔法は世界を作り出す魔法の中ではもっとも簡単な物。

 ということは……。


「何!? 壊れねぇ!?」

「いいや、壊れているさ」


 俺は瞬時に奴に近付き、そのまま剣で切り結ぶ。


 奴は慌てて周囲を確認するけれど、薄暗い世界は変わっていない。


「嘘をつけ!」

「嘘じゃない。お前がこの世界を壊す前に新しい世界を作った。それだけの話だ」

「は……そんな……そんな簡単に世界を構築することが出来るっていうのか!?」

「当然だ。俺は最強だぞ? 『月世界ルナワールド』」

「切り結びながらだと!? しかも、体が思ったように動かない!?」


 俺はライデンと剣を合わせながら戦いを始める。

 この世界を守るように、そして奴の体の足や手の部分の重力を変えていつもの動きを制限する。


「体全体のデバフなら慣れているだろうが、一部分のデバフは慣れていないだろう?」

「確かに慣れてねぇ! だが、そんな壁を乗り越えて、それで勝利を掴む! それが、それが【最高】っていうことだと思わねぇか!?」


 奴は体が思うように動かず、いつもよりの性能が下がっているはずだ。

 だが、奴はそんな事は関係ないとばかりに剣を振るい合う。

 それどころか、こちらに攻めて来るほどだ。


「確かにな。だが、俺は最強なんでな。負けそうになること等ないんだよ」

「はっはぁ! その自信、是非ともぶち壊してやりたくなるってもんだぜぇ!」


 奴はそう言って、俺と剣を切り結びながらも何かを発動させてくる。


「『能力付与十重エンチャントテンス虚構創生きょこうそうせい』」


 奴はそう言うと、奴自身の体が10個に分裂した。


「はっはぁ、まだまだこれからだぜ?」


 そう話す奴の目は、全力で俺を狩りに来ている瞳をしていた。


 奴は10体に分裂し、俺ととり囲むようにして向かってくる。


「なるほどな。1人では勝てない。なら、数を増やせばいい……か。舐められた物だな」

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